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どんな数も主役級【読書】 4

「数は人間が出現する以前から、いや、この世が出現する前からもう存在していたんだ。・・・自分たちで発明したのなら、誰も苦労はしないし、数学者だって必要ない。数の誕生の過程を目にした者は一人もいない。気がついた時には、もうすでにそこにあったんだ」
「・・・何故1だけ大きい過剰数は見つからないんでしょう?」
「理由は、神様の手帳だけに書いてある」

読み終わったとき、

もしも学生時代にこの小説に出会っていれば、数学をもっと好きになっていたかもしれないな。

と思った。

事故で80分しか記憶が持てなくなった数論専門の元大学教授である“博士”の頭の中にひとたび入り込んだ日常に転がっている他愛もない数字たちは、次に会うときにはもうただの数字ではなくなっていた。


家政婦の私の靴のサイズ24は、

「ほお、実に潔い数字だ。4の階乗だ」

携帯番号576の1455は、

「5761455だって?素晴らしいじゃないか。1億までの間に存在する素数の個数に等しいとは」

博士の腕時計の裏に刻まれた通し番号284と私の誕生日2月20日は、

「・・・君の誕生日は2月20日。220、実にチャーミングな数字だ。・・・問題なのは284だ。さあ、皿なんか洗っている場合じゃない。220と284なんだよ。・・・見てご覧、この素晴らしい一続きの数字の連なりを。220の約数の和は284。284の約数の和は220。友愛数だ。滅多に存在しない組み合わせだよ。・・・神の計らいを受けた絆で結ばれ合った数字なんだ。美しいと思わないかい?」

私が友愛数を探そうといろんな数で試していた時に発見した28は、

「28の約数を足すと、28になるんです」
「ほう・・・完全数だ。・・・完全の意味を真に体現する、貴重な数字だよ。28の次は496。・・・その次は8128。その次は33550336。次は8589869056。数が大きくなればなるほど、完全数を見つけるのはどんどん難しくなる」

完全数を説明する時に博士が使った18と14は、

「・・・完全数以外は、約数の和がそれ自身より大きくなるか、小さくなるかだ。大きいのが過剰数、小さいのが不足数。実に明快な命名だと思わないかい?18は1+2+3+6+9=21だから過剰数だね。14は1+2+7=10で、不足数になるわけだ」


博士は、数字が持つ意味や数学の計算を教えてくれることと、こどもを褒めてあげることに労力を惜しむことはなかった。

博士が一生覚えることのできない家政婦の私とその息子ルートは、博士が晩年施設に入った後もずっと、初めて出会ってから10年以上変わらず、博士のことを忘れることはなくて、それどころか博士が愛した数学を自分たちも同じように愛するようになって、毎日新しい発見を積み上げていく。そして今日も博士とはじめましてのあいさつを交わしたあとに、神様の手帳を覗き見させてもらう。

いちばん最後、褒めたたえようとしてルートを抱きしめた弱々しくて震える博士の両腕は、絶対に埋まることがない、止まった記憶と動き続ける記憶の間の溝を、今までふたりが共有したたくさんの数字たちが埋め尽くして地続きにしてくれようとするのを守ってるみたいで、とっても美しかった。

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