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影響力のあるグラフィックデザイナー 10名【ブクマ推奨】
グラフィックデザインの世界で現在活躍し、業界や社会に大きな影響を与えているデザイナーを10名ご紹介します。広告、ブランディング、タイポグラフィ、ポスターアートなど幅広い分野から選出し、それぞれの代表的な作品とその影響、近年の活動について詳しく解説します。なお、単なる受賞歴ではなく、デザインによって生み出された変化や支持の広がりに注目しています。
1. ポーラ・シェア(Paula Scher)
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ポーラ・シェアは米国を代表するグラフィックデザイナーで、Pentagramのパートナーとして活躍しています。「地球上で最も影響力のある女性グラフィックデザイナー」と評されるほどその功績は大きく 、40年以上にわたり第一線で活躍してきました。1970年代からキャリアを始めたシェアは、レコードジャケットからポスター、ブランディングまで手がけ、公共機関から企業まで幅広いクライアントに大胆なタイポグラフィ表現を提供してきました 。
シェアの代表作には、ニューヨーク公共劇場(The Public Theater)の視覚アイデンティティ(1994年~)があります。この劇場のポスターやグラフィックは演劇界の宣伝手法に革新をもたらし、より多様な観客を劇場に引きつけたと評価されています。また、シティバンク(Citibank)のロゴデザイン(1998年)では、赤いアーチを傘に見立てて銀行の安心感を瞬時に表現し、企業ブランディングのシンプルさと記憶性の重要性を示しました。さらに、マイクロソフト社の「Windows 8」のロゴ刷新(2012年)やニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン歌劇場などのアイデンティティ開発にも携わり、大規模組織のブランドイメージ確立に寄与しています。
現在もPentagramに在籍し、環境グラフィックや地図をアートとして描く個人作品などにも取り組んでいます。2017年には大規模作品集『Paula Scher: Works』を刊行し、自身の40年に及ぶ仕事を振り返りました。加えて、デザイン教育にも積極的で、世界各地で講演や展覧会を通じて新世代のデザイナーに影響を与えています。その飽くなき探究心と影響力は現在も健在です。
2. マイケル・ビアート(Michael Bierut)
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マイケル・ビアートはPentagramニューヨークのパートナーで、約50年のキャリアを持つ米国のグラフィックデザイナーです。大企業から大学、美術館まで手掛けるブランドデザインの第一人者であり、ベネトン、ウォルト・ディズニー、モトローラ、ニューヨーク公共図書館といった名だたるクライアントのデザインを担当してきました。その洗練されたロゴやアイデンティティ設計は、多くの人々の日常に溶け込み、企業や組織の印象を形作っています。また、ビアートはデザインライター・教育者としても著名で、ヤール大学大学院で批評家を務め、米国グラフィックデザイン協会(AIGA)会長も歴任し、Design Observerブログの編集にも携わるなど業界全体への貢献も大きい人物です。
ビアートの手がけたデザインの中でも、例えばMITメディアラボのロゴ(2011年)は、可変式のユニークなシステムデザインで注目されました。約40,000通りに変化するロゴシステムは、組織内の多様な研究を象徴し、ブランディングに柔軟性と動的要素を取り入れる潮流を作りました。またヒラリー・クリントン大統領選挙キャンペーンの「H」ロゴ(2016年)では、シンプルな矢印付きの“H”で前進と希望を示し、政治キャンペーンにおけるデザインの力を示しています。さらにヴェライゾン(Verizon)社のロゴ刷新(2015年)では大胆なシンプル化を行い、大企業のブランド戦略にミニマリズムを浸透させました。
直近では、ビアートはSlack社の新ロゴ(2019年)やマスタード(Mustard)といった企業のブランディングも手掛け、話題を呼びました。2018年にはニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツ(SVA)で35年のキャリアの回顧展「The Masters Series: Michael Bierut」が開催され、その功績が改めて称えられています。さらに著書『今すぐ役立つグラフィックデザインの基本』(原題: How to)などを通じ、デザインの考え方や社会との関わりを広く発信し続けています。
3. ステファン・サグマイスター(Stefan Sagmeister)
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ステファン・サグマイスターはオーストリア出身でニューヨーク拠点のグラフィックデザイナーです。既成概念にとらわれない挑発的で実験的なデザインで知られ、作品は常に「現状への挑戦」であり、デザイン領域を新たな方向へ切り拓いてきました。サグマイスターはローリング・ストーンズ、トーキング・ヘッズ、ルー・リードなど有名ミュージシャンのアルバムジャケットを手掛け、音楽業界で一躍脚光を浴びました。その後、自身の事務所Sagmeister Inc.を設立し、斬新なタイポグラフィやビジュアルで数々のプロジェクトを成功させています。型破りな発想とユーモアを交えたデザインは業界に衝撃を与え、若いデザイナーたちに「デザインでここまで表現できる」という可能性を示しました。
サグマイスターの代表作の一つに、AIGA講演会ポスター(1999年)があります。自らの体に文字を彫刻刀で刻んだ写真を用いたこのポスターは、その痛々しくも強烈なビジュアルによって「デザインは人の注意を引き、感情に訴える力がある」ことを示しました。また、ローリング・ストーンズ『Bridges to Babylon』アルバムカバー(1997年)では古代の獅子像を用いた重厚なデザインを提示し、ロック音楽のビジュアル表現に新風を吹き込みました。さらに、サグマイスターは定期的に1年間のサバティカル休暇を取得し創作に専念する手法でも知られています。この試みから生まれたドキュメンタリー映画『The Happy Film』(2016年)や、美術展「Beauty」(2018年〜)では、デザインが人間の幸福感や美意識に与える影響を探究し、デザインの社会的意義を考えさせる作品として評価されました。
2012年にはパートナーのジェシカ・ウォルシュと共に「Sagmeister & Walsh」を設立し、さらに活動の幅を広げました(2020年に解散し互いに独立)。直近では、視覚的データアートのプロジェクトや書籍『Now is Better』(2023年)を発表し、世界や人類のポジティブな進歩をデータビジュアルで表現するという新境地を開拓しています。グラフィックデザインの枠を超えたアート的な試みにより、サグマイスターは依然としてグローバルな創造分野に影響を与え続けています。
4. ジェシカ・ウォルシュ(Jessica Walsh)
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ジェシカ・ウォルシュはニューヨークを拠点に活動する若手世代の代表的なデザイナーです。まだ30代という若さながら、現代のデザイン業界で最も認知度の高い名前の一人であり、そのカラフルで大胆な作風とコンセプト重視のアプローチで現代の視覚コミュニケーションに大きな影響を与えています。彼女は2019年、自身のエージェンシー「&Walsh」を創設し、*女性が率いるごく僅かなトップクラスのデザイン会社(全体の0.1%)*を主宰しています。また、デザインを通じた社会貢献にも熱心で、非営利プロジェクト「Ladies, Wine & Design」を立ち上げ、世界250以上の都市で女性クリエイター支援のコミュニティを展開しています。このようにウォルシュは、デザインの実践だけでなく業界の多様性推進やコミュニティ形成でも影響力を持つ存在です。
ウォルシュの代表的プロジェクトの一つに、サグマイスターとの共同実験「40 Days of Dating (40日間デートしてみた)」(2013年)があります。これはデザインと私生活を融合させたブログ形式のプロジェクトで、ユニークな物語性と洗練されたビジュアルで世界中の読者を魅了し、書籍化や映像化の話題にもなりました。また彼女が手掛けたファッションブランド「Kenzo」の広告キャンペーン(2018年)では、鮮烈な色彩と大胆なタイポグラフィでブランドの若々しいエネルギーを表現し、広告デザインの新たなスタイルを提示しました。さらに、&WalshとしてAdobe、Google、WeWorkなど大手クライアントのブランディングやキャンペーンを担当し、デジタル時代に合った遊び心あふれるデザインで注目されています。
ウォルシュはSNS上でも大きな影響力を持ち、Instagramのフォロワーは50万人を超えます。その発信力を活かして若手デザイナーにアドバイスを提供したり、自身の制作過程を公開することでデザインの楽しさと重要性を広めています。また、「Let's Talk About Mental Health」というプロジェクトではメンタルヘルスについての対話を促進するデザインを展開するなど、社会問題に対してデザインでアプローチする活動も積極的に行っています。近年は講演や審査員として国際的なデザインイベントに招かれる機会も多く、次世代を鼓舞するロールモデルとして存在感を示しています。
5. デヴィッド・カーソン(David Carson)
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デヴィッド・カーソンは1990年代のグラフィックデザインに革命を起こしたアメリカ人デザイナーです。型破りなレイアウトとタイポグラフィで知られ、「グランジ(汚し)・タイポグラフィのゴッドファーザー」と称されています。その最たる例が音楽雑誌『Ray Gun』のアートディレクター時代(1992–1995)で、カーソンは誌面デザインにおいて従来の読みやすさのルールを大胆に無視し、ノイズに満ちたエクスペリメンタルな誌面を作り上げました。「読みづらい」との批判さえ受けた破天荒なレイアウトでしたが、そのビジュアルインパクトは強烈で、90年代の若者文化やデザインに多大な影響を与えました。彼の手がけた誌面は「既成の秩序よりも感性を優先させる」というデザイン哲学の体現であり、以降の雑誌や広告デザインに自由な表現の流れをもたらしています。
カーソンの代表作には、Ray Gun誌における「読めないインタビュー」が語り草となっています。あるミュージシャンへのインタビュー記事が退屈だったため、全文を記号フォント(Zapf Dingbats)で組んでしまったというエピソードで、内容よりも表現そのものを優先する大胆さを示しました。この試みにより「デザインが情報の取捨選択に関わる」という議論を呼び、編集デザインの概念に一石を投じました。また、カーソンの作品集『The End of Print(プリントの終焉)』(1995年刊)はグラフィックデザインの転換期を象徴する書籍となり、世界中の学生やデザイナーに影響を与えています。彼のスタイルは企業広告にも波及しており、NikeやPepsiといった企業広告で独自のタイポグラフィ表現を展開し、大手ブランドが前衛的デザインを採用するきっかけともなりました。
雑誌から離れた後もカーソンは精力的に活動しています。近年はロサンゼルスを拠点にコラージュアートに傾倒しており、街で拾ったポスターの切れ端やゴミを素材にした直感的なコラージュ作品を制作しています。2018年以降に制作したコラージュ作品をまとめた作品集『nucollage.001』も出版され、往年のデザインと共通する「直感と感情の融合」が評価されています。デザインカンファレンスでの講演やワークショップにも招かれ、「グリッド(枠組み)にとらわれない発想」を次世代に伝えており、現在もその反骨精神でグラフィックデザインの可能性を押し広げています。
6. ネヴィル・ブロディ(Neville Brody)
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ネヴィル・ブロディはイギリス出身のグラフィックデザイナーで、1980年代から現在に至るまで視覚表現の先駆者として活躍しています。雑誌『The Face』や『Arena』のアートディレクターとして、当時の前衛的な音楽・ファッション文化を象徴する大胆なタイポグラフィを生み出しました。ブロディは印刷物の世界にアート的なタイポグラフィを持ち込み、文字を単なる情報伝達手段ではなく表現要素として確立した功労者です。また、デジタル時代のタイポグラフィにもいち早く適応し、1989年にはエリック・シュピーカーマンと共にフォント流通会社FontShop及びフォントライブラリFontFontを共同設立しました。これは世界最大級の独立系デジタルフォントコレクションへと成長し、デジタル字体デザインの発展における重要な功績となっています。こうした活動から、ブロディは「タイポグラフィの革命児」として業界に影響を与え続けています。
ブロディの代表作には、オリジナルフォント「FF Blur」(1992年) があります。これは輪郭のぼやけた独特の書体で、印刷物にデジタル的エフェクトを与える先駆的試みでした。この字体は90年代のデザイン潮流に影響を及ぼし、多くのデザイナーが追随しました。また、彼が創刊した実験的タイポグラフィ雑誌『FUSE』(1991年~)は、世界中のタイプデザイナーによる前衛フォントを発表する場となり、字体デザインの可能性を大きく押し広げるプラットフォームとなりました。さらに、近年ブロディは英国放送協会(BBC)の専用書体「BBC Reith」(2018年) のデザイン監修や、チャンネル4のブランディング刷新などにも関わり、視認性と個性を両立した公共デザインを提示しています。
教育面でもブロディの影響力は大きく、2011年から2018年までロンドンの王立芸術大学(RCA)大学院のコミュニケーションアート&デザイン学科長を務め、後進の指導に当たりました。2011年には英国王立芸術協会(RSA)より**「社会的・知的責任に対するデザイナーの意識向上に貢献した」としてRoyal Designer for Industryの称号が授与され、その影響力が公式に評価されています。現在も自身のスタジオ「Brody Associates」を率い、グローバル企業や有名機関のプロジェクトに携わる一方、講演や審査員を通じてデザインと社会の関係性について積極的に発言**しています (。常に時代に即したデザインシステムを提案し続けるブロディは、今なおクリエイティブ業界全体に強い影響を及ぼしています。
7. シェパード・フェアリー(Shepard Fairey)
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シェパード・フェアリーはストリートアートとグラフィックデザインの境界を超えて活躍するアメリカのアーティスト兼デザイナーです。1989年にストリートで始めたステッカー「ANDRE THE GIANT HAS A POSSE(巨人アンドレに仲間がいる)」が世界的なストリートアートムーブメント「OBEY GIANT」へ発展し、彼の代名詞となりました。フェアリーは社会・政治へのメッセージを力強いグラフィックに落とし込む手法で知られ、特に2008年のバラク・オバマ米大統領選挙時に制作した「HOPE」ポスターは現代の政治ビジュアルの象徴となるほどの知名度を得ました。このポスターは草の根の支持拡大に貢献し、後にスミソニアン博物館にも収蔵されるなど、デザインが社会運動に影響を及ぼし得ることを示す歴史的作品となりました。フェアリーはまた、アパレルブランド「OBEY」の創設者でもあり、ファッションを通じて彼のアートを若者文化に浸透させています。
「HOPE」ポスター(2008年)はフェアリー最大の代表作であり、赤・青・ベージュの限定色と大胆なベクター画像で当時無名だったオバマ候補をカリスマ的に描き出しました。このビジュアルはSNSや街頭で瞬く間に拡散し、政治キャンペーンにおけるグラフィックデザインの力を世に知らしめました。また、彼の初期の「OBEY GIANT」ステッカーアート(1989年~)はゲリラ的に都市に貼られ、「見る者に考えさせる」プロパガンダ風のデザインがグラフィックアートの新たな潮流を築きました。さらに社会的メッセージを込めた壁画も世界各国に残しており、人権・環境・平和などを訴える彼の巨大壁画は、その土地のコミュニティに議論を巻き起こす力を持っています。
フェアリーは現在も精力的に社会的テーマの作品を発表しています。環境保護や難民支援をテーマにしたポスターシリーズを制作し、収益を関連団体に寄付するなどアクティビズムとデザインを直結させた活動を展開中です。またInstagramではフォロワー100万人超の影響力を持ち、自身の作品やメッセージを積極的に発信しています。近年は2017年に来日して渋谷で壁画を制作したり、2020年米大統領選に向けた投票啓発ポスターを作成するなど、ローカルとグローバル双方で政治・文化に働きかけるデザイン活動を続けています。彼の存在はストリートからミュージアムまで跨り、グラフィックデザインが社会に影響を与える好例として認知されています。
8. 佐藤 可士和(Kashiwa Sato)
佐藤可士和(さとう かしわ)は日本を代表するクリエイティブディレクター/グラフィックデザイナーの一人で、そのブランディング手法は多くの企業や社会プロジェクトに影響を与えています。博報堂を経て独立後、創造会社「SAMURAI」を設立し、ユニクロ、楽天、セブン-イレブン、今治タオルなど日常に浸透する大企業ブランドのクリエイティブディレクターとして躍進を支えました。単なるロゴデザインに留まらず、商品のコンセプトや事業戦略まで踏み込んでブランディングを統括する点に特徴があり、デザインの力で企業の事業そのものが社会に与える影響を大きく高めたと評価されています。その明快で力強いビジュアルと言葉の統一は「佐藤可士和的ブランディング」として知られ、他のデザイナーや企業もこぞって参考にするスタイルとなりました。
佐藤の代表作には、ユニクロ(UNIQLO)のグローバルブランディングがあります。2006年頃からユニクロのクリエイティブディレクションを担当し、シンプルで覚えやすい赤いロゴや、統一感のある店頭デザインを打ち出しました。その結果、ユニクロは国内外でブランドイメージを確立し、ファストファッション市場において「ジャパン発」のブランドを世界に浸透させることに成功しました。またセブン-イレブンのプライベートブランド「セブンプレミアム」パッケージ(2007年~)では、白を基調としたシンプルなデザインで統一し、コンビニ商品の質感向上とブランド化に貢献しました。これにより、流通小売業におけるパッケージデザインの重要性が再認識され、他社も追随して洗練されたPBデザインを展開するようになりました。そのほか、**国立新美術館のVI(2007年)や明治神宮野球場のロゴ刷新(2020年)**など文化・公共分野のデザインも手掛け、各所で話題を集めています。
近年、佐藤可士和の活動はますます多岐にわたっています。2021年には大規模回顧展「佐藤可士和展」が開催され、彼が手掛けた多数のブランドデザインや空間デザインが紹介されました。これにより一般からの注目も集まり、デザイン展として異例の大盛況を記録しています。また、企業とのコラボレーションだけでなく、教育機関や地方創生プロジェクトにも関与し、デザインによる社会課題解決や地域ブランディングにも取り組んでいます。メディア出演や著書『佐藤可士和の超整理術』を通じてビジネスパーソンにもデザイン思考を広めており、その影響力はデザイン界のみならず社会全般に及んでいます。
9. 原 研哉(Kenya Hara)
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原研哉(はら けんや)は日本のグラフィックデザイナー/アートディレクターで、無印良品のアートディレクターとして同ブランドの世界的成功を支えたことで知られます。「デザインは社会に蓄えられた知恵である」という哲学のもと、コミュニケーションデザインを基軸に幅広い活動を展開してきました。原は日本デザインセンター代表として数々のプロジェクトを主導し、その影響範囲はグラフィックデザインに留まらず展覧会キュレーション、執筆活動など多岐にわたります。余白や簡素さの美学を追求したミニマルデザインを得意とし、そのスタイルは日本のみならず海外のデザイン界にも影響を与え、「無印良品」に象徴される日本的ミニマリズムがグローバルに評価される一因となりました。
原研哉の代表的な仕事としてまず挙げられるのは、無印良品(MUJI)のブランディングです。2001年からアートディレクターを務め、シンプルさと機能美を極めたブランドイメージを確立しました。無印良品のロゴやパッケージ、店舗環境における統一感あるデザインは、「これ見よがしでない洗練」を世界に示し、生活者のデザインに対する意識にも影響を及ぼしました。また、原は**「HAPTIC 感覚のかたち」(2004年)などのエキシビションを企画し、五感に訴える日本のデザイン展をロンドンやミラノで開催して国際的に話題を呼びました。さらに、高級商業施設 GINZA SIXのビジュアルアイデンティティ(2017年)や日本文化発信拠点 JAPAN HOUSE(ロンドン・LA他、2018年~)の総合プロデュースを手掛け、現代的な場にも日本の美意識を体現しています。これらのプロジェクトを通じ、原は「静けさ」「間(ま)」といった日本独自のデザインコンセプトを国際社会に提示**し、多くのデザイナーにインスピレーションを与えました。
原は武蔵野美術大学教授や日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)副会長も務めており、教育・組織面でもデザイン界を牽引しています。著書『デザインのデザイン』『白』などを通じて自身の思想を発信し続けており、中国や欧米でも翻訳出版されるなど国際的にも注目されています。近年では、2020年に早稲田大学で行われたインタビューで「無意識の中に新たなデザインの契機を見出す」と語るなど、常に新しい視点でデザインの可能性を探っています。原研哉の活動はプロダクトから建築、教育まで幅広く、その洗練されたデザイン思想は次世代のクリエイターや企業にも強い影響を与え続けています。
10. ピーター・サヴィル(Peter Saville)
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ピーター・サヴィルはイギリス出身のグラフィックデザイナー/アートディレクターで、音楽アルバムのカバーデザインを中心に現代視覚文化に大きな足跡を残しています。1970年代末、マンチェスターの伝説的レコードレーベル「ファクトリー・レコード」の創設に関わり、23歳の若さで同レーベルのビジュアルイメージを築き上げました。彼のデザインしたジャケットはポストパンク/ニューウェーブ時代のアイコンとなり、英国で最も影響力のあるグラフィックデザイナーの一人と見なされています。サヴィルの作風はミニマルかつ観念的で、音楽の持つ世界観を美術的なアプローチで表現する点に特徴があります。音楽分野で培った審美眼はその後ファッションや行政のプロジェクトにも及び、カルチャーとデザインを結びつける達人として評価されています。
サヴィルを語る上で欠かせないのが、ジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)のアルバム『Unknown Pleasures』(1979年)ジャケットです。黒地に白い波形グラフだけが描かれたこのカバーアートは、一見ミステリアスでありながら強烈な印象を与え、後世数え切れないほど模倣・オマージュされるデザインとなりました(※ディズニーですらこの波形をミッキーマウスTシャツに引用した逸話があるほどです)。この作品はアルバムジャケットをサブカルチャーの象徴へと高め、グッズやファッションにも展開される現象を生みました。また、ニューオーダーの『Power, Corruption & Lies』(1983年)ではクラシックな花の絵画をジャケットに用いるという意外性ある手法で、音楽と美術の融合を実現しています。近年では、高級ブランドのロゴデザインにも携わり、2018年にはバーバリー(Burberry)のロゴ刷新を手掛けて伝統ブランドにモダンな視点を注入しました。さらにイギリス政府や自治体のプロジェクトにも参画し、マンチェスター市のブランディングなどに貢献しています。
サヴィルは現在ロンドンを拠点にコンサルタント的な立場でデザインに関わっています。展覧会「サヴィルの視覚言語展」の開催や回顧録の出版など、自身の過去作品を振り返る動きも見られますが、一方で新しい挑戦も続けています。例えば、現代アーティストとのコラボレーションや、美術館のアイデンティティデザインを監修するなど、自身の美学を現代の文脈でアップデートする活動を行っています。InstagramなどSNSでの積極的な発信は控えめですが、2023年現在もファッションブランドとのコラボTシャツデザインや、音楽イベントのビジュアル制作に携わるなど健在です。そのスタイルは時代を超えて支持されており、「考えるデザイン」「感じるデザイン」の両面で後進に多大な示唆を与えるレジェンドと言えるでしょう。
各デザイナーは分野も活動スタイルも異なりますが、共通しているのはデザインによって新たな価値観や美意識を生み出し、多くの人々や企業に影響を与えている点です。グラフィックデザインは単なる視覚装飾ではなく、社会や文化を動かす力を持つことを、彼らの仕事が雄弁に物語っています。それぞれの代表作が私たちの生活や業界にもたらした変化に注目することで、デザインの持つ可能性と影響力の大きさを改めて実感できます。これら10名の現役デザイナーたちは、これからも革新的な作品と活動を通じて世界中にインスピレーションを与え続けるでしょう。
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