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玉箒(新橋)で、未知の日本酒体験「20秒後に美味しくなるお酒」とは?
新橋にある和酒バー・玉箒(たまははき)。偶然にも接点のない複数のお酒好きから「行ってみるといい」と聞いて以来気になっており、SNSで相互フォローしていただくも自粛でずっといけなかったお店です。
和酒を愛するマスターが、今日、そのときの自分の琴線に触れる一杯を、それも何杯も続けて出してくれる、ほかのどことも似ていない不思議な空間でした。
「バー」なのに「和酒」のお店
場所は新橋、駅前から伸びる飲み屋街に位置します。主に焼き鳥とか炉端焼きみたいな、仕事終わりの人たちが元気に乾杯するお店の密集地帯です。
お店とお店のわずかな隙間にみえる階段を降りた地下がお店。ここだけ急にひっそりしています。調べていかないと見つけられないほど。
(写真は事前に許可をいただきました)
カウンター数席のみ、予約しておいたのでなんとか座れました。
アンティークの時計や鎖、絵画の額、そして人形などがディスプレイされており、絵本というか、独特の雰囲気です。
(熊?)
そして棚の奥に並ぶものが「日本酒や焼酎」というところが、さらに国籍不明の異世界感を増しています。
日本酒や焼酎は「料理と一緒に」いただくことが多いため「居酒屋」が一般的ですが、ここは「和酒」そのものを楽しむ場所。
「実は、日本のお酒で完全なバーでなかなかないのですよ」とマスター。
本日のあて(着席と同時に出てきます)。もずく寒天、うめぼし、しじみ味噌、生ハム、ドライフルーツなどなど「ちょっと舐めて」お酒を楽しむタイプのものです。これがものすごくおいしい。タッパーでもって帰りたいくらい。
「まずはどのようなお酒にしましょう」
とマスター。お酒リストのようなメニューがあるわけではなく、好みのお酒やその日の気分を伝えると、それをヒントに「提案」してくれるのだそうです。
しまった。完全に「おまかせを楽しもう」という体でしたので、なにも考えていませんでした。
「クリーミー」なお酒をいただけた!
うーん…と迷っているとマスター「では、クリーミーさんが先日SNSで気になるとおっしゃっていたお酒にしましょう」と、『西ノ門』(飲みたいとつぶやいたのです)の地元向け別銘柄『雲山』を選んでくれました。
※(私、クリーミーを名乗っています)みていただいていたとは。ありがとうございます。
トロッと甘く、蜜のような味わい。ウイスキーのように舐めながらちびちび飲みたい味わいです。
「もし、ご興味あれば…」とマスターが次に選んだのが(この「ご興味あれば」というソフトめの提案でどんどんお酒を出してくれます)、「満寿泉」による数量限定アイテム「リンク8888」。
なんとシーバスリーガルの樽で熟成させているのだそう。
「樽熟成による『バニリン』(という成分)がお酒にうつり、甘さはありながらもしっとりなめらか。まさにクリーミーな味わいを感じられると思います」
すごい、名前(私、クリーミーを名乗っています。念のためもう一度)から提案いただけるとは夢にも思っていなかったです。
飲んでみると、すごい、本当にクリーミー。樽酒のような木のニュアンスではなく、やわらかいバニラ(バニリン!)。すごくおいしい。クリーミーやっててよかったです。
お酒を「つながり」で飲むとよりおもしろい
「もし、ご興味あれば、クリーミーなお酒の『兄弟』みたいな存在のお酒はいかがですか?」とマスター。ここから「クリーミーつながり」のお酒が続々でてきます。
「にいだしぜんしゅ」の秋上がり、去年のやつ。
※秋上がりはひと夏熟成したもの。それをさらに1年熟成させたそう。
うん、クリーミーです。確かに先ほどのお酒と似ています。こっくり、しっとり、でも少し若い感じ。たしかに「弟」だ。
クリーミー系でもうひとつ、ここで日本酒ではなく「焼酎」が登場。
球磨焼酎の「六調子」です。
日本酒と焼酎、醸造酒と蒸留酒、そもそもお酒の種類が違うのに、これがたしかに「兄弟」でした。味のニュアンスが似ている。不思議とクリーミー。
「飲み切ったあと、グラスの匂いを嗅いで見てください。ケーキの『スポンジ』のような香りがしますよ」
たしかに!クリームじゃなく、もっとふわっとふくらんだ「スポンジ」が瓶に残ります。なんだこれは、すごいおもしろいです。
この間も、マスターはいろいろな専門的な(バニリンとか香りの要素とか)言葉や、造り手さんのこだわりなどを軽妙に話してくれます。
(いただいたクリーミー酒3兄弟)
当然ですし、プロに向かって失礼ですが、「ガチのマニアだ」と感じました。仕事とかではない、もうただたお酒のマニアックな世界の中の人。そんな人の詳しすぎる解説を聞きながら(理解度は置いておいてわからなくてもおもしろい!)、そのお酒を飲む。
カウンターにならぶひとりひとりに、マスターはオーダーメイドのコースのように様々なお酒を出していました。
ちなみに横に座っていた人には「高濃度アルコール(消毒用に各酒蔵からリリースされたもの)」を樽熟成させて香りをつけたものなど「自粛中にいろいろやってみました」というよくわからないお酒が。
(このミニ樽や甕で実験しているのです)
「20秒後においしいお酒」の登場
「もし、ご興味ありましたら」と、次のお酒です。
福岡県「博多小女郎」。アルコール度40%となかなか強めな原酒(の、店内熟成)です。
「これは、飲んでから20秒後に美味しくなるお酒です」
ひとくち、これまでのクリーミー酒シリーズに通づるバニラのニュアンス。味は控えめで派手さはなく、落ち着いた感じ。するっといなくなる。
(10秒後)……………おお。すごい、時間と共にどんどん味が増す。(20秒)……あまい、さわやか!口のなかがすごいことになってます!
なんだこのお酒は、20秒後が、たしかに最高に美味しい。
「料理とかと合わせるようなものではないのですが、じっくり会話相手になってくれるような、そんなお酒ですよね。わかりやすい美味しさ、とはまた違う楽しみだと思います」
古酒の澱を集めたお酒の、さらに「上澄み」
(写真はあやふやです、たぶんこれ)
「もしご興味ございましたら」といただいたのが熟成酒で知られる「達磨政宗」。最近、この達磨政宗は「おり」だけを集めたものを販売して話題になっていました。(つまりドロドロと黒いお酒です)
それをお店の中の「甕」でしばらく「落ち着け」て沈殿させ、できたわずかな「上澄み」だけを取り出したものだそう。
液体はきれいな赤色(ワインレッド)。とろりとした粘度がわかります。
古酒のどっしりしている味を想像していると、まったく逆。
果物です。プルーンとか、干しぶどうとか。古酒なのに、むしろ、きれいな美味しさ。これはすごい!古酒ってこんなフルーティーにもなるんだ。
美味しい、だけじゃ寂しい
ひとつひとつのお酒が、それぞれ語ることがあり、おかわりのたびに新しい発見があります。むしろ「普通のお酒」というものが出てこない。
「もちろん、普通に買った状態でおだしするお酒もありますよ。でも私としては、お酒を『おいしかった、よかった』だけで終わらせてしまうのは寂しいのです。熟成したり樽にいれたり、可能性を感じたものはいろいろ試しています」
(みりんなど様々な「実験中のお酒」を前に話すマスター)
新橋・玉箒、噂以上におもしろいお店でした。
お酒って、要素を分解していくと、こんな楽しみ方ができるんだと驚きました。「おいしい」だけでは終わらない。「おいしい<おもしろい」の世界。
マスターの行き過ぎた感じがさらにいい。明らかに一般人とはステージの違う、こういうやばめな人のお酒は、本当に楽しいです。
お酒って娯楽だな、と思いました。
マスター、ありがとうございました。
次回は樽の中の怪しいお酒を狙っておうかがいします。
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