日本酒の新しい香り「4mmp」って何? 福岡・山の壽さんに聞きました!(鼻炎持ちがレポート)
2020年、日本酒好きの人から「日本酒の新しい香り、4mmpのお酒が面白いらしい」という話を聞くようになりました。
日本酒の、新しい、香り?
ぜひ一度実際にかいで、そして飲んでみたい。そこでその「4mmp」のお酒を実際に造っているという福岡県の「山の壽酒造」さんに質問しました。
ちなみに、山の壽は私のここ1-2年の推しです。フレッシュさわやか系が本当においしいのです。
「山の壽」の中の人に聞いてみました
質問に答えてくれたのは、山の壽のSNSアカウントの「中の人」こと斉田さん。山の壽は少数チームで酒造りを行っており、斉田さんは酒造りをしつつ広報をになっているそう。今日は勤務日にお時間をいただけました(お忙しいなかありがとうございます!)
「こんにちはー。興味をもっていただきありがとうございます。ええ、ここは蔵ですね。ちょうど今季もお酒造りが始まったところです」
(急遽オンライン蔵見学!)
「僕たちは小規模の蔵ですので、ひとつのフロアで酒造りのすべての工程を行っています。次はもろみですね。仕込んだばかりですので、お酒になるのはすこし先ですかね」
(もろみ!めちゃくちゃ写真とりました)
新しい4mmpとは、いったいなに?
そもそも、4mmpって、何ですか?
「ワインならソーヴィニヨンブランのような白ワインの特徴香のことです。ビールでいうなら、一部のホップが引き出す香り、といわれています」
いったい、なぜその香りが日本酒でできるようになったのでしょうか?
「昨年(2019年)でしょうか、とある論文で『日本酒でも4mmpを出すことができる』というのを読みまして。業界関係者の間では見た人もいたと思いますよ。私たちはもともと『香り』を大事にする酒造りをしていますし、新しい香りの表現を探していました。なので、これは挑戦しよう、とスタッフ皆で決断しました」
(一度戻って)「山の壽」ってどんな蔵?
(公式HPより)
「山の壽酒造」は、福岡県でメイン銘柄「山の壽」を醸す蔵です。創業は文政元年(1818年)!! しかし平成3年に台風の被害で蔵が全壊。2年後に少量だが高品質の日本酒を醸す蔵として再出発されたそうです。
現在はティール型組織としてチームで(主要メンバーは4名!)を中心に、ミニマムかつ、挑戦的な酒造りに取り組まれているそうです。
私自身、福岡県育ちなのですが、「日本酒が造られている」ことを全然知りませんでした(焼酎ばっかのんでました)。
ちなみに山の壽を私に教えてくれた酒販店「こだまや」さんの記事は下記。
改めてお話しをおうかがいします。
「この論文を読んだのが2019年で、もうその年に試験醸造をスタートしました。チームな分、新しいアイデアは実現しやすいんですよ」
蔵のなかでも「試験的なお酒」という位置付けの商品が、今回の「ヤマノコトブキ フリークス2」。山の壽の未来を占う作品です。
※ちなみに「1」もあり、こちらは新酒鑑評会で高い評価を得た純米大吟醸を低価格で実現したものです。
4mmpを実飲! これは…日本酒?
では、「4mmp」のお酒、いただきます。
キャップをあけた時点で香りがふわっときます。おお、結構しっかり香ります。日本酒の香りというより「アロマ」、芳香というか、若いっぽい感じです。
日本酒の香りは主に「りんご(カプロン酸エチル)」か「バナナ(酢酸イソアミル)」か、その合体(メロンとか)なのですが、完全に「その他」。
斉田さんいわく「マスカットのような、といわれることが多いです」とのこと。
そう、マスカットですこれは完全に。フルーツだけどすこし青い、流れる感じ。飲んでみると…おお、軽い。
日本酒特有の苦味とかこっくりした膨らみがほとんどなく、アルコールのとがりもない(13度の低アル)。「アロマ」の印象で最後まですーっと抜けます。
なにこれ、おもしろいです!!
新しい香りの秘密は…米?酵母?
これは…なんというか初の味です。軽い、爽やか。いったいどうやって「4mmp」を出しているのですか?
「それは企業秘密ではあるのですが…まあ香りを出しているのは酵母ですね」
ラベルをみると…なるほど非公開なのですね。
「でも一般的なきょうかい酵母※ですよ。本当のポイントはお米。一般的な酒米とは異なるお米を使っています」
※全国の酒蔵さんが使う酵母がいくつかあるのです。
お米、が違うのですね(確かにラベルでは「米」だけ…気になる)
「そのお米を使うことで、通常の日本酒の並行複発酵のバランスとは違う醪の状態を造り出し、通常使用の協会酵母にあっても4mmpを引き出しているのです」
(成分の話がわずらわしい方は、「普通じゃない材料を使って新しい香りを引き出した=通常の日本酒の香りはでない」とお考えください)
4mmpの日本酒は美味しいのか?蔵人ですら迷った
(おすすめは香りの感じやすいグラスで、とのこと)
当然、4mmpは山の壽酒造でも初の試み。斉田さんは「すべてが違った」といいます。
「発酵がはじまったときから『おいおいおいおい!』って、予想外でした。噂には聞いていましたが、本当にこれで大丈夫なのかって?」
完成した日本酒をいざテイスティング…しかし、感想は「?」だったそう。
「私たちはずっと日本酒を造ってきて、いわば『日本酒脳』になっているわけですよ。これまでの判断基準にない味わいでしたので、日本酒と考えるとこの子が美味しいのかどうか、わかりませんでした」
そこで、実際に地元の居酒屋さんに協力してもらい、もちこんで料理と合わせてみることに。すると「3人で飲んで、あっという間に持ち込んだ4号瓶2本がなくなった」ほどおいしかったのだそう。
日本酒というよりワイン。いや和食にもあう「新しい食中酒」の誕生です。
飲み方は自由で!
(熱燗だってやってみました)
4mmpの香りを存分に楽しむなら、最初はワイングラスなどがおすすめ。しかし「基本的に自由にのんでいただければ」だそうです。
私はやはり冷やしてキュッと味わうのか、また少し常温に近づけてやさしい甘みを味わうのが好み。熱燗にするとホットワイン、というよりもホットレモンのよう。穏やかな酸味がいい感じでした。
ちなみにこちらの「フリークス2」、売れ行きも好調。今年の分は早くも品切れのお店が出てきているそうです。
「フリークスシリーズは試験醸造ですが、今後の山の壽の方向性を占うお酒でもあります。今後も試行錯誤していきたいです」
ちなみに今年の「試験」は…と聞いてみると。。斉田さんはニヤッと笑います。
「今年の02BY※は、また結構変わりますよ。香りという特徴以外に、ちょっと仕掛けてみようと思っています。それはもう少し、冬までのお楽しみに」
※令和2年の醸造年度に造ったお酒という意味。ブリュワリーイヤー。
斉田さん、ありがとうございました!
今年の山の壽、楽しみにしています。
ちなみに、フリークス2と同じ酵母を使ったという県内限定酒「山の壽 万作」も注文。すごい、ぜんっぜん香りが違います。味もコクがあってキレもあって「日本酒」という感じ。比べると非常におもしろかったです。