どんな数も主役級【読書】 4
読み終わったとき、
もしも学生時代にこの小説に出会っていれば、数学をもっと好きになっていたかもしれないな。
と思った。
事故で80分しか記憶が持てなくなった数論専門の元大学教授である“博士”の頭の中にひとたび入り込んだ日常に転がっている他愛もない数字たちは、次に会うときにはもうただの数字ではなくなっていた。
家政婦の私の靴のサイズ24は、
携帯番号576の1455は、
博士の腕時計の裏に刻まれた通し番号284と私の誕生日2月20日は、
私が友愛数を探そうといろんな数で試していた時に発見した28は、
完全数を説明する時に博士が使った18と14は、
博士は、数字が持つ意味や数学の計算を教えてくれることと、こどもを褒めてあげることに労力を惜しむことはなかった。
博士が一生覚えることのできない家政婦の私とその息子ルートは、博士が晩年施設に入った後もずっと、初めて出会ってから10年以上変わらず、博士のことを忘れることはなくて、それどころか博士が愛した数学を自分たちも同じように愛するようになって、毎日新しい発見を積み上げていく。そして今日も博士とはじめましてのあいさつを交わしたあとに、神様の手帳を覗き見させてもらう。
いちばん最後、褒めたたえようとしてルートを抱きしめた弱々しくて震える博士の両腕は、絶対に埋まることがない、止まった記憶と動き続ける記憶の間の溝を、今までふたりが共有したたくさんの数字たちが埋め尽くして地続きにしてくれようとするのを守ってるみたいで、とっても美しかった。