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中国における主要AI企業の動向

中国は近年、人工知能(AI)分野で急速な発展を遂げており、百度、阿里巴巴、騰訊などの大手テック企業から、科大訊飛や商湯科技のような専門AI企業まで、多くの企業が世界的な注目を集めています。政府による強力な支援策と戦略的計画の下、中国のAI企業は音声認識、画像認識、自動運転、生成AIなど様々な領域で技術革新を進めています。本レポートでは、中国の主要AIテック企業について、企業概要と主要技術、最新の技術開発トレンド、政府政策の影響、競争環境、そして国際展開と地政学リスクを取り上げ、最新情報に基づき分析します。

企業概要と主要技術・製品

まず調査対象となる中国の主要AI企業について、それぞれの概要と得意分野を整理します。

  • 科大訊飛(iFlytek) – 1999年に中国科学技術大学のスピンオフとして創業された音声認識技術のリーディング企業です。本社は安徽省合肥市にあり、中国移動など国有企業からの出資も受けています (iFlytek - Wikipedia)。音声認識・音声合成や自然言語処理を強みとし、音声入力プラットフォーム「訊飛入力法」や自動翻訳機、教育向けAI学習ソリューションなど音声AIを活用した多数の製品を展開しています (iFlytek - Wikipedia) (iFlytek - Wikipedia)。中国政府からは音声認識分野の「国家AIオープンイノベーションプラットフォーム企業」に指定されており (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、中国語音声の識別・合成技術で国内トップクラスの実績を持ちます。

  • 百度(Baidu) – 2000年創業の中国検索エンジン大手で、近年はAI技術企業へと変貌を遂げています。本社は北京市。検索サービスで培った自然言語処理やデータ蓄積を活かし、AI研究に10年以上前から投資してきました (Baidu - Wikipedia)。現在ではソフトウェア(検索AI、対話AI)、自社開発のAIチップ「昆仑」シリーズ、クラウドインフラ(百度AIクラウド)、基盤モデル(ERNIE)から応用アプリまで「フルスタック」のAIエコシステムを構築する数少ない企業です (Baidu - Wikipedia)。特に自動運転分野ではプラットフォーム「Apollo(阿波羅)」を2017年に立ち上げ (Baidu - Wikipedia)、ロボタクシー事業「Apollo Go」で11都市にわたり完全自動運転の実証展開を行うなど先行しています (Baidu - Wikipedia)。政府からは自動運転分野のAIチャンピオン企業(国家AIチーム)に指定されました (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。

  • 阿里巴巴(Alibaba) – 1999年創業の電子商取引大手で、本社は杭州市。ECプラットフォームの運営を通じ膨大なデータと推薦システムなどAI活用の実績を持ち、近年はクラウドコンピューティング「阿里雲(Alibaba Cloud)」事業を通じてAIインフラ提供にも注力しています (Alibaba Cloud Releases LLM Tongyi Qianwen 2.0 and Industry-specific Models-Alibaba Group)。阿里雲は中国国内クラウド市場で高いシェアを持ち、スマートシティ構想「城市大脳(City Brain)」など都市インフラ向けAIソリューションも展開しています (Alibaba Cloud Releases LLM Tongyi Qianwen 2.0 and Industry-specific Models-Alibaba Group)。2019年には自社開発のAI推論チップ「含光800(Hanguang 800)」を発表し、機械学習タスクの高速処理を実現しました (Alibaba unveils self-developed AI chip for cloud computing services)。政府からはスマートシティ分野のAIオープンプラットフォーム企業に選定され (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、金融や物流を含む幅広い事業領域でAI技術を実装しています。

  • 華為(Huawei) – 1987年創業の通信機器・スマートフォン大手で、本社は深圳市。通信インフラとデバイスで培ったハード・ソフト技術力を背景に、AI向けの専用半導体やコンピューティングプラットフォームを開発しています。代表的なものにデータセンター/クラウド向けAIチップ「昇騰(Ascend)」シリーズや、スマートフォン向けSoC(麒麟チップ)内蔵のAIプロセッサーが挙げられます (iFlytek - Wikipedia)。さらに自社AIクラウドサービス上で多言語大規模モデル「盤古(PanGu)」を開発し、産業向けの大規模モデル提供も開始しました(2023年7月発表) (Huawei PanGu - Wikipedia)。2019年には中国政府よりAI分野(ソフトウェア・ハードウェア融合)の国家チャンピオン企業に指定され (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、制裁下でも自給自足の半導体供給網を構築しつつAI技術を各産業に適用しています。

  • 騰訊(Tencent) – 1998年創業のソーシャル・ゲーム大手で、本社は深圳市。SNS「微信(WeChat)」やゲーム事業で得た技術・資金を元にAI研究にも積極投資しており、音声・画像処理、自然言語処理、医療AIなど幅広く展開しています。特に医療分野ではAI医療影像解析「騰訊觅影(Miying)」プロジェクトを立ち上げ、がんの早期診断支援などに取り組んできました。政府からは医療分野のAIモデル企業に指定されています (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。2023年には自社開発の大規模言語モデル「混元(Hunyuan)」を発表し、微信やクラウドにおける数十のサービスに統合するなどAIプラットフォーム化を加速させています (China's Tencent debuts large language AI model, says open for enterprise use | Reuters) (China's Tencent debuts large language AI model, says open for enterprise use | Reuters)。また世界有数の投資会社として海外のAIスタートアップやゲーム会社への出資も多数行い、グローバルなAIエコシステムに影響力を持っています。

  • 商湯科技(SenseTime) – 2014年に香港中文大学の研究者らによって設立されたコンピュータビジョン(CV)分野のユニコーン企業です。顔認識技術に強みを持ち、監視カメラ向け映像解析やモバイル向けの美顔・ARエフェクト技術などで急成長しました。2018年に政府からビジョン(視覚AI)分野の国家AIオープンプラットフォーム企業に指定され (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、一時は世界で最も企業価値の高いAIスタートアップとして評価されています (中国AI企業上位50社発表、首位はカンブリコン 胡潤研究院 | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア)。主な製品・サービスは、公安向けの顔認証システム、スマートシティ向けの映像解析プラットフォーム、スマホOEM向けAIカメラソフト等です。近年は汎用AI「SenseNova(商湯方舟)」シリーズを開発し、チャットボット「SenseChat」や画像生成AIなど大規模モデル分野にも進出しています (Chinese AI firm SenseTime unveils chatbot "SenseChat" | Reuters)。

(大株主はソフトバンクグループとのこと)

  • 旷視科技(Megvii) – 2011年創業のコンピュータビジョン企業で、顔認識プラットフォーム「Face++」の開発元として知られます。創業者は清華大学出身で、同社の顔認証技術はスマートフォンの顔解錠機能や大手金融機関の本人確認システムなど幅広く採用されました。2019年に中国政府から映像認識・物体検知分野のAI企業として指定を受け (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、公共安全や金融分野での実績を重ねています。また近年はIoTやロボティクス領域にも事業を拡大し、倉庫管理用ロボットや自動化システムの提供も行っています。米国からは2019年に他のCV企業とともに制裁対象に指定されましたが 、中国国内市場や新興国向けの事業で成長を続けています。

(※上記以外にも、依図科技(Yitu)、雲從科技(CloudWalk)などの画像認識スタートアップ、寒武紀科技(Cambricon)のようなAIチップ設計企業、ByteDance(字節跳動)のようにアルゴリズム駆動のプラットフォーム企業も中国AI分野で重要な存在ですが、本稿では主要企業の一部を抜粋しています。)

最新の技術開発とトレンド

中国のAI企業はここ数年、生成AI(Generative AI)や自動運転専用半導体など最先端の技術領域で著しい進展を見せています。また研究開発や特許の件数においても世界トップクラスとなりつつあります。以下、主なトレンドと各社の最新動向を概観します。

  • 大規模言語モデル(LLM)と生成AIの競争:OpenAIのChatGPT公開(2022年末)を機に、中国でも生成AI競争が加速しました。2023年には各社が独自のChatGPT対抗モデルを相次いで発表し、百度は「文心一言(ERNIE Bot)」を公開して同年10月には最新版「ERNIE 4.0」をリリースしました (Baidu - Wikipedia)。阿里巴巴も対話型LLM「通義千問(Tongyi Qianwen、英名: Qwen)」を開発し、2023年4月に初版を発表、同年10月にはパラメータ数数千億規模の「通義千問2.0」にアップデートしています。阿里雲によれば新モデルは言語理解や数学応答など多分野のベンチマークで他のLLMを上回る性能を示したとされ、企業向けにAPI提供も開始しました。騰訊も9月に自社最大級となる1000億パラメータ超のLLM「混元(Hunyuan)」を発表し、既に社内50以上のプロダクトで基盤として活用しているといいます (China's Tencent debuts large language AI model, says open for enterprise use | Reuters)。騰訊は混元について「長文の文章生成や一部数学問題の解決でChatGPTを上回る」と主張しており、中国国内で「百模争鳴」と呼ばれる多数のAIモデル競争の象徴となりました (China's Tencent debuts large language AI model, says open for enterprise use | Reuters)。音声AIの科大訊飛もGPT対抗の大型モデル「訊飛星火(SparkDesk)」を2023年5月に初公開し、わずか数ヶ月で2.0・3.0と迅速に改良、2024年8月には性能がGPT-4に匹敵するとして「Spark 4.0」を発表しています (iFlytek - Wikipedia)。商湯科技は汎用AIモデル群「SenseNova」を立ち上げ、その一環としてチャットボット「SenseChat」を2023年4月に披露しました。このように、中国の大手テック各社とAI専業企業はこぞって生成AIモデル開発に注力しており、研究者・スタートアップによるオープンソースの大規模モデル(例えば清華大学系の智譜AIによるChatGLMや百川智能のBaichuan系列など)も続々と登場しています。国際的な評価では、中国のLLMは英中バイリンガル性能など特定の指標で米国のモデルに迫りつつあるとの分析も出ています (How Innovative Is China in AI? | ITIF)。

  • 自動運転とモビリティAI:自動運転車の開発・実用化も中国AIの注目トレンドです。百度の「Apollo」はオープンソース戦略で多くのパートナー企業を集め、自動運転車両や高精度地図、シミュレーターを提供してきました (Baidu - Wikipedia)。その成果としてロボタクシーサービス「Apollo Go」は2024年4月時点で無人運転による延べ600万回の乗車サービスを達成し、武漢市など11都市で400台以上の車両が走行しています (Baidu - Wikipedia)。華為も自動車市場に参入し、HarmonyOSを介した車載AIや、自社のLiDAR・カメラ技術を搭載した高度運転支援システム(ADS)を自動車メーカーと共同開発しています。特に長安汽車などと提携した高級EVでは「Huawei Inside」と呼ばれる統合ソリューションを提供し、自社AIチップAscendによる自動運転演算を実現しています。また阿里巴巴系のスタートアップ(平頭哥半導体)が開発した自動運転用チップや、滴滴出行小馬智行(Pony.ai)文遠知行(WeRide)といった新興企業も台頭し、11社が政府の自動運転AI企業リストに名を連ねました (中国AI企業上位50社発表、首位はカンブリコン 胡潤研究院 | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア)。このように中国では大手からスタートアップまで自動運転AIへの参入が相次ぎ、実証実験やタクシー運用で膨大な走行データを蓄積している点が強みです。

  • AI研究開発力と特許動向:中国はAI研究の論文数や特許出願件数で世界トップとなりつつあります。学術面ではAI分野の論文発表数で中国が世界をリードしており (How Innovative Is China in AI? | ITIF)、産業面でも生成AI関連の特許出願件数で他国を大きく引き離しています。国連世界知的所有権機関(WIPO)の調査によれば、過去10年の生成AI関連発明に関する特許出願のうち中国からの出願は38,000件超と全体の約75%を占め、2位の米国(6,276件)の6倍超に達しました (China leading generative AI patents race, UN report says | Reuters) (China leading generative AI patents race, UN report says | Reuters)。

  • AI専用ハードウェアとインフラ:米中の技術摩擦も背景に、半導体チップやクラウド計算インフラの自前化も重要トレンドです。華為・阿里巴巴・百度などはそれぞれ独自のAIチップを開発しており、華為のAscendは自社クラウドと産業用AIサーバー「Atlas」シリーズに実装、阿里巴巴の含光800は同社ECサイトの商品検索やクラウドサービスでの高速推論処理に活用されています (Alibaba unveils self-developed AI chip for cloud computing services)。百度も訓練用の「昆仑(Kunlun)チップ」を開発し、自社データセンターで大規模モデル訓練に活用しています。またAIモデルを動かす計算資源の集中化も進み、百度・阿里巴巴・腾讯の各クラウド事業が企業や研究機関に計算リソースを提供する体制が整備されました。阿里雲によれば、中国のテック企業の80%およびAIモデル企業の半数が阿里雲上でサービスを稼働させているといい (Alibaba Cloud Releases LLM Tongyi Qianwen 2.0 and Industry-specific Models-Alibaba Group) (Alibaba Cloud Releases LLM Tongyi Qianwen 2.0 and Industry-specific Models-Alibaba Group)、大規模モデル時代においてクラウド基盤の重要性が増しています。さらに中国政府は各地にAIコンピューティングセンター(算力中心)を建設する計画を打ち出し、内陸部を含む複数の拠点で超大型AI計算施設が稼働し始めています。これらハード・インフラへの投資は、米国から先端AIチップの輸出規制を受ける中で国内で賄える計算環境の構築を目指す動きでもあり、実際2023年には華為が米国製EDAツールなしで設計した先進5nm相当チップを搭載したスマートフォンを発表するなど、自給自足体制の進展も示されました。

競争環境と市場のトレンド

中国のAI業界は熾烈な競争環境にあり、大手企業間の競合だけでなく、多数のスタートアップがしのぎを削っています。同時に、市場の応用分野も多岐にわたり、医療・金融から自動運転・監視まで産業横断的なAI活用が進展しています。ここでは、企業間競争の構図と主要な市場トレンドを整理します。

  • テック巨頭同士の競合と協業:BAT(百度・阿里・騰訊)をはじめ中国のテック巨頭はAIクラウドや基盤モデルの開発で競い合っています。例えば検索×AIでは百度が圧倒的シェアを持つ一方、クラウド×AIでは阿里巴巴(阿里雲)が先行し、騰訊や百度が追随する構図です。また生成AIでは百度のERNIE Botに対抗して阿里がTongyi Qianwen、騰訊がHunyuanを打ち出すなど、各社が社運をかけて次世代プラットフォーム競争を繰り広げています。同時に、分野横断の提携もみられ、例えば阿里雲は百度の大規模モデルを自社クラウド上で提供する計画を発表するなど(架空例)、競争と協業が混在する生態系が形成されています。政府によるAIプラットフォーム企業の役割分担(前述)もあり、例えば騰訊は医療AI、百度は自動運転というように得意分野の差別化も進めています (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。しかし昨今の生成AIブームに関しては各社がこぞって参入したため差別化が難しく、新興企業も含め「百家争鳴」の様相を呈しています (China's Tencent debuts large language AI model, says open for enterprise use | Reuters)。この競争は国内市場の発展を促す一方、勝者が寡占的地位を築くまでには至っておらず、むしろオープンソースコミュニティとの共創や、多様なニーズに応じたモデル群の共存へと向かっています。

  • スタートアップの台頭:中国には4,500社以上のAI関連企業が存在するとされ(2024年時点) (China home to over 4,500 AI companies: vice minister)、有望なスタートアップも次々と登場しています。近年特に注目を集めるのは、大規模言語モデルで成果を上げている**「AI四小龍」とも呼ばれる新興企業群です。投資家らは、清華大学や北京大学の系譜から生まれた百川智能(Baichuan Intelligence)、智譜AI(Zhipu AI)、MiniMax、Moonshot AIなどを中国新世代AIの筆頭株と位置付けています (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。これらの企業は教員や卒業生が中心となり最先端モデルを開発、例えば百川智能はオープンソースの高性能言語モデル「Baichuan-13B」を公開し注目されました。またDeepSeekのように、2025年に入って欧米を驚かせる省電力型大規模モデルを発表した企業も現れています (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。コンピュータビジョン四天王(商湯・依図・旷視・雲從)も引き続き健在で、依図科技は医療AIに軸足を移し、雲從科技は2022年に科創板(ハイテク市場)上場を果たすなど、それぞれの道で発展を模索中です。さらにAIチップ設計の分野では寒武紀科技(Cambricon)が創業数年で時価総額数百億元規模に成長し、2025年の中国AI企業価値ランキングで1位に輝きました (中国AI企業上位50社発表、首位はカンブリコン 胡潤研究院 | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア)。このように多様なスタートアップが乱立する状況は、中国国内の豊富なリスクマネーと人材プール**がAI産業に流れ込んでいることを示しています。ただし近年は資本規制の影響で米系VC資金が減少傾向にあり (US finalizes rules to curb AI investments in China, impose other restrictions | Reuters)、代わって中東などからの資金誘致(前述のサウジとのJV例など)に活路を見出すケースも増えています。

  • 市場シェアと産業応用の広がり:中国のAI市場は幅広い産業での実装が進み、その応用領域ごとに主要プレーヤーが存在します。画像認識AIは監視カメラやスマートフォン向け需要が大きく、上記CV四天王に加え、大手通信機器メーカーの**海康威視(Hikvision)大華科技(Dahua)が高度な画像解析機能をカメラシステムに組み込み国内外でシェアを伸ばしています (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。音声認識AIでは科大訊飛が先行していますが、百度も音声アシスタント「小度」や車載音声AIで追い上げ、騰訊も微信の音声入力や翻訳機能で競っています。金融AIの分野では、中国平安保険(Ping An)がフィンテック子会社である平安科技を通じて信用スコアリングやスマート投資顧問を展開し、政府から金融AIの代表企業に指定されています (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)。阿里巴巴系の螞蟻集団(Ant Group)**も与信審査や不正検知にAIを駆使しています。医療AIでは騰訊や依図系の推想科技(Infervision)が医療影像診断支援で実用化を進め、平安好医生などオンライン医療サービスもAI問診を導入しています。物流・小売AIでは京東(JD.com)がサプライチェーン最適化でAI活用をリードし (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、阿里も倉庫のロボット自動化や需要予測AIで対抗しています。教育AIでは好未来(TAL Education)が個別学習支援AIを開発し (Artificial intelligence industry in China - Wikipedia)、新東方など他の教育企業も追随しています。このように産業別に見ても、画像認識(13社)自動運転(11社)コンテンツ生成(8社)データ分析(7社)音声認識(6社)、**計算ハード(5社)**と多彩なカテゴリで有力企業が台頭しており、中国AI市場の広がりを示しています (中国AI企業上位50社発表、首位はカンブリコン 胡潤研究院 | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア)。政府の掲げる「AI+産業」戦略に沿って、今後も医療・製造・農業・交通など各分野へのAI浸透が加速するとみられ、企業間競争もそれぞれの垂直市場で深化していくでしょう。

国際展開と海外市場への影響

中国のAI企業は国内市場だけでなく、海外展開にも積極的に乗り出しています。その背景には、新たな市場機会の獲得だけでなく、米国や同盟国による締め出しへの対策や、"デジタルシルクロード"戦略による途上国支援の一環など複合的な要因があります。ここでは、中国AI企業の国際展開の現状と、海外市場・国際関係に与える影響を考察します。

  • アジア新興国・中東への進出:東南アジアや中東は、中国AI企業にとって重要な新興市場です。例えば阿里巴巴は東南アジアのECプラットフォーム「Lazada」を傘下に収め、同地域でのECデータを活用したAIマーケティングやフィンテックを展開しています。また阿里雲はシンガポール、インドネシア、マレーシアなどにデータセンターを開設し、現地企業向けにクラウド+AIサービスを提供中です。Huaweiは通信インフラ供給で築いた関係を活かし、中東・アフリカ各国にAIソリューションを売り込んでいます。特に中東では、サウジアラビアやUAEとの協力が進んでおり、華為はクラウドサービス拠点をサウジに開設したほか、デジタル政府やスマートシティ関連で契約を獲得しています。SenseTime(商湯科技)もサウジ政府系ファンドと合弁で中東地域の合弁会社(出資額2億ドル規模)を設立し、メガシティ「NEOM」のAIインフラ受注など巨額契約を勝ち取りました。このJVでは現地人材育成も盛り込まれ、中国企業が技術移転に前向きな点が中東側に歓迎されていると報じられています (SenseTime wins deals in Saudi Arabia in return for investment in domestic firms | Biometric Update)。さらにSenseTimeはアラビア語対応の大規模モデル開発にも着手し、中東市場向けカスタマイズを進めています (SenseTime wins deals in Saudi Arabia in return for investment in domestic firms | Biometric Update)。一方、東アジアでは中国の影響力が限定的な日本・韓国を除き、ASEAN諸国や南アジアで中国AIのプレゼンスが高まりつつあります。例えばクラウドWalk(雲從)はアフリカのジンバブエで国家IDシステムを構築し、商湯も東南アジアのスマートシティ案件に参画しています。全体として、中国AI企業は新興国のデジタル化ニーズに応える形で市場を広げており、特に政府主導型の大型プロジェクト(安全都市、防犯カメラ網、公共サービスデジタル化など)に強みを発揮しています。

  • 国際標準化と影響力:グローバルなAIコミュニティにおける中国の影響力も無視できません。中国政府および企業は国連やISO/IECの場でAI倫理や技術標準の策定に積極関与しており、中国提案の顔認証標準が国際規格に採用された例もあります。華為やアリババは海外のAI研究機関と連携し、例えば百度は2018年に米国主導のAI倫理団体「Partnership on AI」にアジア企業として初参加しました (Baidu - Wikipedia)。また2023年には商湯科技がアラブ首長国連邦(UAE)政府と共同で多言語大規模モデルを開発するプロジェクトを開始するなど、第三国を巻き込んだAI開発も増えています。こうしたソフトパワー面では、中国は自国での成功モデル(例えば安全都市システム)を輸出し、「中国版AIシステム」の普及を図っています。これは一部ではデジタル権威主義の輸出とも批判されますが、受け入れる国も自国の治安向上や効率化を理由に積極導入しています。今後、米中の技術覇権争いが続けば、AIの世界も二極化する可能性があり、中国企業は自らが影響力を持つ国際的なAIエコシステムを形成していくでしょう。一方で、中国製AIがグローバル市場で広く受け入れられるためには、データプライバシーや倫理への配慮、国際社会との信頼関係構築が不可欠です。現状では、地政学的リスクにより中国AI企業の海外展開は一部地域に偏りがちであり、米欧日などの先進市場との間に技術・市場の壁が生じています。そのため中国企業は技術力を武器に、新興国のニーズに応える形で影響圏を広げつつ、国際ルールメイキングにも関与し、自社に有利な環境作りを進めていると言えます。


以上、主要企業ごとの概要から最新技術動向、政策の影響、競争環境、国際展開まで、中国AI業界の現在地を概観しました。中国はAI研究論文数、特許数で世界トップクラスとなり、2030年までにAI産業規模1,500億ドル超を目指す国家戦略の下、官民挙げてAIイノベーションに邁進しています (China plans to be a world leader in Artificial Intelligence by 2030)。百度・阿里巴巴・騰訊・科大訊飛といった企業は各領域で先端技術を磨き、生成AIや自動運転では米国に肉薄する成果も現れ始めました。他方で、データ規制や地政学リスクといった課題も浮上しており、中国AI企業は国内規制順守や供給網確保に細心の注意を払いつつ、海外では新興市場を中心にプレゼンス拡大を狙っています。今後の焦点は、中国発のAI技術やサービスがどこまで世界に浸透し、国際標準や価値観の形成に影響を与えるかという点です。米中対立の行方も含め、中国AI企業の動向は引き続き世界のテック業界に大きなインパクトを与えるでしょう。

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Akinen
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