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津川屋(赤羽)を貫く新潟酒・麒麟山のDNA。「酒蔵がうちの本家ですから」
日本酒を取り扱う酒屋さんの中でも、特定の「推し酒」を猛プッシュするお店に話を聞くシリーズです。今回は北区赤羽の「津川屋」さん。実は、新潟県の地酒「麒麟山」が「本家」にあたるのだそう。そんなタイプの酒屋さんもあるのですね。
飲み屋さんの街・赤羽に構える「町の酒屋さん」
「Liquor Shop TSUGAWAYA」。一瞬、日本酒があるようにみえません。
(店頭ではためく麒麟山ののぼり)
津川屋さんは、いわば「町の酒屋」さん。日本酒、焼酎、ワイン、ウイスキーなどひとおりのお酒を扱っています。なかでも、日本酒はほとんどが新潟の「麒麟山」です。正直、東京ではあまり見かけない、マニアックな銘柄です。
レジの奥。すべて麒麟山。
冷蔵庫も常温の棚にも、麒麟山が数種類、ずらりと並びます。
こちらが店主の斎藤さん。趣味はバンドで担当はボーカル。来店した近くの飲食店のお客さんと「(コロナがあけたら)そろそろ演奏したいよなー」と楽しげにお話しされていました。
「いらっしゃい。麒麟山かい? 蔵元が本家なんだよ、うちの。だからがんばって売ってるよ笑」
ーー本家、というと、ここは酒蔵の「直売店」のようなことでしょうか?
「まあ、“ほぼ”直だね。うちの祖父が生まれ育ったのが新潟の麒麟山酒造だったんだけど、長男ではなかったこともあって東京に出てきて、赤羽で酒屋をはじめたんだ。まあ、地方の酒屋の子どもが東京で酒屋やるなんてのは、ほかではあまり聞かないかな。
『津川屋』は俺で3代目だから、今の麒麟山の社長は『はとこ』。流石にいまでは帰省したり、直接交流することはほとんどないけどね」
「うちでは毎年12月に麒麟山の『たる酒』も売ってんだよ。香りがつきすぎるのもよくないから、24時間くらいつけて瓶詰にいれている。これがね、ものすごい売れるんだ。
うちみたいな小さなお店が問屋を通さずに蔵から取引するには、ある程度のロットがなければ難しいんだけど、本家ということもあって麒麟山だけは少量でもすべての種類を常に仕入れることができる。季節の限定品からデパートに並ぶような高級品まで。それが“本家”があることのメリットかな」
ーー逆に、他の人気のお酒を仕入れにくいといったデメリットはありますか?
「どうかなー、たしかに『人気銘柄名○○○置いてない?』と聞かれることはあるかな。でも…かつて有名銘柄が流行っていたときも、うちにくる人はやっぱり麒麟山をもとめる人が多かったから。
いま、新潟の酒って世間じゃあまりよく言われなくなってきているよね。新潟というと『昔ながらの酒』みたいにいわれちゃって。それのなにが悪いんだよ。うちでは、むしろ最近の方が、若い人たちも麒麟山を買ってくれるようになっているんだから」
「麒麟山」って、どんなお酒?
(今年3月にラベルをリニューアルされたそうです)
ーー新潟のお酒というと「辛口・淡麗」を思い浮かべますが、麒麟山はどのようなお酒なのでしょうか?
「“辛口”といっても、実はいろいろな味わいがあるんだよ。麒麟山の“辛口”は、味があって、もたもた残らない、酒かな。キレが良すぎるのもだめで、多少は舌に残って欲しい、けど、キレないと次のひと口に進まない。その辺りのバランスがよくできていると感じます。
日本酒の『辛口』って、ヒーヒーいう辛さじゃないんだよ。あ、でも静岡のお酒とかだとカーッってなるお酒造っているとこともあるかな。それもおいしいけど、新潟の酒とは抜け方が違う。やっぱり、水の特徴だと思う」
「うちは麒麟山以外にもいろいろな日本酒を扱っているんだけどさ、ああ、そっちは問屋さん経由だよ。問屋さんのアイテムのなかから、うちのお客さんに飽きられないようにって選ぶんだけど、そのために毎年試飲会をするんだ。
全国の酒を飲み比べてみると、たとえば四国のお酒は四国の味がするし、九州の酒を飲んだら九州だと感じる。やっぱり味の重みが全然違うし、新潟出身の俺からすると、南の方の甘めのお酒は、おいしいけどたくさんは飲めないと感じてしまう。
それで新潟のお酒に戻って、香りをかいで味わうと、やっぱり落ち着く。
多分、ほかの地域の人も同じじゃないかな。南の人が新潟の酒を飲んだら、ものたりないと感じるんじゃないかと思うよ」
「うちはさ、子供のころから家に麒麟山の一升瓶転がっていて、じいちゃんはへたしたら朝から晩まで飲んでるような家だったんだよ。酒を隠してものむ、みたいな。まあ家が酒屋だから隠したところで意味ないんだけど。
だから、やっぱりもう俺の体には、麒麟山の味が染み付いているんだよ。麒麟山という酒が根本にあって、何を飲んでも麒麟山より甘いのか、辛いのか、重いのか軽いのかって判断になるんだ。
お酒は嗜好品であって、人によっても、その時々によっても感じ方が変わるもの。それを思うと、麒麟山はいつ飲んでもおいしい。本当に落ち着けるお酒なんだよ」
麒麟山のDNAを東京に受け継ぐ貴重な存在として
ーー麒麟山酒造の「直系」の酒屋さんとしての“矜持”を教えてください。
「なんだよそれ笑 俺がこの店に産まれたのは、たまたま。
身内のお酒なんであまりすごいと感じたことはないけど…すべてのラインナップが常にあるからさ、お客さんにしっかり麒麟山を紹介できるというところはある。だから、同じ麒麟山でも、お客さんの好みや、その日の料理など聞いて、それなら麒麟山の中のなにが合うかっていうことができる。
東京で麒麟山をこれだけ揃えているところって、あまりないと思うんだ。あ、実は親戚筋でいくつか酒屋あるけど、うちほど麒麟山は多くないみたいだから」
ーー津川屋さんが、東京における麒麟山の魅力の発信拠点なのですね。
「うーん…でもまあ、個人的な思いとしては、このままあまり有名にならないでほしいかな笑。ゆっくり、固定のファンに愛されている今の状態がいい。
麒麟山ってメディアに出ることがほとんどないから、『知るひとぞ知る酒』『新潟で愛される酒』って感じなんだよ。
新潟から東京に出てきた人が、飲み慣れた味をもとめて、うちにやってくる。そういう人はたくさんいるんだよ。なかには半年分くらい買っていく人もいるからね。そんな新潟のお酒を好きな人たちに支えられているんだ。
まあ、もちろん爆発的に売れるぶんにはうちは文句ないけどね笑 流行になって廃れていくようにはなってほしくないと思うよ」
(赤羽の人気酒場で有名なハイリキも!)
「あと、赤羽の飲食店では結構麒麟山を見かけるんだけど、全部うちのなんだ。店としての取引がなくっても、店主が個人的に買いにきて、それを出しているところもある。扱いは少しずつでも、季節の商品を楽しみにしてくれている赤羽の人もいる。東京の酒場でも、麒麟山は受け入れられていると感じる」
(俺も飲むことが好きだから、酒場パトロールはよくしてるんだよ笑)
麒麟山初心者におすすめの2本
ーー最後に、麒麟山初心者の私に2本の麒麟山を選んでいただきました。
「右は『伝統辛口』で、麒麟山の王道。これはもう、どうやってもいい。常温保存でよくて、冷やしても温めても。左は『ユキノシタ』といって、これはどちらかというと今風。つまみがなくてもそれだけで飲めるし、たまにチョコなんてほうりこみながらゆっくり味わうのもいいね」
津川屋の斉藤さん、ありがとうございました!
本家ゆえに、力むことなく、自然体で、過剰にもちあげることはしない。しかし自らの中心にある麒麟山の魅力を信じている。そんな斎藤さんの紹介を聞いて飲む麒麟山は本当においしかったです。絶妙な軽やかさとやさしさを感じました。
お店の前の看板。レギュラー酒が麒麟山のみのため、そうなるだろうと思いながら撮影しました。逆に3位すごい。
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