熱燗は「ちろり」「酒器」でかわる 三軒茶屋・ジョーズマン2号の「深夜の燗トレ」に参加
お燗酒の奥深さを学ぶ「お燗トレーニング」。
以前お邪魔した三軒茶屋の「ジョーズマン2号」で、毎週末の深夜にお燗力を鍛える「深夜の燗トレ」があると聞き、参加してきました。
「深夜の燗トレ」とは
・毎週土曜、23:00より1時間行われる
・お燗を飲み比べできる
・予約制、大人数不可
たまにカフェなどでコーヒーセミナーをしているのを目にしますよね。飲み屋さんの催しですのでそんな感じかと思っていたのですが、参加者は自分ひとり。カウンターを挟んで店長を完全マンツーマンという贅沢なコースでした。
本日の燗トレメニューはこちら
1・ちろりの「材質」の違いを比べてみる
2・酒器の「形」の差を比べてみる
1・ちろりの「材質」の違いを比べる
まずは熱燗をつける「チロリ」による味の違いを体験。
※チロリはお酒を湯煎するときに入れる器で、さまざまな素材があります。お酒に直接触れるとため、お酒の味の変化と直結している大事なもの。食材に直で触れるという意味では、料理の「フライパン」や「鍋」みたいだと思っています。
写真は熱燗を徳利に注いだ後のものですが、それぞれの中身は「錫(左)」「銅(中央)」そして「ビーカー(右)」で同じ温度まで上げたものです。
お酒は福島県にある仁井田本家の「にいだしぜんしゅ」。無農薬、無肥料の自然米にこだわったエコな日本酒です。この間渋谷の東急百貨店で見つけて驚きました。
後ろの人影はトングで何かの肉を焼く店長。この距離感で熱燗をレクチャーしてくれます。
比べてみた結果はこちら
・錫
やや丸みがあり、口のなかで甘みと旨みがスーッと広がる(気がします)。ふんわりした優しいお燗です。美味しい。
・銅
錫よりも少しだけシャープ、しかし刺激はない。まろやかさのなかに芯を感じる(気がします)。余韻はぐーっと長め。もちろん美味しい。
・ビーカー
これは初体験ですが、意外とあり! 味は「広がり」というより、口に入れた段階ですでに全開(な気がします)。銅ほど丸くなさはなく、カクカクした感じはあるが、そこも含めて当然美味しい。
正直にいうと、1回比べただけではわかりませんでした。二度三度と何周も比べていくと、少し温度が落ち着いたタイミングでそれぞれの個性が見えてきます。
店長の答え合わせによると、「ビーカー」はお酒をそのまま温めることができるのが特徴。瓶の中の酒質を保てるそうです。「錫」は、よく聞くように酒をまろやかに変える特性があり。うん、確かにこれが一番まろやかでした。「銅」は2つの中間というか、お酒に変化を加えながらも丸くしすぎない、ちょっとシャープさを残すことができるそう。
ジョーズマン2号では通常「銅」を採用しているらしいです。特に「にいだしぜんしゅ」は非常になめらかでやさしいので、芯までぼやけてしまわないように、とのこと。
熱燗って、調理だ。それを改めて感じさせてくれます。
2・酒器の「形」で違いを比べてみる
続いては「酒器」の違い。
左から
(磁気)
1「ややストレートのおちょこ」
2「小さな平盃」
3「大きな平盃」
(陶器)
4「ふちの薄いおちょこ」
5「飲み口の分厚いわんぐり」
お酒は旭日酒造「十旭日」です。蔵に訪問するくらい好きなやつです。熱燗でぜったいにおいしいやつです。
写真拙過ぎますが、生酛の雄町です。いいやつ。
では結果、というか感想です。
十旭日特有の旨みをも強く感じられたのは「平杯」。なかでも3:大きめの平盃が、甘み、旨みをくっきりと感じました。
順にいうと
1:ストレートは、飲むとときに勢いがつくため、お酒の味が口の奥のほうから味が広がる印象。香りはとりづらく、他と比べるとすっきり。
2:小さい平盃は舌の先から順に「甘み」と「旨み」をしっかり楽しめます。お酒が流れる口径がやや狭いので、お酒は舌の中央をスーッと流れていきます。
3:大きな平盃は口径が広いため、舌の両側に広がりながら流れていきます。これがもっとも味を感じた理由かと思います。
続いて「陶器」。ざらつきのある素材はお酒を揺らして変化を促す…とはいいますが、そこは今回力不足で読み取れませんでした。
面白いのは5:ふちの分厚いわんぐり。もともと丸い熱燗がより丸く、まろやかに感じます。しかしその分、十字旭特有のインパクトは薄れる印象。
口に触れる縁が薄いとシャープに、分厚いと太く感じます。
お酒の個性をより強調するのなら平盃ですが、個性が強すぎると感じた場合は縁の厚い酒器で「コーティング」するのもありというわけです。
※ちなみにストレートタイプも味を隠す特性がある酒器です。癖が強すぎるお酒なんかをストレートでいくと、ちょうどよく味わえることもあります。
2-2お酒を変えると反対の印象に?
さらに、酒器は同じで「お酒そのもの」を変えてみました。
お酒は「生酛のどぶ」でも知られる久保本家酒造の「睡龍」。先ほどの「十字旭」に比べると熟成感があり、重心が低め。甘みや旨みまで到達するのに時間がかかるタイプです。その代わり、じわじわと滋味を感じます。おいしく楽しむのにややコツがいるお酒です。
同じ酒器で比べてみると、今度は5:飲み口の分厚いわんぐりがもっともバランスよく感じられました。平盃もいいけれど、独特の熟成香と「閉じた」エッジがやや強い印象。
好みの順番がひっくりかえります。
「よく、酒器を自由に選べるお店がありますよね。僕はそれは賛成できません。飲食店は『この料理にあうこの味』を感じて欲しいと考えてお客様にお酒を提供します。ちろりや酒器の違いでこんなに印象が変わるのだから、そこまでちゃんと考えていかないと」(店長)
と、店長の言葉。
僕はもちろんのこと、カウンターで横並びだった渋い雰囲気のご夫妻も大きくうなずいていました。ちなみにお二人はワインの小売業を営んでいるそうで、今日はお茶の違いを比べる「利き茶」を楽しんでいました(メニューにはなし)。何屋なんだろうここは。
「これまで、飲食店はただお酒を仕入れて出すだけでした。でも、それじゃあいけない。『このお店にしかない味』『ほかにはない体験』という付加価値を生むことで、日本酒の魅力をもっとしってほしいのです」
(メモしていないのですが、だいたいこんな言葉だった気がします)
店長さん、かっこいいです。
ちなみにジョーズマン2号では、現在ファン感謝祭として
「飲食店異種格闘技戦※」という取り組みをされているそうです。
これも気になります。
※ひとつの料理・またはコースに対し、ジョーズマンは日本酒、対戦相手は得意なお酒(ラム酒のバーテンダーとか自然派ワインの名店とか)を合わせ、どっちがよりマッチしていたかをお客さんの投票で決めるというもの。
この日は夜からの約1時間、終電ぎりぎりまでみっちり飲ませていただきました。
やっぱり、プロの熱燗は別物のようにおいしい。
ごちそうさまでした。
ジョーズマン2号
https://www.joesman2go.com/