【初潜入】宇ち多゛行列、独自ルール、怒号、その先にある絶品もつ焼(1万字レポ)
東京・京成立石にあるもつ焼・もつ煮の名店「宇ち多゛」をご存じでしょうか。昭和21年創業。東京随一の飲み屋街・立石で、圧倒的な人気を誇る名店です。
しかし、その人気ゆえ行列は必至。さらに初心者には難しい「ローカルルール」が数多くあり、誤った行動をとると「怒られる」という、恐ろしいお店です。もつ焼好きとしては一度は行きたいものの、ハードルが高すぎる、だからこそ憧れが増す。そんな、私にとっての「伝説の飲み屋」でした。
(webで「うちだ 立石」と検索すると、関連ワードに「こわい」がでてきます)
今回なんと、「宇ち多゛」に通いなれているベテランの方に、案内していただけることになりました。緊張と快感の「宇ち多゛」デビュー、1万字の長文レポートでお届けします!
記事末には、訪問時に使える「宇ち多゛」のルール一覧もあります
平日のお昼、2時間以上の行列に並ぶ
「宇ち多゛」の営業は、14時or14:30から、夕方の品切れまで。日曜休み。
そのため、チャンスは平日の昼間。この時点で結構ハードルが高いです。今回、私は有給をとりました。会社の人が記事を見ないことを祈ります。
集合時間は、お昼の12時過ぎ。「え、早すぎじゃ…」と思ったのですが、とにかく指定された時間に向かいます。最寄駅の京成立石駅は、お世辞にもアクセスがいいとは言えない場所にあり、私が自宅を出たのは10時過ぎ。この休日は「宇ち多゛」だけの日となります。
時間よりも少し早くついたので、お店の場所を確認しに行ったところ…
えっ、嘘、もう列ができている。しかも殺気立っててちょっと怖い。お店は仕込み中なのか「豚」のいろいろな匂いが漂ってきます。料理というより動物な匂いです。
「よければ先に並んでましょうか?」と、待ち合わせの前にメッセージを送ってみると「同伴者が集合していなければ並んではいけないルールです」とのこと。テーマパークより厳しい。
お店の裏手に回ってみると、ここにも列ができていました。え、列が2つできるのか??
並ぶ列に注意! 一般客は「表」の入り口へ
今回「宇ち多゛」を案内していただく「酒畜ハレム」(Twitter)さんと合流しました。よろしくお願いします!ハレムさんは1年ほど前から「宇ち多゛」にハマり、勤め先の勤務形態(平日休み)をいかし、月に数度訪れているそうです。集合したその足で、お店の「表側」の列に並びます。2つ列があるのは…何か区別があるのでしょうか?
ハレムさん「ああ、向こうの裏側は『常連さん用』ですね。一般客は表側のこちらです」
──それであの殺気だったのですね、危なかったです。ちなみに…連れてきていただき本当に嬉しいのですが…2時間以上前というのは、ちょっと早すぎませんか?
ハレムさん「宇ち多゛には、数量限定の希少部位があり、それを食べるには行列の前の方にいなければダメなんです。それに、もし並ぶのが遅れて開店時に入れず、2周目を待つことになると、さらに1時間程度待たなければいけません。今日は大久保さんを案内するので、せっかくなら希少部位をふくむ、いろいろな部位を食べて満足してほしいのです」
──なめた口きいてすみません。本当にありがとうございます。一緒に行列よろしくお願いします。
お店に入る前に「宇ち多゛」の禁止事項を覚えておこう
──お店の前の張り紙によると、今日の開店は2時半。あと、2時間以上あります。ディズニーとかの人気アトラクションであっても心が折れる長さです。
ハレム「そう、ここは大人のディズニーランドです。外から少し中を覗いても大丈夫ですよ。あまり覗くと怒られますけど」
──開店までの待ち時間を使って、「宇ち多゛」のローカルルールを教えていただきました。禁止事項が多い点が「宇ち多゛」の怖さです。
──1や2はわかるのですが…4、5はちょっと厳しい気が……
ハレムさん「お店の中がかなり狭いんですよ。ぎゅうぎゅう詰めの状態で飲み食いするため、周囲に迷惑をかけないようにです。カバンは自分の座席の足の間とかに置いてくださいね」
──飲み屋さんで「会話」がダメというのもすごいですね。
ハレムさん「ええ、普通に怒られますよ。僕も一度、40年通っているという常連さん席が隣になってつい会話が弾んだところ、注意されました」
──常連さんも怒られるんですね…
ハレムさん「そういう意味では、平等です。怖いイメージがありますが、お客さんみんなが美味しく味わえるためのルールなんです。大丈夫、ルールにしたがっていれば、ちゃんと楽しめます。知らないと無理ですけど」
また、先ほどメッセージで教えてもらった「行列に並ぶのは同行者がそろってから」といったものは、お店の禁止事項というよりも常連さんたちによる暗黙のルールだそう。何も知らずに横入りすると、列にいる常連さんから指導が入るそうです。
独特すぎる「宇ち多゛」の注文方法を練習しておこう
どんどん人がやってきて、列が伸びます。13時前には折り返しができ、それが3列にまで拡大しました。これもお店の人が案内するのではなく、常連さんによる声がけで「もう折り返したがいいよ」「もうちょっと詰めよう」などの指示があります。自治がすごいです。
──次に、「宇ち多゛」の注文方法についてもレクチャーをいただきます。
「宇ち多゛」の名物はもちろん「もつ焼」。レバーやシロ、ハツなどさまざまな種類がありますが、店内のメニューには「もつ焼」としか書かれていないとか。
ハレムさん「ええ、しかし注文は『部位の名称』で行うので、あらかじめ頭にいれておく必要があります。注文時は、部位の名称に『味付け』『焼き方』を組み合わせてコールします」
──なるほど、例えば…「すみませーん、『ガツ』を2本、味付けは『タレ』で、焼き方は『よく焼き』でお願いします!」という感じでしょうか。
ハレムさん「宇ち多゛には、『すみませーん』店員さんを呼ぶという行為はありません。向こうもわざわざ聞いてくれたりはしません。タイミングを見計らって、店員さんが目の前を通り過ぎる瞬間に端的に伝えるのです。短く端的に『ガツタレよく焼き!』ですね」
──二郎やスタバみたいな、呪文オーダーなのですね。それに呼び止めることもできないとは…難易度高そうです。
ハレムさん「ええ、初心者の方が経験なしに楽しむのは難しいでしょうね。僕も、最初の方は注文内容をメモしておいて、緊張しながら呪文を唱えたものです。それでオーダーが通った時の嬉しさが…快感なんですよ。
あ、大丈夫ですよ。今日は僕が、すべての部位を網羅できるように計画しています。オーダーは任せてください!」
ちなみにハレムさんの好物は「シロタレよく焼き」とのこと。楽しみです。
13時半過ぎ、難解な「席指定」の儀式
並び始めて1時間と少し経ったころ、店の扉が開き、白い調理服のおじさんが現れました。行列の頭から順番に「何人?」と確認し、店内を指差していきます。これは「1周目に入店する人たちに、座席を指示している」そうです。
外から店内のレイアウトを確認しようとしたところ、カウンターだけの簡単なつくりではなく、席がいくつも並んでいるのが見えます。え、外から指さされても全然わからないです。
ハレムさん「指定された座席に絶対座らないといけないので、このタイミングで場所をしっかり把握し、覚えなければいけません。お店の内部を見たことがない人には、かなりハードルが高いですよね。大丈夫、僕がしっかりやりますから」
店員の方がハレムさんに指示した時間は、ものの2-3秒でしょうか。「わかりました」と聞こえました。全然わからないのですが、よかった。
ハレムさん「さあ、これで一安心。今ので開店時の座席が確定しました。ここからは列を崩していいですし、お手洗いやコンビニなどに行っていただいても大丈夫ですよ」
この席指定とあわせて、行列の前の方の人から順番に「希少部位」が割り当てられます。さすがハレムさん、これも見事クリアです。
さて、開店時間までどこかに行こうかな…と思ったのですが…
折れ曲がった行列が解体され、通りの各所に散らばり、そこで待機しています。立ち去る人はほとんどいません。
ハレムさん「まあ、動いてもいいんですよ。でも、宇ち多゛の開店時間は仕込み状況によって前後します。特に、席が決まってから(開店までの)動きは早いもの。もし離席してるときに開店してしまうかと思うと…そんなことは怖くてできませんよ」
──また、この時間にお店にやってきて列に並ぼうとすると「どこに並んでいいか」が全くわからなくなります。実際、やってきたはいいもののどうしていいかわからず途方にくれている人もいて、常連さんの指示で新たな列に加わりました。行列の頭の方に並ぶのも大変ですが、後からふらっと行列に参加するのも、それはそれで難しそうです。
ハレムさん「おや、仕込みのスタッフの方がでてきましたね。思っていたより早いな」
お店から女性のスタッフ(仕込み担当)の方がでて、どこかへ行ってきました。その直後、男性のスタッフが出たり入ったり、にわかに騒がしくなります。
アトラクションに並ぶときののんびりした気分から、ライブの開演をいまかいまかと待つワクワク感へ、気分が盛り上がってきました。
ハレムさん「消毒液(入店前に手にかける用)が表に出てきましたね。いよいよです!」
いよいよ開店。緊張感あふれる店内へ
並び始めて約2時間、いよいよ、「宇ち多゛」の扉が開きました──。
ハレムさん「いきましょう。僕についてきてください!!」
──おおお!
ハレムさんについていき、店内へ。
……席、多いです。30名くらい入れるのではないでしょうか。それも、横に長いカウンターテーブルがいくつも。これは…指定されてもわからないです。そんな中、ハレムさんは的確に指定の席へ。
「もっと右つめて」「足はみ出さない!」と店員さんから指示が飛びます。
お店の中は、かなり年季の入った雰囲気。木製の長いテーブルがいくつかあり、そこにぎっちりと人(ほぼおじさん)が詰め込まれます。奥には煮込みの大きな鍋と、焼き場が見えます。一斉に入店した客の着席が終わるまで、しばし静寂に包まれます(しかし緊張感あり)。
(上の図の)店の中央に、大将が陣取り、睨みを利かせていました。誰も不用意にしゃべりません。ハレムさんの様子を伺うと、真剣な目で場の空気を読んでいるよう。緊張感がピンと張り詰めるなか、初の「宇ち多゛」が始まりました。(店内の雰囲気はこちらの記事の写真がわかりやすいです)
シンキカタに瓶ビールで(静かに)乾杯
店員さん「しんきいるかた」
ハレムさん「はい」
店員さん「はい、しんき」
ハレムさん「カタイノありますか。カタイノテッポウ混ぜてオス」
店員さん「はい、カタイノ」
──最初の注文は、一瞬のことでした。目の前に串がやってきます。……さっき予習した内容と全然違う。
ハレムさん(小声)「しんきとは、開店後の最初のお皿として出してもらえる串のセットです。部位はコブクロとテッポウ。オスは味付けです」
──カタイノ、というのは?
ハレムさん(小声)「カタイノと頼むと、コブクロの中でも硬い部分です。数が少ないので聞いてみたのですが、ありました。歯ごたえがよくって特に好きなんです」
──初見殺しがすごいです。だけど食べると、これが非常においしい。もつ焼は「パンチがある」「濃い味」の印象があったのですが、むしろさっぱり&上品。歯ごたえがありつつもよく切れます。これが名店の味なのですね。
名物「梅割り」──その正体は、ほぼ焼酎の原液
ハレムさん「梅割りあまめで」
店員さん「梅割りあまめで」
──これは…?
ハレムさん(小声)「宇ち多゛名物の『梅割り』です。宝焼酎に、梅シロップを少し垂らしたものです。これはきますよ、ほぼ焼酎原液ですから」
──あまめ、とは?
ハレムさん(小声)「普通の『梅割り』なら、焼酎に梅シロップがピピッと入ります。今注文した『あまめ』なら、梅シロップはピピピッ程度。反対に『辛』というと、梅シロップはピッ程度です。僕は断然『甘』ですね。
また、飲んだ杯数は会計時に聞かれますので、覚えておいてください」
──うわぁ…すごい。焼酎原液の強さと、シロップの甘さが強烈です。脳をふやかす味です。ひとくちごとに決まっていきます。
呪文が飛び交う不思議な空間
あらためて、「宇ち多゛」での注文方法を説明します(次の見取り図を参照)。座っている場所の近くを店員さんが通る(かつ他のことをやっていない)タイミングで「●●●●!」と短く伝えます。コールを店員さんが復唱してくれたら、オーダー成功、となります。
ハレムさん「カシラシオワカヤキ、ダイコンショウガノッケテオス!」
店員さん「カシラシオワカヤキダイコンショウガノッケテオス!」
今、これで2品のオーダーが通りました。
ハレムさん「ボイルハツナマ一緒にオス」
店員さん「ボイルハツナマ一緒にオス」
また今、2つのオーダーが通りました。
──まったく、注文に無駄がないです。最低限の言葉のやりとりでどんどんもつ焼がやってきます。飛行機のパイロットたちは緊急時に最低限の単語でコミュニケーションを取り判断速度を上げると聞いたことがありますが、それと近いです。
そして、そのどれもがおいしい。繰り返し書きますが、見た目よりもずっと「上品」な味わい。全然たくさん食べれてしまいます。そして「梅割り」でだんだんと脳が溶けてきます。
ハレムさん(小声)「初心者におすすめしたいオーダー方法は『梅割り』との合わせ技です。『梅割り』はコールしやすい言葉です。そして、店員さんがコップに焼酎を注いでくれている間は、動きが止まります。この瞬間を逃さずにオーダーするといいですよ」
酒飲みの探究心はすごい。独特の楽しみを知る
こちらは「煮込み」。希少部位の「ほね(顎周りの肉)」入りです。先着十数名でした。塊肉に齧り付きます。
ハレムさん、ここに先ほどの「ダイコンショウガノッケテオス」の紅生姜を
煮込みに乗せます。牛丼の楽しみ方です。
ハレムさん(小声)「宇ち多゛の先輩に教えてもらいました。この組み合わせが美味しいんです。肉がでかいので、ぜひかじりついてください!」
おいしいです。煮込まれてほろほろになった肉と、紅生姜のアクセントがぴったいです。
ハレムさん(小声)「宇ち多゛は、きびしいようですが、実は楽しみ方の幅はかなり広いです。焼き方も味付けも、その人の好みにカスタマイズできますからね。常連さんの多くは『自分の好きな頼み方』を持っていますよ」
初の「宇ち多゛」注文コールをしてみる
ハレムさん(小声)「どうですか?大久保さんもコールに挑戦していますか?
!!これまで、ベテランの鮮やかなオーダーと、流れるような提供にすっかり身を委ねていました。しかしせっかく厳しい「宇ち多゛」に参戦させてもらっているので、ぜひともコールしてみたいです。
──先ほどおいしかったカシラはどうでしょう……
ハレムさん(小声)「カシラはひとり1本までです」
──じゃあ、私の好きなレバーを、若焼きでは……
ハレムさん(小声)「レバーは若焼きNGです」
──トラップが多い! webの事前情報だけじゃクリアできない、入店してみないとわからない落とし穴、結構あります。
──ハレムさんと相談(小声)の後、呪文を決めました。タイミングをよーく計って…
ナンコツミソ(=焼き方をいわなければよくやき)
店員さん「………」
──(え、聞こえてない?)
店員さん「………ナンコツミソ」
ハレムさんが行列時に語っていた「オーダーが通る快感」を、確かに感じました。店員さんは相槌ということをしてくれないので、最初は「あれ?大丈夫??」となるのですが、1秒後くらいに復唱(オーダー通った証拠)してくれると、ゴールを決めた気分になります。
そして、自分のコールでやってきたナンコツが、めちゃくちゃ美味しい。
ハレムさん(小声)「味噌の味付けは、煮込みのスープにくぐらせているんですよ。だから重くなく、軽い味わいです……あ、その(食べ終わったお皿の)汁、飲んでいいですか?」
──えっ?
ハレムさん(小声)「(ずずずっ)(ごくり)うん、うまい。宇ち多゛はタレや汁がおいしい。これだけで(酒が)飲めるんですよ」
なんなんだ、その楽しみ方は…と一瞬引いたのですが、この後私も「汁」で酒を飲みました。確かに、いいです。酒飲みの探究精神、すごいです。
制限時間は1時間。ラストは「梅半分」
入店から30分を過ぎた頃から、さっと会計する人たちの姿が(2時間待ったのに!)。ハレムさん曰く、「1時間で出る」ことが基本なのだそう。ちょうどそのタイミングで…
大将「もうそろそろ、次の1杯で終わりにしな」
すごい、めちゃめちゃ混雑しているなかで、誰がどれくらい飲み食いしているかをみているんですね。
最後のオーダーは「梅割り半分」。これは最後の一杯にだけ適応される注文法で、「梅割り」の半量が、100円になるというもの。頼んでみると、半分じゃないです。ほぼフルです。
ハレムさん(小声)「もう、開店時に入った客は僕らだけですね。ちょっと焦ってきました。飲んだらいきましょう(退店)」
ふと店の外をみると、店内を凝視するたくさんの人。プレッシャーを感じると共に「彼らにもはやくこの空間を楽しんでもらわなければ」という、経験者の義務みたいな気持ちが芽生えます。梅で脳がやられているからだと思います。
ごちそうさまでした!
1時間、ふたりで結構飲んで食べて、5千円程度でした。安いです。
お昼から並んで、緊張感のある中で食べて飲んで、外に出るとまだ明るい街。まるで映画館から出た瞬間のような開放感に包まれます。
飲み屋の聖地・立石で、「宇ち多゛」の反省会
ハレムさん「おつかれさまでした、どうでしたか『宇ち多゛』は?」
──店内のはりつめた雰囲気、緊張感が、特別でした。普通、他の飲み屋さんではなかなかないような…
ハレムさん「僕も、ここ以外では味わったことのない空気です。でも、これがたまんないっすよね。緊張感の中で食べる美味しさと、その後の開放感が!」
──ハレムさんは、こんなに初心者にとって難しい「宇ち多゛」に、どうやっていけるようになったのでしょうか?
ハレムさん「実は、僕も最初は宇ち多゛の常連の方に連れてきてもらったんですよ」
ファンがファンを呼ぶ、宇ち多゛エバンジェリスト
──なぜ、ハレムさんが「宇ち多゛」好きになったのか、改めて教えてください。
ハレムさん「僕はもともと酒場が好きで飲み歩いていました。『宇ち多゛』という有名な酒場のことは知っていましたが、噂に聞く感じだとハードルが高くて、躊躇していたんです」
──あ、私と同じです。
ハレムさん「そんなとき、SNSでつながっていたお笑い芸人の武井さんという方が、宇ち多゛の常連と知り、お願いして連れて行ってもらったんです。そこで、お店のルールや注文方法、楽しみ方を教えてもらいました。
それから、ひとりでも楽しめるまでに通い、次にはじめて『宇ち多゛』に行く人を案内するようになりました」
──なぜ、そんなボランティアのような行動を…
ハレムさん「(初回につれていってくれた)武井さんのおかげで、『宇ち多゛』の楽しさに触れ、はまりました。きっとひとりでデビューしていたら、十分に楽しむことはできなかったでしょう。でも、ここはハマると非常に楽しい場所です。
そういう経験があるからこそ、『宇ち多゛』に興味があるという人は、自分が責任持って連れていくことで、ちゃんと楽しさを感じてほしいんです。
きっと僕以外にも、「常連が連れてくる初心者」はたくさんいると思いますし、そういう人の一部が、また新しいファンを連れてきているんだと思いますよ」
ハレムさん「また、宇ち多゛は滞在時間1時間くらい。昼から並んで飲んで、店を出ても15時くらいなんですよ。それが、またいい。
僕はいつも、夕方から2軒目にいったり、『宇ち多゛』のすぐ近くにある鮮魚店で刺身を買って、家で晩酌しています」
──最高ですね。
ハレムさん「ええ、これが宇ち多゛のある、休日の過ごし方です」
──ハレムさん、今回は「宇ち多゛」をご案内いただき、本当にありがとうございました。またぜひ、ご一緒させてください!
考察:「宇ち多゛」と「ファン」の不思議な関係
(後日)
一体、なんだったんだろう、あの有給の1日は。いまだに不思議です。
「宇ち多゛」には、事前の噂以上のハードルの高さがありました。緊張感の中、難解なルールに焦りながら、肩をすぼめて数杯酒を飲み、追い払われるようにでる。それなのに、それだから、妙に「よい」。
ある常連さんは、開店から30分ほどで「明日もくるよ」と颯爽と帰っていきました。毎日、2時間以上並んで、30分で出る。
またある常連さんは、完璧なコールを大将から無視(常連ゆえに、わざとプイッとする)されて、ただ苦笑い。
……なぜ、そうまでして通うのでしょうか。
「アイドルと熱狂的なファン」?
「暗黙のルールが厳しいという宝塚」?
「ママにわざわざ怒られにいくスナック」?
「熱くてつらいのに、最後にすっきりするサウナ」?
どれも、ぴったりとは当てはまりません。
ファン以外からみると「何がいいのかわからない」部分が「むしろいい!」に変換される。「他人が理解できないローカルルールを使うこと」が快感につながる。そんな、偏愛心に火をつける何かが、きっとあるのです。
ただ「おいしい」だけではない、店と客の不思議な絆が、平日の立石の路地裏で形成されていました。
「宇ち多゛」の時間は、本当になんだったんだろう…。とりあえずもう一度行って、コールしたいです。