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生熟って、何だ? 日本酒のプロに教えてもらいました(SAKE Street監修)
日本酒には「生酒」というものがあります。火入れという加熱処理を行わずに出荷するもので、フレッシュでぴちぴち。冷蔵保存でも数日で味が変わるデリケートなお酒です。
一方、日本酒には「熟成」というジャンルがあります。こちらはまろやかになったり、味がのったりと、「生」とはまったく別の魅力があります。
その「生」「熟成」がひとつになった「生熟」という世界が、日本酒にはあるらしいのです。
生なのに熟? そういえば、お酒の感想として「生熟っぽいね」というのを聞いたことがあるような気がします…。
生熟って、何だ?
今回は東京・浅草橋にある地酒専門店「SAKE Street」の店主であり、日本酒学講師でもある藤田さんに教えてもらいました。
(店舗は浅草橋にあります)
「生熟」って、一体なんですか?
(藤田さん、お願いします! 昨日泊まり込み作業だったそうで、いい具合に仕上がっています)
「生熟、どうしてまたそこに興味を持たれたんですか? 結構マニアックというか、一家言ある人の多いジャンルですよ」
ーー興味というか、そもそも生熟って、なんだろうって。
「名前のまま、生酒を熟成させた日本酒のことです。だたし、生熟といっても様々なものがあります。ちょうどお店に生熟があるので飲んでみましょう」
(SAKE Streetには角打ちがあります。本日のメニュー(の一番下)が「生熟」だそうです。いただきます!)
生熟は、味わいの「変数」が多い!
鳴海(東灘醸造/千葉) 純米大吟醸 生酒 2017,2018,2019
これが「生」で「熟」成させたお酒です。
飲んでみると…おいしい。香りはすこしカラメルというか熟した風味があります。これは3つでほぼ同じ特徴。それぞれは…
・2017:開栓したばかりだそうで、プチプチとした生っぽさあり。すごく綺麗だけどあとでこっくりした旨みも。
・2018:こちらは開栓しばらくたったもの。おちついていて、上品かつしっとり。2017より大人しい?
・2019:これもしっとり。流石純米大吟醸「高級酒」の魅力が詰まっています。
おなじスペックのお酒なのに、年によって結構違います。開栓直後だからなのか、一番古い2017がもっとも軽い印象です。
「同じスペックのお酒なのに、結構違いますよね。日本酒の生酒は変化しやすいもの。よくもわるくも、変数が多く、動きも激しいです。『生熟』といっても、お酒の作りや個性によって全然異なります」
※イソバレルアルデヒドというタクアンのような香りは生熟特有といえる
「次はこちら、『舞美人』の生熟を飲んでみましょう」
同じ生熟でも(しかも同じ蔵でも)、熟成方法で違う
舞美人(福井/美川酒造場)。結構すっぱくて熱燗にすると化ける印象のあるお酒です。
右側:純米大吟醸 無濾過生原酒 3年熟成
左側:特別純米 無濾過生原酒 4年熟成 常温熟成
ーー常温熟成……生酒って冷蔵保存じゃなきゃだめだった聞いた気が…
「一般的に、なぜ生酒は早めに飲むことが推奨されているかというと、お酒の中に酵素が残っており、火入れしたお酒よりも酒質が大きく変化するため。時間経過によって味のりしてくるお酒もあるのですが、味わいが崩れてしまうものも少なくありません。舞美人の常温熟成はかなり特殊で、あえてその変化を狙って造っています」
右側:冷蔵熟成:おいしい!高級な紹興酒のようなかおりととろりとした口当たり。アイスとかにかけたいです。
左側:常温熟成:……………うわぁ…一瞬体が拒否する。けど、なんだこれ飲んでしまう。香りはたくあん。苦味がビッと入ります。同じ銘柄なのに、全然違う。
「常温熟成の方はいわゆる老香(ひねか)※が出ていますね。一般的には良くないものとされていますが、これはこれでバランスをとっていて非常におもしろい。トータルでみると個性的な商品としてありだと思います」
※独特の劣化臭のこと
生熟の見つけ方は?
ーーところで生熟ってあまりお店で見かけない(Sakestreetの前に2件ほど電話しましたが在庫なし)のですが、どこを見ればわかるのですか?
「まず生かどうか。またBY(酒造年度)、製造年月を見ればわかります」
たとえば写真のラベル(舞美人)。表ラベルから「生酒」であることが判明。裏にある「醸造年(BY)」は2017年。製造年月(つまり蔵から商品として出した時)は20年6月。つまり、お酒を醸造してから3年間蔵で寝かせたということなのだそう。
(舞美人をテイスティング。「うん、これはおいしい」)
「ここまでは蔵が『生熟を商品として出した』お酒です。
しかし、生熟にはもうひとつ『自家熟成』というジャンルがあります。その名の通り、愛好家や酒屋などが自分でお酒を熟成させることです。こちらが、僕が『マニアック』と話した世界のことです」
生熟は「セルフ」でもできる!?
「これはちょっとお店では出せないお酒です。生酒が時間経過によって「老香」が出てますし、味の全体のバランスが崩れてしまっています」
ーーあ、たしかにツンとして、苦味がある。エグいですね。
「原因は時間経過による品質劣化。だから生酒は基本的に「冷蔵」「早め」となっています。しかし、酒屋さんの中には、仕入れた生酒をあえて「熟成」させるところもあるんですよ。
さらに、日本酒マニアの中では生酒を自宅であえて熟成させて楽しむマニアックな人もいますね」
ーー個人でもできるんですね!……でも、失敗しやすいんですよね。
「ええ、傾向としては甘味が過剰になってバランスが崩れることが多いです。ちょうど生熟を好きな方に聞いたのですが、その人は『リンゴのようなフルーティーなお酒は【わさび】のように』『味の乗ったお酒は【チョコレート】のように』と言っていましたね。本当にお酒の性質と保存状況によってさまざまです」
ーー……なぜ、失敗しやすい生熟成をわざわざ個人でするのでしょうか。
「嗜好は人によって様々ですし、理由もそれぞれあるとは思いますが、高い山に登りたい、といったところが一つあるのではないでしょうか。解明されていないところやコントロールの難しい部分が多く、ハードルも高い。でも、だからこそやりたい。
日本酒って嗜好品の世界だから、難しい変化に魅了される人も一定数いるんじゃないかなと思います。生熟は理論的な分野というより、試行錯誤のアーティスティックな分野だと思いますよ」
結論:生熟とは、エベレストだ
(スタッフの二戸さんと「生熟の特徴ってなんだっけ」と話す様子。それほど未知でマニアックな世界なのです)
本日のまとめ
・生熟とは生酒の熟成だ
・生熟には①蔵が狙って造るもの、②酒屋さんが狙って造るもの、③個人が楽しみでやるもの がある
・③は難しい。しかしだからこそロマンがある
そういえば日本酒好きの中に「酒屋さんで売れ残っている去年の生酒」を発見したら嬉々として買う(本来は敬遠されるもの)という人もいると聞きましたが、それと近いものを感じました。
(SAKE Streetの内観です。燻銀のいいお酒がたくさんありますよ)
(特に不老泉のラインナップはすごいです!)
藤田さん、ありがとうございました!
生熟、見つけたらどんどん飲んでみたいと思います!
(藤田さんのtwitter)
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