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おもしろ酒屋さんに行こう!「油屋」と「坂戸屋」へ(東急田園都市線)
普段、日本酒を買うときは生活圏にある「酒屋さん」に行きます。
しかしこの「酒屋さん」、本当にいろいろなタイプ・個性のお店が存在しており、「わざわざ訪れたい」と思わせてくれる魅力的なところも多数。日本酒好きの間では「聖地」と呼ばれる名店もあるくらいです。
今回は、東急田園都市線にあるユニークな酒屋さんにいってきました。
「油屋」 完全おまかせスタイルが面白い
用賀駅から徒歩10分程度。趣のあるこちらが「油屋」。
油屋という名前ながら、「酒舗」とあり、「酒屋」だろうと辛うじて分かります。全然「町の酒屋さん」といった雰囲気はありません。
中に入ると…さまざまな陶芸品が。お酒はありません。
正面にはどーん、と大きな門。最近よくある「古民家風」ではなく、本当に古いものそのままという風情。にしても、立派です…
「ああ、これ。昔はほら、馬に乗って通れないといけないから大きかったんですよ。うちは江戸時代からここにありますから」
迎えてくれたご主人がこともなげに言います。
奥には「七賢」の樽酒。酒屋さんらしさが伝わってきます。
「どうもうちの先祖と七賢の先祖が、同じ戦に参加していたらしんですよ。いまでいうワンチームね。それを知って先代同士が意気投合したみたいで」
…良家です。
こちらの「油屋」さんは現在6代目(店頭にかかれた明治〜は、先先代の頃のもので、それ以前は同じ屋号で異なる商いをされていたとか)。
「さて、どうしましょう? 日本酒ですか?」
この文化施設か骨董店のような空間に、「日本酒の棚」はありません。樽酒やディスプレイがすこしと、焼酎がもうしわけ程度。
「合わせる料理は、何でしょう?」
??
1対1の提案スタイル
「たとえば、肉?魚?などはありますか? そこからお酒を提案しますよ。または贈答用なども可能です」
なんとなく「肉かなぁ」というと、先ほどの大きな門の奥から日本酒を取り出してくれました。(門の奥に業務用冷蔵庫があるそう)
ここから何種類か「試飲」させてくれます。
これが油屋の「おまかせスタイル」。想定の料理を告げると、それにぴったりのお酒をだしてくださるので、実際に味を確認してから選ぶことができます。
※コロナの影響で試飲は限定しています
選んだのは「琥泉」の生原酒。ほのかなシュワシュワ感が、牛肉のしぐれ煮などの後味をスパッと切ってくれるのだそう。
新聞紙に包み、口を縛り、そして筆でお酒の名前を書いてくれます。
「新聞紙って、紙とインクでしょう。油紙のようになって、急激な温度変化を抑えることができるんです」
料亭御用達のおまかせ酒屋さん
なぜ、こんな変わったお店なのかというと、それは「飲食店用」がメインのお店だから。
「うちは昔から、料亭のお酒を用意しているんですよ。その月のメニューを見て、合うお酒を蔵元から取り寄せる。量がある(飲食店だから)ので、いろいろ融通がきくんです。ある蔵の、このタンクの、一番いい真ん中あたりとか。だから同じお酒でもうちのは美味しいんですよ」
お酒の棚が見えないのも、メニューがないのも「料亭仕様」だから。
「そもそも料亭って、日本酒の銘柄をしっかり書いたりしていないんですよ。冷か燗か。でもそれでぴったり美味しいのを出すのが職人の技。それをプロデュースするのがうちなんです」
その大口の飲食店の「おまけ」として、一般の対面販売をしているのです。
なにより、ご主人のお話が面白い。お店の歴史(これは聞くほど驚く)に、日本酒と飲食店の変化、土地(用賀)の変化など、試飲をしながらカウンターをはさんでいろいろな話を聞かせてもらえました。
お酒を買いに来ただけです。たった1本、だから2000円もいかない。
でも、まるで「お店で飲んで、じっくり楽しんだ」ような充実感があります。
日本酒好きはもちろん、「何を選んでいいのか…」という人、ぜひ!
「坂戸屋」これぞ町の名酒屋!量り売りが楽しい!!
続いて、同じ田園都市線で7分、溝の口にある「坂戸屋」さん。
「油屋」でもう1本買おうかと思い(自動ででてくるシステムが楽しくて)、「いただいたもの(琥泉)と個性が反対なもの」とお願いしたところ、、
「うちは料亭仕様だから、やわらかいお酒が基本なんですよね。あ、でも近くの坂戸屋さんなら、うちとは全然違う面白いお酒がたくさんありますよ」
それを聞いてすぐにむかいました。
間違いのない「いいお店」
一見、普通の町の酒屋さんです。広くもない、狭くもない。
しかし棚と冷蔵庫に並ぶお酒を目にすると、油屋さんが推薦された理由がわかります。
惣誉、竹雀、綿屋、竹鶴、丹沢山、隆、十字旭、悦外陣、いずみ橋、田从、新亀、王祿、妙の華、朝日菊…
いちおう、いろいろ酒販店さんにいった身としていいますが、坂戸屋さんはいい。「日本酒わかんないなー」という人も、ここで欲しい味をいえば、まず間違いなくおいしいお酒に出会えるはず。
日本酒の「量り売り」ができる?
棚に並ぶなかからほしい瓶を選ぶ、というのが一般的な「酒屋」のスタイルですが、坂戸屋さんでは「量り売り」も可能です(瓶代100円)。
坂戸屋さんでは仕入れたお酒をまず「テイスティング用」として開栓します。その後は店内で開催する利き酒の会などで出すそうなのですが、それ以降は冷蔵庫にしまい「量り売り」に対応しているそうです。
この「開栓したけど飲み終わっていない」お酒は、棚にパンパンにつまっています。普通、棚に並ぶ日本酒の「奥にある日本酒」は同じものなのですが、開栓済み日本酒専用の冷蔵庫には、完全にランダムにごちゃとぎゃと入っています。
気になる日本酒を手にとると、その奥にはまた別の気になるものが。さらにさらに奥には、見たことないようなお酒も。
宝探しのようにお酒を探すことができます。
日本酒って「開栓後直後」(口切り、口開け)がよいとされる場合が多いです。理由はどんどん味が変わっていくし、温度や光の影響を受けやすいため。
でもそれは、裏返せば「開けてからの変化も楽しめる」ということ。
それも自宅の冷蔵庫ではなく、酒屋さんという業務用のしっかりした冷蔵庫でしっかり保管されているものを、少量から買うことができる。
非常に、よいです。
「残草蓬莱」「長珍」の2本を、300ml瓶でいただきます。特に「生」のお酒は変化が楽しみ。ちなみに坂戸屋さんでは購入前に試飲の相談も可能。
こんな感じになります。ちゃんと付箋をつけてくれました。
酒屋さんはおもしろい
「酒屋さん」(酒販店)は、酒蔵さんやレストランほど目立つ存在ではないですが、日本酒を人に届ける最前線(toC toB両方!)にいるわけで、そりゃあ面白くないはずがないのです。
ガンコな店主がいて徹底管理をしていたり(その分おいしい!)、角打ちでお酒の提供までやったり、飲食店にペアリングを考案していたり、なかには自分でお酒のイベントや賞を開いてしまったり…
「酒を売るだけ」=「酒屋さん」では、全然ないのです。
街でふと酒屋さんを見つけたら、ついつい覗いて買ってしまいます。
田園都市線に御用の方はぜひ。
※この記事は2-3月あたりに取材したものです。今、さまざまな酒屋さんで量り売りの動きがでてきています。
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