洋食にあう「艶っぽい」日本酒! 異端の新潟酒「あべ」の会|たつみ清酒堂
飲み口がやわらかく、甘さと酸が艶っぽくて、後味は完熟フルーツのよう。日本酒に「エロい味」があることを教えてくれたお酒が、阿部酒造の「あべ」です。
銀座の酒販店「たつみ清酒堂」で「阿部酒造」蔵元を迎えてのテイスティング会が催されると知り、参加してきました。
都内ではなかなか入手できない「あべ」、たくさん買ってきます。
阿部酒造(http://www.abeshuzo.com/)
1804年、新潟県柏崎市に創業。代々、「内杜氏」という蔵元自らが酒造りを行うシステムをとっており(最近の蔵元杜氏とは別)、数名程度の少人数チームで独自路線の酒造りを行なっている。
たつみ清酒堂(https://tatsumiseisyu-dou.com/)
「うまい酒しか置かない酒屋」を自負する地酒専門店。蔵元から直取引で仕入れた地酒のみを、すべて冷蔵保存で管理・販売している。
ざらり、と舌を包む。右にならわないスパークリング
イベントの乾杯はスパークリング日本酒「SIRIUS」。瓶内二次発酵したものを1年熟成しており、今がもっとも味のりがよいそうです。液体はやや白くにごり、光に透かすと白いおりが見えます。泡は強めで、さらさらと舌をころがる感じが心地いいです。
「スパークリングって…すごくお金がかかるんです(笑)」と話すこちらが今回の主役・阿部酒造6代目の阿部裕太さん。テイスティングの会は阿部さんの話を聞きつつ、順番に10種類のラインナップを味わうスタイルです。
スパークリングに話を戻すと、日本酒コンテストにスパークリング部門もできるなど注目を集めている注目のジャンルです。しかし阿部さんは「うーん、うちのはおりがありますよね。コンテストでは評価はされないんじゃないかな」とさほど興味はなさそう。ではなぜおりを残しているかというと、「濁りがある方が『米』感があるから。そちらのほうが食事には合わせやすいと考えています」。
自分の道を突き進む熱量がビシビシ伝わってきて、グラスのお酒が一層おいしくなります。
元IT企業杜氏。とにかく「飲み手」と「料理」を探る酒造り
続いては「スターシリーズ」という、星の名前をつけた実験的なお酒。テーマは食事といただきたいテーブル酒です。
まずは「VEGA」。さらさらとした舌触りと独特の「酸」を表現するため、麹米の割合をあえて特定名称酒(純米吟醸とか、純米とかそいう区分)を名乗れないレベルに下げているそう。
続いてはREGULUS。みずみずしいミネラル感があり、しっかり強い酸が印象的。「オリーブオイルと相性がいい」とのこと。
「うちは新潟の蔵ではありますが、いわゆる和食にあうタイプのお酒ではありません。低温でしっかり発酵させて米のニュアンスを出すため、マスキングしやすいのです。繊細なお出汁などよりはオイルを使う料理のほうがバランスが取りやすいかな」
阿部酒造のホームページには「リストランテの食前から食後まで」とコピーがあります。
「僕自身は東京農大を出ていません(人気蔵元の多くはここの出身)し、IT企業で働いていました。(お酒のタイプは)それも関係しているのかもしれません」と阿部さん。そのIT企業とは、某グルメサイト。
「とにかく、日本酒がどのように飲まれているのかを学びたかった。飲食店でアルバイトもしていたのですが、いずれ酒造りすることを考えると、できるだけ多くのお店を見ることができる仕事がよかったんです。グルメサイトでしたら、和食店もそうじゃないお店もみることができました。もちろん、面接のときには『いずれは辞める』と言いましたよ。今思えば、よく採用したなと笑」
都内の飲食店をめぐり「現場でどのようなお酒が求められているか」を学んだ阿部さんは、2015年に実家の蔵に戻り、本格的に酒造りを始めます。
「阿部酒造」は、代々蔵元がお酒造りを行う「内杜氏」システム。槽搾り(袋にいれたお酒をでっかい木の箱にいれて重みでしぼる技法)など、代々の伝統製法を習得しました。
「でも、初めから今の『酸の味』を目指していたわけではないんですよ。酒造りを行うなかで、和食よりも洋食にあう、酸のお酒がいいと感じるようになっていった、というのが本当のところです」と阿部さん。「あとはもう、好み。僕の好みです」ときっぱり。
「地元」にこだわるフラッグシップ「あべ」
後半は定番酒「あべ」シリーズ。
「あべ 黒」(純米酒)
酒米は新潟の酒米「五百万石」と、同じく地元産のお米「こしいぶき」を使用。
純米酒というカテゴリーながら雑味がなく、甘酸のバランスがいい。まったく疲れない。艶っ々です。
「あべ シルバー」 (純米吟醸)
お米は同じ。磨きを上げて純米吟醸に。
酸がしっかりしていてシャープ。キレッキレです。
「あべ ゴールド」 (純米大吟醸)
これは、飲むのがもったいない。きれいだけど、ふくよかさもある。とにかく大吟醸のすごさが凝縮されています。
酵母は9号系の新潟酵母が中心。香りは抑えめながら、フルーティーな印象が残ります。
「お米は地産、酵母も新潟のもの」…というと、「せんきん」をはじめ日本酒業界でもいわれるようになった言葉が「ドメーヌ」。阿部さんは流行に重なることを恥じるように苦笑し、「そうです」とうなずきます。
「そのひとことになっちゃいますよね。でも、クラフトを意識した酒造りをしていると、やっぱり自分の土地のものを使ってお酒をつくりたい。酒造りをする人としてはごく自然なことだとおもいます」
お米のおいしい新潟ならなおのこと地元の材料で作りやすいだろう。と思いがちですが、実際は「新潟の酒米を使うのはむしろ難しかった」といいます。
「新潟はお米大国といわれていますが、それは『食用』のこと。すでに食用のお米のブランドがあるため酒米より価格が高い(他のエリアでは酒米の方が高価格が多いそう)。あえて酒米を作る人は本当に少ないのです」
新潟の農家さんをめぐり、若手のIターン農家の協力を得るなどして、ようやく地産の酒米を確保できるようになったそうです。大吟醸に使われている「越神楽」は、新潟のなかでも同じエリアにある原酒造が農研と共同開発した「柏崎オリジナル酒米」です。
ここでもう一度、序盤にでた「コンテスト」の話。これほどおいしいお酒ならば、もっと全国的な注目を集めてもいいのでは…と感じてしまいます。
「今はそのようなコンテストに出す予定はありません。なぜかというと、コンテストは審査基準があり、それをクリアする必要がある。つまり『テスト勉強』をする必要があるということです。そこにかかる時間を、1秒でも自分がおいしいと思える味を体現する時間にあてたい」
香りは控えめ、口のなかで甘み酸味と米感がどんどん顔を出す。「あべ」は、他のお酒と比較するのがめんどうに感じるほど、ただただうまい酒です。完全にはまってしまいました。
テイスティングは全10種類。合計で600mlほどとなりましたが、意外なほど悪酔いはしませんでした。
ごちそうさまでした、これからも応援(飲む)します!
会場のたつみ清酒堂。かなり小規模です。
ラインナップがすごい!買いに行きたいです。