見出し画像

ポルトガルの政治について

モンテネグロ首相の評価

長期的な評価

ルイス・モンテネグロ首相は、約20年にわたり政界で活躍してきた経験豊富な政治家です。2002年に国会議員に初当選し、その後4期連続で再選され、通算16年間にわたり国会議員を務めました。2011年から2017年まで中道右派・社会民主党(PSD)の院内総務(議員団長)として党内最長となる6年間在職し、財政危機下でのペドロ・パッソス・コエリョ政権を議会で擁護する要となりました。同政権下ではEUからの金融支援プログラム(いわゆるトロイカ管理下)による緊縮政策推進を強力に後押しし、その実行力を示したと評価されています。2018年には党路線を巡る対立から一時政界を退きましたが、2020年に党首選に挑戦し、2022年5月にPSD党首に就任しました(2022年7月正式就任)。長年の議会経験と党内基盤により、政策立案や調整に影響力を持つベテラン政治家として長期的な評価は高いと言えます。

短期的な評価

2024年4月に首相に就任して以来の短期間で、モンテネグロ政権はいくつかの成果と課題が指摘されています。まず成果として、前政権下で長年未解決だった教員や治安部隊の待遇問題に早速取り組みました。就任直後の政策発表では「10日以内に教員団体や警察組合との協議開始」を約束し、実際に給与体系やキャリアに関する合意を引き出しています。実際、教員・警察・看護師など公共部門の労働条件改善で各組合と相次ぎ合意し、「15年ぶりとなる看護師の待遇改善」を実現するなど社会的な安定に貢献しました。加えて、最低賃金の引き上げ(2025年に月835ユーロへ)や中小企業減税など経済対策も打ち出しています。

一方で課題もあります。就任直後に欧州議会選挙(2024年6月)で与党連合ADが第一党を逃すなどの逆風もありましたが、これは政権発足直後という特殊事情もあると見られています。また、新政権の初の国家予算(2025年度案)には論争が伴いました。例えば、経済困難が続く中で政治要職者の給与5%削減措置を終了(実質的な報酬引き上げ)したことは「時機を逸した措置」と野党から批判されています。さらに、モンテネグロ首相自身は極右政党シェガからの閣外協力には頼らない方針を貫いており、少数与党で政権運営をしているため政局の安定性が短期的な課題とされています。

一般市民の意見

世論調査によれば、モンテネグロ首相個人の人気は就任後高い水準を維持しています。2024年7月の調査では59%もの人がモンテネグロを好意的に評価し、否定的評価は30%に留まりました。これは前月調査から好感度が上昇したもので、当時モンテネグロ氏は「ポルトガルで最も人気のある政治家」とも評されました。2025年に入っても支持は堅調で、1月のある調査では53%がモンテネグロを「評価する」と答え、主要政党党首の中で唯一プラス評価を得ています。この支持率は現職のソウザ大統領(支持率約50%)をも上回り、野党・社会党のペドロ・ヌノ・サントス党首(評価31%)や極右シェガ党首アンドレ・ヴェントゥラ(評価26%)を大きく引き離しました。もっとも政権そのものの評価はやや割れています。2025年初頭の世論調査では、**政府の実績を「良い」とする回答41%に対し「悪い」が45%**とわずかに上回りました。ただしこの評価は前政権(コスタ前首相)の頃より改善しており、国民はモンテネグロ政権の方が前政権よりもよくやっていると感じている傾向があります。地域別に見ると、モンテネグロ氏の地盤である北部で特に支持が高く、リスボン首都圏ではやや苦戦するなどの差も指摘されています。SNS上でも「若手への共感を得ている」「経済政策に期待」といった肯定的声がある一方、「抜本的な改革がまだ見えない」といった慎重な意見も見られ、国民の期待と様子見が交錯する状況です。

メディアの論調

国内メディアは概ねモンテネグロ首相に対し慎重かつ多角的な論調を展開しています。大手紙やテレビは、就任直後の世論支持の高さを伝えつつも、政権の課題も積極的に報道しています。例えば、全国紙「ジョルナル・デ・ノティシアス」は、モンテネグロ政権下で政治任用ポストが過去最多に達したと報じ、与野党問わず増加してきた「タコス(縁故ポスト)」の記録を更新したと批判的に伝えました。また、モンテネグロ首相がメディア政策プラン発表の場で「ジャーナリズムの質」を批判する発言を行った際には、記者組合が「事実に無知な発言だ」と反発し、「ジャーナリストへの不信を煽り業界の信用を損なう」と強い遺憾を表明しています。このようにメディア側は政権への提言や監視を緩めておらず、政府と報道機関の緊張も垣間見えます。一方で、中道右派系の論調では「前政権の停滞を打破する改革姿勢」を評価する声もあり、経済紙などは減税策や企業支援策に一定の理解を示しています。総じて主要メディアはモンテネグロ氏を「人気は高いが試される首相」と位置付け、支持率の高さだけで安心せず改革の成果を求めるトーンが強いと言えます。

政治アナリストの見解(専門家の分析・シンクタンク報告)

政治評論家や専門家の分析では、モンテネグロ政権は**「安定かつ改革志向」と評価される一方、いくつかの不確実要素が指摘されています。専門家はまず、2023年末の社会党政権崩壊という異例の事態を受けて発足した経緯から「有権者の一定の期待と寛容」がモンテネグロ氏に与えられていると見ています。実際、「前政権時代より現政権の方が評価が良い」という世論調査結果は、新政権への期待値の表れだと分析されています。一方で多くの政治アナリストは、政権の安定性に懸念を示します。PSD単独では過半数に届かない少数与党であり、野党勢力も再編期にある中で、「この政権が任期4年間持続しないだろう」と考える国民が過半数に上るとの指摘があります。実際、2024年7月時点の調査で「政権が4年続かない」と考える回答が多数派になるなど、政治的先行きへの不信も存在します。専門家は、モンテネグロ氏が極右との連携拒否を貫きつつ政策を前に進める手腕**が試されると強調しています。加えて、シンクタンクの報告等では、構造的課題(低い生産性や人口減少)への長期ビジョンがまだ十分示されていないとも指摘されています。総じて専門家の見解は、「モンテネグロ首相は順調な船出だが、真価はこれから問われる」という慎重な評価に集約されます。

現在のポルトガル政治の主要トピック

経済政策(インフレ対策・雇用・税制改革など)

インフレ対策は依然重要なテーマです。ポルトガルでは2022年にインフレ率が8%以上に達しましたが、その後は低下傾向で、2024年の平均インフレ率は2.4%程度と安定しつつあります。政府は生活必需品の消費税減税(前政権下で実施)を引き継ぎつつ、所得税の減税最低賃金引き上げによる購買力向上を図っています。モンテネグロ政権は「中間所得層の税負担軽減」に重点を置き、就任直後に所得税(IRS)第8課税帯までの減税法案を閣議決定しました。これにより「前年より15億ユーロ規模の減税で特に中間層が恩恵を受ける」とされています。また、企業支援策として法人税(IRC)の引き下げや、税務当局と企業間の会計上の相殺制度(30日以内の政府支払い促進)を導入し、企業の資金繰り改善や投資意欲喚起にも取り組んでいます。雇用については失業率が近年6%前後と比較的低水準にありますが、賃金水準や生産性の低さが課題です。このため政府は労使と協議する「社会協約」(Concertação Social)の再締結を呼びかけ、賃上げと生産性向上の包括合意を目指しています。他方、観光業への依存度が高い経済構造の多角化も議論されています。EUからの復興基金(PRR)活用によるデジタル・グリーン投資や産業育成が進められており、政府はEU資金の執行加速を最優先課題の一つに位置付けています。総じて現在の経済政策の焦点は、物価高への対応と中長期の競争力強化の両立にあり、インフレ鎮静化を追い風に財政健全性を保ちながら成長を押し上げる戦略が取られています。

社会政策(教育・医療・住宅問題など)

教育、医療、住宅といった社会政策も国民的関心が高い主要トピックです。まず教育では、長年停滞していた教員の待遇・人事問題が大きな議論でした。前社会党政権期の2023年前半には教師たちが大規模ストライキを行い、給与や昇進の凍結是正を訴えていました。モンテネグロ政権は発足後ただちに教職員組合との対話に動き、教員のキャリア格差是正や給与引き上げで合意に達しました。加えて、教員の増員採用にも着手しており、特別採用公募のための新インセンティブ策を打ち出しています。大学の定員拡大による教員・医師の養成数増加策も進められており、将来の人材確保に努めています。医療分野では、公的医療サービス(SNS)の人手不足・待機時間増大が深刻で、特に救急医療の逼迫などが社会問題化してきました。これに対し現政権は**「緊急・医療体制刷新プラン」を作成し、54項目の改善策を進行中です。2025年3月までに全施策の始動を目指し、例えばリスボン新総合病院の着工など医療インフラ拡充にも乗り出しています。また看護師の待遇改善合意や医師増員など、人材確保策も講じています。住宅問題は現在ポルトガル国内で特にホットなテーマの一つです。リスボンやポルトでは家賃・住宅価格の高騰と供給不足が深刻で、若年層や中間層が住居確保に苦労する状況があります。この問題に対し、前政権は2023年に「もっと住宅を(Mais Habitação)」と銘打った法案で空き住宅の強制賃貸や民泊規制強化など踏み込んだ措置を講じようとしましたが、これには異論も多く議論が割れました。モンテネグロ政権はアプローチを転換し、空き家の強制貸出など前政権の措置を撤回する一方で、住宅供給そのものの拡大策に重点を置いています。具体的には、国や自治体が保有する遊休地・不動産を活用し民間とも協力して住宅を新規建設するプログラムを開始しました。すでに数十の自治体と契約を結び、「ポルトガル建設計画(Construir Portugal)」の下で約1万戸の住宅建設を進めています。官民の手続きを簡素化し地方自治体の関与も強めた結果、今後数年で新規住宅供給目標を当初想定の2万6千戸から5万9千戸に拡大**し、その中には中間層向けの手頃な価格の住宅も含まれる見込みです。さらに、若者の住宅取得支援として、35歳以下の初回住宅購入者に対する不動産取得税(IMT)と印紙税の免除、住宅ローン全額融資を可能にする公的保証制度なども導入されました。これらの住宅政策は「供給を増やすことが価格抑制につながる」という政府の立場を示しており、賃貸規制よりも市場の流動性拡大を重視する方向です。ただ、住宅問題は短期間で解決が難しく、野党や市民団体からは「さらに積極策が必要」との声も出ています。以上のように、教育・医療・住宅はいずれも国民生活に直結する課題であり、政府は教員・医療従事者の処遇改善や住宅供給の拡大といった政策対応を進めていますが、その効果と持続性が引き続き注目されています。

外交政策

ポルトガルの外交は、EU協調路線とポルトガル語圏諸国との関係強化を二本柱としています。EUとの関係では、政権交代後も基本的に親欧州・多国間主義の姿勢に変わりはありません。EU内では財政規律を守りつつ、欧州復興基金の効果的活用やエネルギー政策連携などで積極的な役割を果たしています。特にウクライナ支援や対ロシア制裁については与野党の枠を超えて一致した立場で、モンテネグロ政権も軍事・人道支援を継続しています。経済面ではEU=メルコスール間の自由貿易協定(FTA)締結推進にも力を入れており、モンテネグロ首相自ら「EU・メルコスール協定の早期実現」の重要性を国際会議で強調しました。これはポルトガルがブラジルなどポルトガル語圏との関係強化を重視しているためで、欧州と南米を繋ぐ架け橋としての役割を模索しています。実際、2025年2月にはリスボンでポルトガル・ブラジル首脳会談を開催し、経済・移民・防衛など19の協力協定に調印するなどブラジルとの戦略的関係深化が図られました。隣国スペインとの関係は極めて良好です。ポルトガルとスペインは「イベリアの兄弟関係」とも称され、イベリア半島内の経済協力やインフラ整備で緊密に連携しています。例えばエネルギーでは、近年イベリア限定の電力価格上限制度(通称「イベリアメカニズム」)をEUに認めさせ電力価格の急騰を抑える共同戦線を張りました。また、高速鉄道網の接続や国境地域の開発協力など具体的プロジェクトも進行中です。両国首脳は定期的に会談し、EU理事会でも立場を調整するなど協調しています。移民や治安面でも情報共有が進んでおり、近年ポルトガルで増加したブラジル人移民に関する課題についてもスペイン・ブラジルとの三国で協議する場が設けられました(2023年、ブラジル大統領が「移民と犯罪を結びつける風潮を払拭すべき」とモンテネグロ首相に協力要請)。一方、アフリカ諸国との関係も伝統的に重視されています。特に旧ポルトガル植民地であるアフリカ葡語圏(PALOP)との結び付きは強く、開発協力や経済進出が活発です。2024年7月にはモンテネグロ首相がアンゴラを公式訪問し、同国と政治・経済分野で12件の協定に署名しました。この訪問では両国間の2億ユーロの信用枠を2億5千万ユーロに拡充することも発表され、アンゴラのインフラ開発や人材育成をポルトガルが支援する姿勢が示されました。アンゴラやモザンビークはポルトガル企業にとって有望市場であり、政府はアフリカでのビジネス展開を官民連携で後押ししています。また、多国間では**ポルトガル語諸国共同体(CPLP)**を通じた文化・経済協力や、EU・アフリカ関係における調整役も担っています。総じて外交面では、欧州連合内でのプレゼンス維持と、大西洋を越えたポルトガル語圏コミュニティとの連帯が主要トピックとなっており、モンテネグロ政権もこの路線を積極的に推進しています。

環境政策(再生可能エネルギー・気候変動対策)

ポルトガルは欧州の中でも再生可能エネルギーの先進国とされ、環境・気候政策は重要な国家課題です。近年は風力・太陽光・水力発電の拡大により、2024年には電力供給の約71%を再生可能エネルギーで賄うという過去最高の水準に達しました。これは前年の61%から大きく伸びた数字で、気候目標への強いコミットメントの表れです。政府は2024年10月、環境エネルギー閣議を開催し、2030年に最終エネルギー消費の51%を再生可能でまかなうことを目標とする新たな国家エネルギー気候計画(PNEC2030)を承認しました。同計画では2030年までに温室効果ガス排出を2005年比55%削減し、電力分野では大規模蓄電(2GW)やグリーン水素製造能力3GW、洋上風力2GWを導入するなど野心的な数値目標を掲げています。また、気候庁(エージェンシー)を新設し、政策実行の効率化・監視体制を強化する方針です。規制面でも、再エネプロジェクトの許認可を加速するため手続きを簡素化し、マンションや大学などによるエネルギー共同体の創設を促進する措置が講じられました。一方、ポルトガルは気候変動の影響にも直面しています。近年頻発する夏の干ばつや森林火災への対策も環境政策の重要テーマです。政府は森林管理や消火体制の強化に取り組み、2023年には史上最大規模の消防体制を動員するとともに、EUの緊急支援メカニズムを活用してスペインやフランスなどの協力を得ることに成功しました。また、水資源の効率的利用やダム建設などの気候適応策についても議論が進んでいます。さらに、電気自動車の普及や公共交通のグリーン化も推進中で、その一環として全国の鉄道を対象に月額20ユーロで全線乗り放題となる格安鉄道パスの導入を決定しました。この施策は公共交通利用促進による二酸化炭素削減と地方活性化の両面を狙ったものです。加えて、ポルトガル国内にはリチウムなどエネルギー転換に必要な資源も存在し、その採掘計画を巡る環境影響と経済利益のバランスも議論の的です。2023年にはリチウム採掘権益を巡る汚職疑惑が発覚し前首相辞任の一因ともなりましたが、この出来事はクリーンエネルギー推進とガバナンスの透明性確保という課題を突き付けています。総じて、環境政策の主要トピックは再生エネルギー拡大による脱炭素化の推進と、気候変動への適応策強化であり、ポルトガルはEU内でも高い目標を掲げて気候先進国を目指しています。

その他国内で議論される重要テーマ

上記以外にも、現在のポルトガル政治ではいくつか注目すべき論点があります。その一つが汚職防止と政治への信頼回復です。2023年11月、社会党政権のコスタ首相がエネルギー事業を巡る汚職捜査の疑惑により突然辞任し、これが政変の引き金となりました。この事件以降、「政治倫理の再構築」や「腐敗防止」が大きなテーマとなっています。国際的にもポルトガルの汚職に対する懸念は高まっており、2024年の腐敗認識指数ではポルトガルは過去最悪のスコアとなり、180か国中43位まで順位を落としました。透明性国際(TI)ポルトガル支部は「2015年以降続く下落傾向の延長であり、腐敗対策の不十分さが国家の評判を傷つけている」という厳しい声明を出しています。こうした状況を受け、議会では政党資金の透明化や汚職捜査機関の強化など制度改革が議論されています。また、司法当局も政官界の不正摘発に積極姿勢を示しており、与野党ともにクリーンな政治をアピールせざるを得ない状況です。もう一つの重要テーマは、台頭する極右ポピュリズムへの対応です。近年、反移民・反体制を掲げる極右政党「シェガ(Chega!)」が支持を拡大し、第3党に躍進しました。シェガは現政権には参加していませんが、与党PSDにとって右側からの圧力となっており、例えば2025年2月にはシェガ党首がモンテネグロ政権に対し**「不信任動議も辞さない」と威嚇する場面も報じられました**。モンテネグロ首相はシェガとの連携を明確に拒否していますが、野党第一党PSと過半数形成に向けた大連立(ブロック中央)にも否定的です。そのため少数与党のまま政策を通す政治手腕が問われており、極右勢力を封じ込めつつ民意を反映する舵取りが課題となっています。同時に、社会的包摂や移民統合も議論されています。ブラジルやアフリカ諸国からの移民が増える中で、それをポルトガルの活力とするには社会統合策が重要であり、差別やヘイトの防止を含めた議論が続いています。さらに、少子高齢化と人口問題も無視できません。出生率の低迷に対処するための家族支援策や、労働力確保のための移民政策の整備など、中長期的な人口戦略も論議されています。政治制度面では、憲法改正が一時議題となりました。特に安楽死の合法化をめぐり大統領が拒否権を行使したことを受け、憲法の生命倫理規定の見直しなどが審議され、2023年末に一部改正が承認されています。安楽死合法化法案自体も議会再可決により成立し、倫理・宗教界も巻き込んだ大きな社会論争となりました。このように、腐敗対策からポピュリズムへの対応、社会的価値観の変化まで、現在のポルトガルでは多様なテーマが議論されています。それらはモンテネグロ政権の手腕に大きく影響を与える要因であり、国民の関心も高いものとなっています。

いいなと思ったら応援しよう!

Akinen
最後までお読みいただきありがとうございます。よろしければぜひ、フォローしていただけると嬉しいです。