日本酒業界にイノベーションを起こす?【キクプランドゥー】のすごい発明5選!
「擬似米布(ぎじまいぬの)」を、知ってますか?
最近、日本酒造りに携わる人たちの間で「便利!」と評判を読んでいる画期的なアイテムです。
それを手掛ける会社が「キクプランドゥー」です。今回は、一部の日本酒界隈で話題のキクプランドゥーさんにインタビューを敢行。「擬似米布」をはじめ「衛生かい棒」「かる〜いタンク」など、日本酒造りを支える様々なアイテムを紹介してもらいます!
擬似米布と、それを作るキクプランドゥーとは?
本題の前に、先ほどの「擬似米布」について簡単に説明。お酒造りで原料の米を蒸す工程を「蒸米」といいます。「こしき」という大きな蒸し器を使うのですが、どうしてもこしきの底のほうのお米がべちゃっとして(ハダメシ)しまいます。これを防ぐため、お米を模したビーズの粒入りの袋「擬似米」をこしきの底に敷く、ということが行われます。
しかし、袋状の擬似米は洗浄が大変。さらに袋が破れたらビーズが出て米に混入してしまう恐れもあります。
それを解決した発明が、水を吸いにくい円状の布「擬似米布」です。こしきの底に何枚か重ねて敷くことで、擬似米と同等以上の効果を得ることができます。破れないし、洗い物も簡単。これが、多くの酒蔵で評判となったのです。
お米の代わりの「擬似米」の課題を、米の延長線上にはないまったく別の形状(布)で解決する…これぞ(多分)イノベーションだと、感動しました。
この企業の話を聞きたい…。そう思った私は、キクプランドゥーのある広島へと向かいました。
キクプランドゥー、略してKPD!お酒に関係ない人も、名前だけでも覚えておくといいでしょう!
日本酒業界参入11年!気鋭の広島ベンチャー
本日はよろしくお願いします!
キクプランドゥーは、醸造工場の設計や、機器の導入・保守、自社ブランド製品の企画・製作を行う企業です。老舗が多い業界において、日本酒業界参入は10年と少し、とのこと。まだまだ成長中の企業なのですね。
菊田さん「実は、キクプランドゥーは、1998年にうちの父が自宅に工作所を作ってはじめた小さな会社です。当時は醤油・ソース・酢などの工場に設備を入れたり、修理や保守を請け負ったりと、技術を売る『何でも屋』でした。
私は大学卒業後、業務用の洗剤メーカーで営業職に就いたのち、11年前に実家に戻ってきました。たまたま既存顧客に御蔵さんが何社かあったことから、私が引き継いで日本酒業界を担当をすることになったんです。そこからですね」
しかし、日本酒業界は古き良きレガシー世界。営業のハードルは高かったそうです。
菊田さん「日本酒業界って、そもそも新しい商品や業者をすぐに受け入れてもらえる世界ではないんですよ。当時は私も軽いノリでやってましたし、売上の割合も低い部門。撤退の話も出ていました。
そんな時、広島の金光酒造(賀茂金秀)金光社長と出会いました。怖いんですよ、社長って見た目が。そんな社長が私に『本気でなければ、日本酒業界にはこないほうがいい。でも、本気で取り組むなら、協力するよ』っていってくださったんです」
菊田さん「金光さんって、全国の業界関係者から一目置かれている、地域のリーダーのような存在です。金光酒造さんにうちの商品を導入してもらえれば、その噂は全国に広がっていきます。実際、金光さんのもとに他の御蔵さんから『キクプランドゥーってどんな会社?』と質問がいくことも多かったそうです」
菊田さん「日本酒業界って、横のつながりが強いんですよ。全国の御蔵さんが積極的に情報交換しているし、醸造関連の学校の先輩・後輩だったり、どこの蔵で修業したという関係性もある。だからこそ、いい商品をしっかり作り込んで認められれば、多くの御蔵さんに広がるチャンスがある。
そこに日本酒業界の面白さを感じ、本気で日本酒に特化していくようになりました」
昨年、菊田さんはキクプランドゥーの代表につき、日本酒業界への注力をさらに加速。酒蔵出身(または蔵人の季節雇用)のスタッフも増え、現在は20名程度のチームで、日本酒造りをサポートする商品開発などに取り組んでいます。
日本酒業界を変える?
キクプランドゥーのすごいアイテム5選!
ここからは、キクプランドゥーが開発した注目の日本酒製造アイテムを紹介します!個性的なパンフレットと一緒にご覧ください。
すごいKPD①うす〜い擬似米布
こちらが、あの、擬似米布です。触ると「ビニール繊維を織り込んだ硬めのシート」といった感じです。そのまま重ねても、四つ折りにして使ってもOK。
菊田さん「この商品は、実際に御蔵の人から相談をうけて開発したものです。『擬似米のビーズを使いたくないんだ』って」
菊田さん「そもそも、蒸米のときに『お米がべちゃっとなる』原因を防ぐためにはどうすればいいかと考え、こしきの底とお米を空ける『シート』の形を思いついたんです。試作品を何度も試してもらって、ベストな枚数を調節しました。
さらに、擬似米布を使うことによって『蒸米の質がよくなった』というお声もいただいてます。御蔵の方のSNSから話題になり、去年だけでも80ぐらいの御蔵さんで導入いただきました」
すごいKPD②衛生かい棒
こちらは700本以上売れている(2022年6月時点)大ヒットアイテムです。お酒造りに欠かせない「かい棒」(蔵人がタンク内のもろみを混ぜたりするあの棒です)が、KPDの手にかかれば大きく進化します。
・着脱式:目的に応じて先だけ変えることができるので経済的
・素材:衛生的かつ、軽量。力に自信のない蔵人でも扱いが容易。タンクの中に「かい先」を落としてしまっても、軽いので浮いてくる
菊田さん「これらの形状の多くは、取引先の杜氏さんの意見や、元蔵人のスタッフの提案を参考に造りました。かい棒の先って、目的や仕込みの時期によって、理想的な形がかなり変わるんですよ。衛生かい棒なら、先を変えるだけで対応できるので、非常にリーズナブルに導入できるんです」
すごいKPD③(優しく/つぶさず)送れるサニタリーポンプ
続いては「サニタリーポンプ」。もろみ(搾る前のお酒)や、搾った後のお酒を送るのに使う「ポンプ」ですが、キクプランドゥーでは「優しく送る」「(お米を)つぶさず送る」など、特徴的なポンプを数種類ラインナップしています。
菊田さん「かつては、大量に送れる構造のポンプが主流でしたが、最近は酒質や目的に応じて求められる機能が変わってきています。うちのポンプの2大巨頭は、ビーピーちゃん(写真左、優しく送れるタイプのキャラ)と、ジーピーちゃん(写真右、つぶさず送れるタイプのキャラ)です」
こちらのポンプたち、例年の数倍の注文が殺到しているとのことです。
すごいKPD④かる〜いタンク
体力勝負、重労働といわれる酒造り。お酒を入れるタンクを掃除するのだってひと仕事です。そこで、KPDの技術力をいかして開発したものがこちらの「かる〜いタンク」。従来の約半分の重さへの(800lなら105kg→53kg)の軽量に成功しました。
菊田さん「うちは、女性をはじめとした、現場の人の声を非常に大事にしています。マニアックな機能以上に『重いものの上げ下げがきつい』のような、現場の声を取り入れたいんです」
すごいKPD⑤ヒートリード
ラストは「今もっとも力をいれているアイテムです」と菊田さんがいうこちらが「ヒートリード」、1台約1500万の大型設備です!
ヒートリードは「瓶燗火入れ」(瓶詰め後の加熱殺菌工程)を効率的・高性能に行う、これまでにない設備。画像にある大きな箱のなかに瓶詰めしたお酒を並べると、下からお湯がでてきて「対流」し、むらのない火入れを実現。さらに上部から節水ミストシャワーがふってきて、急冷までをオートメーション化します。
菊田さん「ヒートリードによって、簡単にいうと『搾りたての生酒』のようなフレッシュでガス感のある状態を保って瓶燗火入れができるようになるんですね。最近のお酒のトレンドとも相まって、少しずつ注目度が高くなってきていることを実感しています」
ちょうど溶接作業をしていたスタッフの方は、冬場は某有名酒蔵に勤めているそうですが「(むらがなくなるため)温度を高くしすぎず、適切な火入ができるので…これは絶対に酒質が変わります。うち(勤め先の酒蔵)も入れてくれないかな」とのこと。醸造関係者の声は説得力が違います。
ヒートリードの商品資料はこちらのリンクから
「現場の声」がイノベーションにつながる
菊田さん「うちの商品は、どれも一度作って終わりではなく、現場の声を聞いて、何度も何度も改良をかさねて育っていくものです。
先ほどお話しした金光酒造さんはもちろん、隣県の雁木さん(八百新酒造)や天美さん(長州酒造)など、多くの御蔵さんが新しい商品を試してくださり、貴重なご意見をいただいています。御蔵さんあっての会社なんですよ。だから、うちがイノベーションとかそういうのは本当におこがましく、ただただ恐縮です」
菊田さん「ですから、これからも御蔵さんの現場の声を聞いてどんどん修正を重ねて、真摯に商売していきたいと考えています。ですので、いまお付き合いいただいている御蔵さんも、まだお会いできていないお客様も、これからよろしくお願いします」
今回紹介したアイテムはわかりやすい5つのみでしたが、他にも様々なアイテムが日々誕生し、改善されています。
広島県から日本酒業界の未来をつくるキクプランドゥーさん、今回はありがとうございました!!
もちろん、お酒を飲みます。