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異端の酒屋『酒道庵』へ。日本酒の選び方を学ぶ熱血講座「酒を冷やすなバカ野郎!」
「酒屋さん」には、様々なタイプがあります。
高級感あるお店、角打ちのできる賑やかなお店、品揃えがすごいお店、逆にこだわりの銘柄だけに特化したお店…。
中でも、今回は「普通の商品がない」という変わった酒屋さん「酒道庵」さんへ。店主の考える日本酒の選び方、たっぷり教えていただきました!
※記事内では「酒販店」を「酒屋さん」と表記しています
※一部定説の否定と取られる箇所もあるかもしれませんが嗜好品という自由なアプローチとして紹介します
知ってる酒がひとつもない!? 唯一無二の酒屋さん
ーー最寄駅は都営三田線の志村三丁目。初めて降りました。
ーー鬼? 独特の世界観です。店内へ向かいます。
ーー店内
ーー杉玉、多っ!
お酒ができた合図として、酒蔵の表に飾られる丸い「杉玉」。日本酒の飲食店や酒屋さんでも見かけることはままありますが、大抵ひとつ。それなのに…天井杉玉だらけ…。
店主「いらっしゃいませ〜」
ーーあの、杉玉…多くないっすか?
店主「ああ、昔は外に出してたんだけど一度ボヤ騒ぎになってさ、それから中に入れていたら、こうなっちゃったんだよ」
ーーこちらが酒道庵の店主です。日本酒愛あふれる熱血漢でした。
気を取り直して店内を見てみることに。しかし…
…並ぶお酒のすべてが「見たことない」ものです。酒屋さんによって珍しいお酒を集めているところはあるものの、だいたい「知っている銘柄」がいくつかあり、棚のラインナップを見るとお店の方針や好みが見えるもの。しかし酒道庵は…すべてが初見。こんなお酒あるのか?
店主「うちの日本酒は、すべてうち用に酒蔵さんに造ってもらってんです」
ーーすべてPB!
店主「PB?ああ、そういうらしいですね。20年くらい前からやってるからさ、最近お客さんに聞いたね。有名な蔵はないけどさ。ラベルも手書きなんだよ。そっちの方が早いってだけだけどね」
※日本酒以外の酒類に一部PB以外もあり
(この後も店主の写真はたくさん登場しますが、個人的に一番好きな表情)
店主「うちは60年くらい前からここで酒屋やってたんですよ。で、先代の頃まではいわゆる人気のお酒を取り扱うお店。俺の代になって、20年前くらいかな、このスタイルに変えていったんです」
ーー普通の酒屋さんだったんですね。それなのになぜ…?
店主「有名なお酒を追いかけているとさ、追いかけっこになっちゃうんだよね。『美味しい』を求めるんじゃなくって『売れる』を求めちゃう。dancyu(有名グルメ雑誌)を追いかけちゃう。それはそれでいいけどさ…うちの息子の言葉を借りると『だるい』ってなるんだよ。うちの息子さ、何かあるとすぐ言うんだよ『だるい』って!」
ーー酒道庵にあるお酒は、有名無名ではなく「PB商品」という酒屋との二人三脚の商品のみ、というわけなのですね。
店主「君、ちょっと味見できるかい?」
ーーここから突如、店主による熱い日本酒講座がスタートしました。
【日本酒講座スタート】酒を冷やすなバカヤロウ!
ーー3本の日本酒をご用意いただきました。
店主「はじめてのお客さんには、まずこの3種類を飲んでもらいます。最初に言いたいのは、うちの店の日本酒は『冷やすな』ということ。常温です」
ーーへぇ、要冷蔵のお酒をよく見かけますが…。
店主「バカヤロウ! 考えてみてよ、食べ物って冷やすと味が感じにくくなるだろ。寿司を冷やしたら美味しくなるかっていうと、寿司屋さん怒るでしょう。酒も一緒。冷やしすぎたらうまくても不味くてもわからなくなる。
わ か る で し ょ う、普 通 に 考 え れ ば!」
ーーすみません、耳が痛いです。
店主「まあ、冷=絶対悪というわけじゃない。冷やす意味をわかっていればいいんだよ。でも深く考えもせず、飲み方として『冷さなきゃいけない』なんて変な覚え方をしている人が多いんだよ」
試飲①永遠に飲めるやさしさ、定番の「くくみ酒」
「ワイングラス? おちょこでいいんだよ」
ーー話が盛り上がってしまいましたが、まずは「①くくみ酒」をいただきます。
…お、滑らか。全然強くない、落ち着いている。でも、じわじわとおいしい。ずっと飲みたくなるやつです。おいしい。
店主「①のくくみ酒がうちの『基準』となるから覚えておいてね」
ーーワイングラスで出すお店も増えていますが、お猪口もいいですね。
店主「ワイングラスだと!? いいか?もし俺と君が2人でフランスにいったとするじゃないか、別に2人で行かなくてもいいんだけどさ。
そこでフランスワイン飲もうってお店にいったら、現地の方が気を利かせてくれてとっくりとお猪口で出してきたら、バカヤロウってなるでしょうが」
ーーそれは…たしかに。
店主「そもそも、ワインと日本酒は香りの感じ方が逆なんだよ。ワインはまず香りを膨らませて飲むもの。日本酒は味ありきで、その後に香りを感じるもの。含み香だね。お出汁の文化と同じ。カツオ出汁だって、『カツオの匂いぷんぷん』って、よろしくない。飲んだあとに香りが返ってくるのがいい。
だから酒器は香りを膨らませないおちょこでいいんだよ。先人たちが作った道具って、必 ず 意 味 が あ る か ら 今 も 残 っ て る ん だ!」
試飲②飲み疲れのしない「じゅんから」
日本酒業界を混乱に陥れている「辛口」にメス!
ーー続いては右の「②じゅんから」です。いわゆる「辛口」のお酒。
店主「辛口…日本酒業界を混乱に陥れている言葉。これさ、わけわかんないよね。飲み手は日本酒を『おいしく味わいたい』はずなのに『辛いのくれ』ってさ、どういうこっちゃ?
『辛口=美味しい』では決してないんですよ。辛口の酒っていうのは甘みや旨みといった味を押さえ込んだ、すっきりした酒のこと。酒から味を消し去ったら…『美味しくない』でしょう?」
(エンジンかかってきました)
店主「『淡麗辛口』って、天才が考えたキャッチコピーだよね。文字をよく見ると『薄くて辛い』…これまずいってことだろう?
味があって、それでしつこくないから食べ続けることができる。なのに、みんな『辛口=美味しい』と思って辛口を頼むから、飲んでみて『?これ、おいしい???』ってなる。あたりめーだろ、自分で頼んでんだよ」
ーー2杯目の「じゅんから」は、でも「辛口」ですよね。
店主「決して『辛口=悪』わけじゃないからね。これはさ、うちで最も辛口の酒。飲んでみてよ」
ーー…(味見)お、これは軽い。するする入ります。
店主「70-80代のおじいちゃんが『楽』っていうんだよ。これもたしかにいい。だけど『美味い!!』っていう感動はない。
ではなぜ出しているかというと、酒って季節によって感じ方が違うんだよ。これは例えるなら『そうめん』。夏場の汗だらだらのときに濃厚なすき焼きなんていやじゃないか。すっきりした『そうめん』がおいしいときもある。
季節によって体が求めるものが変わるのは当然なのに、『酒の味がかわった』という人がいる。お 前 の 感 じ 方 だ ろ! 酒 の せ い に す る な !』
試飲③霜降りステーキのような「熟成生原酒」
「料理と合わせる必要はない!」
3種類目は左の「生原酒 熟成酒」ですね。
店主「生(酒で)熟(成)4年。これはね、当然旨いんだよ。『霜降りステーキ』みたいなお酒」
ーー濃厚!すごい、個性が強くて美味しいです。
店主「だけど、さっきの話でいうと夏場にはきつい。汗だらだらの時にすき焼きなんてバカヤローってなるお酒だよね。あとは料理には合わせにくい。旨味が強いから料理に勝っちゃうんだよ」
(料理に合わせるならこっちの2つ、といっているところ)
店主「きれいなお出汁とか、白身魚とかと合わせるなら先ほどの①②。濃厚な③は酒が主役になるので、それだけがいいっていうこと」
試飲結果:飲む順番によって感じ方は異なる!
ーー3種類を試飲しましたが、②と③を飲んだ後にそれぞれ基準の「①くくみ酒」を試飲します。②→①の場合、くくみ酒はより「濃く」。③→①の場合は「大人しく」感じます。
店主「当たり前だよね。濃さの違うお酒を順番に飲んだら感じ方がかわるのは。それも知らずに日本酒の試飲会なんて行ったりしちゃいけねぇってこと。
試飲会ってさ、いろんな蔵がきて数種類のお酒を出すだろ? だいたい松竹梅の3ランクぐらいを用意するんだよ。
3社くらいのブースがあるとしたら、飲み手は『梅梅梅』『竹竹竹』っていう飲み方をしてあげないとダメ。Aの蔵で『松』を飲んだあとにBの蔵で『梅』を飲むと、印象が全然変わってくるんだよ。なのに『あっちの蔵の酒は薄い』とか…飲み方のせいだろうが!」
ーー…(それやってました)
【実践・日本酒選び】「くくみ酒」を基準にしよう
ーーお店のメイン棚は3段。下段中央が基準となる「①くくみ酒」。左にいくほど「フルーティー」「軽やか」になり、右側は生酛山廃など「どっしり」。そして上にいくほど高級に。
店主「最初に①くくみ酒を飲んでもらうのは、基準を作ることで、好みにあったお酒を選べるようになるから」
ーーなるほど、すべて他にないPB酒だからこそ、試飲①を基準に選ぶのはとってもわかりやすいです。
店主「いろいろ話したけどさ、『日本酒の基本的な考え』を知ってもらったら、あとはもう『自由』に楽しんでもらえばいいんだよ。気分で飲みたいお酒を選んで、もちろん熱燗など温度を変えて遊ぶのもいい。なんなら日本酒をレモンサワーにしたっていい。トマトで割ったっていいんです」
ーートマト!?
店主「肉じゃがに料理酒いれるでしょう? いいんだよ、日本酒って好きなように楽しんでいいの」
(なにかの会話の流れで「だめだめ」としているところ)
商品コメントが直感的でわかりやすい!
ーーお店の入り口付近にもいくつかお酒が並んでいますね。こちらは?
店主「季節ものですね。だけど造り手視点じゃない。さっきも言ったけど、日本酒って季節によって飲みたいものが変わるもの。だからうちでは、今おいしいお酒を出してるね」
お店の奥には冷蔵庫も。
店主「『日本酒は冷やすな』っていったのに、って思うだろう? でも冷蔵もあるんだよ。活性(冷蔵ではないといけないタイプのもの)と、あとは常温においた上で『冷やしてもおもしろい』と感じたものだね」
(中央の短冊の赤い字に注目。「ああ、こうなるのかぁ」と、冷蔵ならではの面白さが書かれています)
ーーところで店主、赤字のキャッチコピー、めちゃくちゃ素敵ですね。
(パワー系フルーティー!)
(ジャンヌダルク!お口の中に幸せを…!)
店主「難しい言葉はなしにして、少しでもわかりやすくしないとね。でもさ、女房はこれ(キャッチコピー)を見て『全然わからない』っていうんだよ。はははは!」
自分好みの日本酒探しを教えてくれる「酒道の入り口」
酒道庵、非常に楽しかったです。これまでの概念が、全く異なる方向から刺激されたような、面白いお店体験でした。さらに、買って帰ったお酒が、びっくりするくらい飲みやすくて美味しくて、毎晩の晩酌の主役になりました。
店主は口調はべらんめえですが、非常に優しい紳士な方です。ウンチクや流行はいったんおいておいて「日本酒選び」を知りたい人、おすすめです。
また、今回の「酒道庵」はSAKEジャーナリストの木村さんに教えていただきました。ありがとうございます。
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