「熟成酒」の個性を体験【新・いにしえ酒店】 “おいしい”の物差しを越える異世界の酒
「熟成酒」ーー世界のお酒の中には、熟成により価値が上がるものがたくさん存在します。しかしなぜか「日本酒」ではなぜかあまりみられません。
だって、日本酒の熟成酒は、新しい日本酒とは「別世界」にいるから。
それが今回感じたことです。もはや完全に別の魅力。だからこそ、最初の一歩を越えると、どんどん奥に進んでしまう引力があります。
2021年6月にリニューアルオープンした熟成酒専門店「いにしえ酒店」さんにいってきました。
※氷温熟成などは省き、いわゆる「飴色」のお酒とお考えください。
品川の古民家で再オープン
北品川へやってきました。以前お店は方南町にあったのですが、2021年6月に宿場町・北品川へ移転しました。
古民家をリノベーションしたSHINAGAWA1930(1930年にできた古民家だそう)の一角にあります。となりは日替わりのカフェ。そこでポークビンダルー食べてからお店に向かいました。
熟成酒専門店とあり、古民家に映えます。
おおおっ…!すごいです。
琥珀色が美しい上段の瓶は、年代ごとに瓶詰めされた熟成酒シリーズ。落ちてこないか怖い。
「いらっしゃいませ、ここは全てのお酒が『熟成酒』のお店です」
いにしえ酒店では、7蔵の「熟成酒」のみを集めており、すべて試飲可能。さらに少量(1合瓶)から購入可能とのことです。
「普段はどのようなお酒を飲みますか?」というような“問診”から、その人にあった熟成酒を提案してくれます。(他のお客さんとの会話を盗み聞きしました)
※お店の方は2人いて、記事では両方の言葉をあわせて「お店の声」としています
熟成酒には「日本酒の延長」と「別世界」の2タイプがある
(看板銘柄でもある木戸泉。長年熟成酒にとりくんでいる銘醸蔵です)
熟成酒といっても、店内には飴色の「これぞ熟成」といったものから、普通に酒販店で見たことのあるものまでさまざまのよう。実は、熟成酒は大きく「日本酒の延長」と「古酒の世界」の2タイプがあるのだそうです。
「日本酒の延長」の飲み比べ
そこで、早速「日本酒の延長」という熟成酒の飲み比べを体験。
いにしえ酒店では、試飲の他「飲み比べセット」でいろいろなお酒を味わうことができます。お酒は左から「龍勢」「車坂」「木戸泉」です。すべて5年熟成。おちょこに注いだ色は全体的に澄んでいます。
味はというと…ふつうにおいしい。フルーティーとか飲みやすいとかではもちろんありませんが、クセはさほどなく、コクや甘みの幅がすごいです。
「龍勢さんのお酒は、『熟成』とうたってなくても、時間がたつほど美味しくなるお酒ですね。一方『車坂』は、蔵のポリシーか『熟成としては絶対出さない』という姿勢があって(笑)、そのためこれらは普通の日本酒という形で酒販店さんに並んでいます」
熟成によって日本酒がどうかわるのか、なんとなくわかります。まろやかになるというか、甘味のタイプが変わるというか、とりあえず「おいしい」。日本酒の進化型といった印象です。
別ジャンル「古酒の世界」の飲み比べ
続いては「日本酒の延長線上にない古酒タイプ」というのセットです。左から「長良川(1998年)」「車坂(20年常温熟成)」「木戸泉 10年の古酒」。日本酒とつながっていない熟成酒とは?とおもいながらも、飲んでみます。
まずは右側の木戸泉10年から。「うちの基準のお酒です。この味が大丈夫であれば、大抵どの熟成酒もいけます」のだそう。
……うわぁ、くさい。いや、くさくない、ぎりくさくない、くせが強い。なんだこの味は…。自分の知っている「おいしい」枠ではないけれど、一周回っていける気もする。なかなか脳がお酒の味においつけません。もうひとくち。
次に透明な(しかし最も古い)「長良川(1998年)」にいくと、あれ、こっちの方がスムース。甘みが濃くて、ウイスキーに近いかもです。そして「車坂」はどっしりとした重みがありますが、丸くて落ち着いた味わい。素直においしいです。
そして、なぜかもう一度「木戸泉」を飲みたくなります。不思議なことに、よくわからないこの味だからか、どうにも口が「確認しろ」と体に命令します。そしてそのうちに、段々とクセが少ない味では物足りなくなってきます。
熟成酒は「わからない」が正解
(店主です。「熟」マークの前かけが素敵です)
ーー熟成酒って、古ければ古いほど、おいしいのか。そう尋ねてみたところ「いや、わからないです、とのこと」
「たとえば、同じ蔵の同じお酒で2000年、2001年、2002年のようにビンテージを揃っていても、熟成が1年ごとに均等に進むわけではありません。さらにまったく同じ年にできた熟成酒でも、熟成させる環境によっても(お店など)変わってきます。どうなるか本当にわからない…まさに生き物です」
では本当においしい熟成酒とはなにかというと…私たちもまだ出会っていないんだと思います」
単純な「おいしい・おいしくない」ではない。その先にある別の魅力の世界。熟成酒、足を踏み入れると恐ろしくおもしろそうです。
ちなみに、いにしえ酒店の方は、あまり「熟成酒最高!」「熟成酒って面白いよ!!」のような紹介の仕方はしません。わかりやすい優劣ではなく「こういう世界がある」というところまで。
なんとなく、蕎麦屋さんというか、老舗の料理屋さんとかから感じられる「ウチはコレ」という、言い過ぎない姿勢を連想しました。
→「(いろいろおいしいものがあるのは知ってるけど)ウチは(蕎麦で商いをしているから、その世界の中ですべきことをやる。だから提供するものは)コレ(であって、別に他の何かと比べるものではない)」
ただでさえ情報量の多すぎる熟成酒の世界です。いにしえ酒店さんの押しすぎない温度感は、未知の味をじっくり味わうのにぴったりでした。
いにしえ酒店のSTAY HOME セットを購入!
こちらが購入した「おうちでいにしえ酒店セット」。熟成酒は大量に呑むというより、ちょびちょび「味を見ることを楽しむ」ことが私には合っているように思えましたので、少量セットはありがたいです。
「瓶詰めが本当に面倒で、2度と(この企画は)やりたくないです」とのこと。ありがたく、おいしくいただきます!
※現金不可です