「本金」長野の小さな酒蔵へ。日本酒は「雨」のように鳴く
「本当の一番(金)の酒を醸す」という意味をもつ、長野の地酒「本金」。
長野県の上諏訪五蔵(「真澄」をはじめ、500mほどの街道に5蔵が並んでいます)にある「酒ぬのや本金酒造」。創業宝暦6年。家族経営の本当に小さな日本酒蔵です。
この度、長年本金を応援している「地酒屋こだま」さんの酒蔵訪問に同行させていただきました。
蔵見学は、プロがいると気づきがすごい!
これまで取材などで蔵の中を見たことは何度かありましたが、今回はプロ(酒販店)の児玉さんと一緒。わかりやすい解説、一歩踏み込んだ会話が本当に面白かったです。
蔵の敷地内のなんてことない写真ですが、実は温泉。この辺りは豊富な温泉地としても知られています。(最寄の上諏訪駅にはホームに足湯がありました)
蔵人の今井さん。素人の僕にもわかりやすいよう、酒造りのことをいろいろ教えていただきました。
米洗いの革命児「ウッドソン」
まずはこの金属の機械「woodson」といいます。非常に地味なのですが…これがここ10年ほどの日本酒蔵の革命児。「ジェット気泡」(!?)なるものでお米の汚れを落とすという自動洗米機です。さらに洗い終わった米は下からざるに落とし、また「ジェット水流」で攪拌させるのだとか。
「手で洗わないことでお米が割れることもないですし、また人による洗い方のブレがなくなり、品質が安定します」と今井さん。非常に地味ですが、すごい。現在全国の蔵に続々導入されているのだとか。
麹室は「もみ」でできている!
貴重な麹室にもいれていただきました。温度管理が重要な麹室では、保温性を高めるために壁のなかや台の下に「籾殻」が敷き詰められているそう。へー、初めて知りました。(今はグラスウールという断熱材が主流、と児玉さん)
もろみは「雨」のように鳴く!
仕込み中のタンクもいくつか見せていただきました。本金ではお酒によってお米や酵母を使い分けているのですが、ひとつひとつ、香りも発酵具合も違います。当然のことですが、実際にタンクを覗き込んで差を感じると面白いです。
泡あり酵母の発酵途中。のぞいた瞬間、発酵によるガスの音が聞こえます。「シャー」という繊細な音。
「発酵が盛んなときなどは、まるで蔵の中で『雨が降っている』みたいですよ」と今井さん。
この「泡あり酵母」とは昔からの酵母。最近は「泡なし酵母」が増えており、このような表面の泡はないものもあるそう。古くからの蔵人さんは「泡の表情」でも酒の表情を見ていたそうです。
タンクをのぞきこむとき「顔を入れすぎないように注意してください」と今井さん。発酵によりガスを出しているため、タンクの上部は酸素がない状態。そのため気がつくとふらっと酸欠になってしまうのだとか。酒蔵では昔からこれでタンクに落ちて命を落とすケースが多いといいます。
ヤブタは「酸化」させない搾り方
発酵したドロドロの醪を搾って「お酒」になるのですが、本金ではその工程を自動圧搾機ヤブタをつかっています。
よく「自動=わるい」「手作業=いい」というイメージがありますが、「目指す酒質によって選ぶ」のが正解だそう。
「ヤブタの優れているところはお酒を空気に触れさせず、酸化を最小限に抑えること。すっきりした本金の特徴がいきるのはヤブタです」と児玉さん。
酒造りは「上」から「下」へ
小さな蔵、とはいえ、本金の蔵は3階建。現在はすべて1階で製造をしていますが、昔は2階で米の工程、そしてそのまま1階に落としてタンクで発酵(床に穴があり、そのまま落としていたとか)という方法だったのだそう。効率的です。
ちなみに大手の工場でも、「上」から下」の流れになっていることが多いとか。
ゲスト・ホストではなく、日本酒を広める「同志」の関係
見学後、今年のお酒を試飲させていただきました。と、いうか児玉さんの試飲のついでにいただきました。
今回の見学で一番おもしろかったのが、この時の会話。本金の蔵元杜氏・宮坂恒太朗さんが今年の新作を出し、酒販店の児玉さんは感想とともに「東京で売るためにどうすべきか」を話します。
・本金らしさはなにか(旨み、コク、バランス、食中酒)
・東京の人の飲み方はどうか(少量ずついろいろなものを飲む)
・そうするとバランス云々より目立つものが勝ちやすい
・では飲みやすさを意識した今年の本金はどうか
お酒を味わいながら目の前で「そのお酒の意図と、戦い方」が聞けるのは、本当に面白い。まじめな話をされているので恐縮ですが…もうこれでずっと飲んでいたい。
だから、僕は本金が好きになった
(作戦会議の様子)
いろいろな媒体などでもオープンされていますが、杜氏の恒太朗さんは難病を患い、車椅子での生活を余儀なくされています。
ほぼ全身の自由が利かないため実際の酒造りは不可能。しかし日々蔵に出て、お酒のレシピ(製造方法)を指示しているそうです。そして今年はまた新たな試験醸造酒にもチャレンジしています。(本金のイメージとは逆の「濃醇」に!?)
こんなふうに、目の前で、お話してくださるかたの企みを聞くと、絶対に味わいたくなります。
(奥様のちとせさん。お手製の漬物おいしかったです!)
自分の話になりますが、僕が日本酒を好きになったのは、造る人の魅力です。決して浪花節ではありません。
人間が命がけで(どの蔵も本当に人生かけている)、非常に高度な計算や知識、信念、アイデンティティを総動員して酒造りに挑んでいる。それが近い距離(情報を得られる、聞ける)にあり、その結晶を味わえる(その人の考えが色濃く出る!)から、日本酒は楽しい。
本金の味の感想に話を戻すと、定番の純米酒は甘みよりもコク系で、決して洗練された味ではないです。しかしまったく壁がなく、杯を重ねられる。だけど水のようなものではなく、こっくりとほどよい強さがある。
この「程よい」が、すごいです。
飲み比べでは派手な酸味や香りに目がいくけれど、一升瓶で買ってゆるゆると飲み続けたいと思えるような味。
そういうお酒の性格は、蔵のみなさんの雰囲気に、結構似ていると思うのです。
(蔵の前で写真撮影)
本金、これからも追い続けます。お忙しいなか本当にありがとうございました!
ちなみに一番後ろの方は水道橋にある長野の地酒酒場「なるたか」の店主です。近々お伺いします!
https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131003/13146028/