細かすぎる酒蔵見学 【村井醸造】酒造りのリアルな現場を、現役蔵人が徹底ガイド
日本酒「真上」「真壁」などを醸す、茨城県の「村井醸造」。今回は、蔵人の臼井卓二さんに蔵の中を案内してもらいました。
雑誌などで目にする「お米を蒸して蒸気の上がる」のような派手さはいっさいなし、酒造りを支える細かい相棒や道具をたくさん紹介します!
※村井醸造では予約制で一般客の蔵見学を受け入れています
とにかく広い!歴史ある酒蔵
ーー村井醸造の創業は江戸時代初期。地域を代表する蔵であり、かなりの広さがあります。
「とにかく、広いんです。仕事の間ずっと歩いていて、午前だけで5000歩は軽く超えます。蔵の中には宿泊できる大部屋もありますので、昔は多くの蔵人が来ていたそうです。昔は休憩時間にみんなで麻雀やったりとか、庭に野菜植えてそれを食べていたとかいろいろ話を聞きます」
ーー現在、仕込み現場で働く社員は臼井さんのみ。その他は、酒造りの時期にやってくる南部杜氏の親方、季節雇用のスタッフ、アルバイトの4名で酒造りに取り組んでいます。
「○○醸造」の蔵は、お酒以外もつくっていた!
ーー敷地内には、現在は使われず物置となっている建物もあります。そのなかで「文明」という「醤油」の文字を発見。
「昔は醤油もつくっていたみたいですね。ほら、うちって『村井酒造』じゃなくて『村井醸造』っていいますよね。『○○醸造』というところはだいたい日本酒以外のものもつくっていたりしますよ」
ーー○○酒造と○○醸造の違い、初めて知りました。
酒造業界で話題の「擬似米布」がすごい!
「これが擬似米布です」
ーーすみません、「擬似米」からわからず…。
「ああ、お米を蒸す『蒸米』のとき、甑肌(炊飯器でご飯を炊いたときに一部がべちょっとなる、あれです)を起こさないために、蒸し器の一番下にプラスチックの粒(擬似米)をつめたふくろをいくつか敷くんですね。でも、擬似米は袋から漏れるおそれもあるし、白くて本物のお米と区別がつかないため、混入してしまうこともあります※」
※お酒の品質には問題ありません。
(噂の擬似米。確かに、お米と見分けつかなそう)
「そこで最近でてきたのがこの『擬似米布』。シートを10枚ほど蒸し器の底に敷くと、擬似米と同じ効果を得られます。蒸しのむらがなくなるのはもちろん、擬似米袋より薄いので、蒸す米の量を増やすことができる。なにより、洗いやすいのがいいです」
詳しくはこちら
http://kikuplando.co.jp/images/catalog/20.7gijitoku.pdf
精米を自動化するウッドソン
ーーこちらは、お米洗いを自動化する「ウッドソン」。ウッドソン社の社長はもちろん木村氏です。
「ウッドソンはいいんですよ!誰がやってもいい洗米ができる。ただし、この下に洗い終わったお米を受け止めるザルを置き忘れると…お米が地面に落ちます。この失敗はやったことはないですよ、幸い」
ーーWウッドソン!!
「連続式ですね。糠を落とすところから洗米まで一気にできます。ウッドソンは他の酒蔵さんでも結構使っているんですよ。どこかの蔵がある道具を使い始めていい話を聞いたら『じゃあうちも』って、酒蔵の世界ってそんな感じみたいですよ。
僕はウッドソンでの洗米しか知らないのですが、いまから手洗いにしろといわれたら、ちょっといやですね笑」
酒母は「手」で作る!
「こちらが酒母(お酒の素、とお考えください)のタンクです。できるお酒の8%くらいの量です。いまつくっている銘柄『真上』ですと、少量で仕込み、トライアンドエラーで味を模索しています。
蓋? いえ、ほぼしていません。埃が入らないくらいにカバーすることはありますが、密閉すると中の微生物が空気を吸えなくなって、硫化水素臭が出たりするんですよ。
酒母には、『手もと』を行います。親方は『手あま』っていうんですけどね、手で麹と米を混ぜ合わせて、溶けるようにする作業です。親方は『上半身裸でやれ』というのですが、僕はシャツ着てやってます」
酒母タンクは「ちょっと浮かして」ムーディーに温める
ーーところで、ブロックなどでタンクを少し「浮かしている」のは何故ですか?
「下に電球を入れて、温めるためです。ほら、昔の電球ってつけると温度があがるので、それでタンクの温度を調節しています」
「夜だと、電球が綺麗で結構ムーディーな感じになりますよ。先日はさらに、タンクを毛布で包んで18度にキープしていました」
機械と手作業は一長一短!
「ここは麹室です。うちでは手作業の箱麹と、『ハクヨー三段』の自動製麹装置を使っています」
ーー名前がかっこいいです。
「これもなかなか優秀なんですよ、自動で温度をあげたり、風を当てて下げたりしてくれます。しかし、温度制御のセンサーはひとつしかないため、異なる種麹を使用した麹を同時に三段盛ることはしていません。上撰や佳撰は自動で、少量の『真上』の場合は手作業の箱麹で作っています。ただし、手作業のときは蔵に寝泊まりしなければいけません」
空気に触れずに濾過できるSFフィルター
「これ(写真中央のロケットみたいなもの)はSFフィルターです」
ーーこれも名前がかっこいい!
「お酒を濾過する道具です。すごい楽なんですよ、お酒を空気に触れさせずに濾過することができます。しかし、1本で1500リットルくらいしか濾過できません。ある程度量をつくるときはこれは使えないですね」
蔵人に人気の分析マシーン
「お酒の分析器です。これ、欲しがる人多いんですよ」
「酒質の分析は、お酒を蒸留して、温度を15度にしてしなければいけないのですが、温度調節が結構面倒なんですよ。夏なら冷やして、冬なら温めなきゃいけない。それを自動でやってくれるんです」
酒造りはとにかく「水」を使う
「この機械は、瓶詰めしたお酒にシャワーをあてて急冷する機械です。なぜシャワーかというと、どぼんと水につけて冷まそうとすると、瓶って簡単に割れてしまうからです。それと、あ、ちょっと上を見てください」
「酒造りって、多くの工程で大量に水を使うんですよ。うちではタンクがたくさんあるので、そこに水を貯めてから使っています」
酒造りは「洗い物」が命
「使い終わった布などは、熱湯で10分くらいつけて消毒した後、この洗濯機で洗います。洗濯後は足元にあるペダルを踏んで水を排出し、それから蓋を開けて取り出すのですが、ぼーっとしていて水を抜くのを忘れてしまい、水を溢れさせたことが2回くらいあります」
「日本酒はお米を使いますし、発酵すると栄養の塊です。使った道具はすぐに洗わなければ蔵の衛生状態は悪化します。実は洗い物がとても大切なんです」
「地味な作業」こそ大切な酒造りの仕事
「酒造りっていうと、かっこよく麹をふったり、櫂棒をいれたりといった『映える』シーンばかり思い浮かぶじゃないですか。でも、酒造りの9割くらいは掃除・洗濯といった地味なものなんです!」
そう話す臼井さんは、なぜか嬉しそうです。
擬似米布、SFフィルター、良い香り用麹、ハクヨー三段などなど、外からは見えない酒蔵の仕事の相棒たちをたくさん見せていただきました。なにより、地味で大変な作業の積み重ねの上で、自分の口に入るものができていると実感しました。
村井醸造の臼井さん、お忙しいなかありがとうございました!
村井醸造の「真上」は、都内ではSAKE Streetさんで購入可能です!