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「獺祭 生酛」誕生!桜井社長・三浦杜氏にインタビュー

旭酒造の「獺祭」は、お酒好きなら誰もが目にしたことがあるであろう、知名度抜群のブランドです。最高級の山田錦を使い、二割三分まで削り(精米)造った酒質は「これぞおいしい日本酒」の王道。旭酒造はそれをさらに「どこでも楽しめる」ことを目指し、世界に販路を広げています。

そんな旭酒造が、2020年12月に「生酛」をリリースしました。

獺祭が、生酛?

生酛は、自然の乳酸菌を取り込む江戸時代の発酵方法。小さな蔵のチャレンジならともあれ旭酒造が取り組むのには「?」となりました。

(私のイメージ)
・獺祭→同じ味をたくさん造るメーカースタイル
・生酛→微生物の神秘を感じる、クラフト的な魅力がある

この2つが、どうにも結びつかないのです。今回、その疑問に旭酒造の桜井一宏さんと製造担当の三浦史也さんが答えてくれました!

単刀直入!なぜ獺祭が「生酛」なのですか?

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(オンライン取材です。左から桜井一宏社長、製造担当の三浦史也さん、広報担当の千原英梨さん。三浦さんは獺祭の工場長=杜氏的な立場を務めていたすごい方です。ちなみに背後に写っているのは旭酒造の分析室だそう)

ーー早速ですが、なぜ「生酛」に取り組まれたのですか?

桜井社長「獺祭本体(=普通の獺祭。生酛は別ラインのため便宜的に「本体」と表現)の話からしますと、私たちは自分たちの美味しいと感じる味を追求していった結果、山田錦・純米大吟醸のみに絞り込み、品質向上のためのPDCAを回す酒造りをしています。

その一方、もしかしたら他のアプローチで、獺祭の『美味しさ』をさらに一歩進める、超える可能性もあるかもしれないと考えました。今年(2020年)の8月に社内で検討。そして本体の獺祭とは別のアプローチをすることを決め、その一発目として『生酛』に取り組むことを決めました。それも中途半端な取り組みではなく、満足できる戦力を投入して、販売面でも戦えるものをつくろうと」

ーー蔵人を交えた会議では「低精米」や「低アルコール」などの意見も出ていたそうです。製造には、旭酒造勤務10年、本体獺祭の工場長も務めたトップ蔵人・三浦さんに白羽の矢が立ちました。

桜井社長「技術や経験はもちろんですが、それ以上に『獺祭をよりおいしくしたい』という姿勢ですね。彼ならきっと獺祭本体の脅威になれる。あとは、打診したときに即答で『やる』といったところですね、抜擢理由は」

三浦さん「実際に話があったのが8月。そこからなんとか年内の12月に間に合わせるため、僕ともう1名の2人だけで生酛の製造に移りました」

たった2人の生酛。採用したのは「新政式」?

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(低精米はないでしょ笑 と桜井社長)

ーー8月に決定し、わずか4ヶ月後にはリリース。生酛って…そんなにすぐにできるものなのですか?

三浦さん「実は、生酛造り経験はあるんですよ。3〜4年前ですかね、二割三分の商品にスパイス的な要素として使う『ブレンド用』として取り組んでいました。ただ、月間1〜2本造った生酛を少しずつ二割三分にブレンドしていくうちに、生酛の味が落ちてしまう。安定した味が造れなくなりますので、現在はストップしています。タンクの本数が年間3000本超えますので、常にいろいろな取り組みを行っているんです」

ーー生酛の知見はすでにあったのですね。だから同年12月リリースが実現できたのでしょうか。

三浦さん「かなり短いですよね(笑)、実際の製造スタートは9月でしたので。まずは2人体制で、月に1500kg仕込み2本。非常に少ない仕込みで取り組んでいます。本体の方の繁忙期でもありましたので、生酛の作業は本体(獺祭)の作業がない早朝など。最初の方は『(朝早くて)酒造りっぽい!』と思っていたのですが、続くときつかったです笑。

最初に搾ったお酒をテイスティングして、獺祭として出せるレベルでしたので出荷。タンク2本目からはかなりイメージ通りの味にできました。

味のイメージですが、大前提として『獺祭を感じて』もらわないといけません。香りが高く、誰でも口に運びやすい『らしさ』がある上で、余韻がしっかり感じられるもの。俗にいう『生酛っぽい』味とは違いますが、この後味は本体の獺祭に勝てるポイントになると考えています」

ーー生酛ということは「山卸し」(木の櫂棒でお米をガシガシつぶすやつ)など行われたのでしょうか。近代的な獺祭のイメージにはないですが。

三浦さん「いえ、今回の生酛では山卸しは行っていません。ビニール袋に入れて長期間かけて微生物の働きを促す、新政酒造さんがされているようなイメージの手酛を導入しました。ちなみに獺祭の酒蔵は大きく、機械工場のような見た目ですが、お米を運ぶなど重労働、品質に関係しない部分で省力化するための機械はありますが、実際はほとんど手作業なんですよ」

ーー新政酒造は江戸時代の古式酒造りに回帰し、独創的で一期一会の表現に取り組んでいる人気蔵。真逆のスタンスの旭酒造が、同じ生酛の方法を選んだことが非常におもしろいです。

「伝統製法・生酛」のストーリーはいらない

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(獺祭・生酛には裏ラベルなし。公式サイトにもほとんど情報がない)

ーー「獺祭が生酛をする意味」について。生酛は江戸時代の手法であり、お米の精米技術がそれほどなかった時代に生まれた製法。しかし獺祭は現代的な「高精米」が特徴。わざわざ生酛にする理由はあるのでしょうか?

桜井社長「うちはあくまで現代の酒蔵であって『日本酒の文化を守る』ような存在じゃありません。獺祭のスタイルとして『美味しさのためならなんでもあり!』ということがあります。精米をすることだって『磨いた方がおいしい』というだけ。『おいしさ』だけが判断基準なのです」

三浦さん「ですから、生酛自体には本当にこだわりはありません。あくまで『造りたい味』があって、そのアプローチのひとつとしての『生酛』なんです」

ーー日本酒好きとしては『生酛』というと、それだけで魅力を感じてしまいますが。

桜井社長「そういう面はありますね。ラベルに『生酛』と明記している事で、そういったお客様にも魅力を感じて頂けています。『日本酒は好きだが獺祭は(一般的すぎて)飲まない』という方も結果的に飲んでくれています」

ーーしかし、裏ラベルもなければリリースもなし。「生酛である」こと以外まったくわからない。

三浦さん「それは、間に合わなかったというのもあります(笑)」

桜井社長「事実です(笑)。しかし、そうでなくても『シンプルにしたい』という考えはありました。例えば『若手がいろいろな苦労をして伝統的な生酛製法で〜』のようなストーリーがつく売り方はしたくなかったんです。獺祭は『おいしさ』を追求したお酒ですし、『おいしければきっと届く』と考えています」

ーー反響はいかがでしたか?

三浦さん「酷評されたらどうしよう…と思っていたのですが、『獺祭だけど生酛を感じられる』と、とても好意的でした。一方、社内のテイスティング会などでは『もっと、こう、華やかにしたい』などの意見はありましたので、伸び代は大きいと思っています」

桜井社長「そういう(潜在的な美味しさに対する)声にしても、実際にものがないと出ないもの。ここからどんどんおいしくなって、本家・獺祭を競争し、本家が焦るようにしていきたいですね」

比べるとわかる獺祭・生酛の複雑さ

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実際に同じ精米歩合(45%)の獺祭「生酛」「通常」「新生」を比べてみました。すると、生酛はフレームは確かに獺祭そのもの。派手すぎないけど飲みやすい香り、スーッと入る繊細な舌触り。そこからの「飲み口」が、生酛はより複雑。生酛のお酒から感じる調和の取れた立体感(これ以上は言語化できないです)らしきものがあります。つまり、おいしいです。

ーー桜井社長、三浦さん、広報の千原さん、ありがとうございました。まさか個人ブログにお付き合いいただけるとは…本当に感謝いたします。


今、改めて獺祭がおもしろい!分析記事はこちら

https://note.com/00kub0/n/nfacc03c441b5


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クリーミー大久保(日本酒)
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