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はなり亭の料理から3「鶏だし茶漬け」
このコラムは読酌文庫が執筆・発表している小説「はなり亭で会いましょう」に登場する料理を取り上げたコラムです。本編未読でも問題なくお楽しみいただけますし、ネタバレにならないよう配慮した書き方を心がけております。
鶏だし茶漬け
居酒屋のメニューには、サッと出せる手軽な肴や、メインとなりうる店の看板料理、季節のおすすめ逸品といったジャンル分けをされていることが多い。そして、〆のご飯や麺類も、ひとつのジャンルとして欠かせないだろう。
「はなり亭」の〆メニューには、「鶏だし茶漬け」や「朝取れ玉子の玉子かけご飯」があるようだが、今回は「鶏だし茶漬け」について取り上げよう。
お茶漬けというのも実にさまざまなものがある。
家で食べるなら、市販のお茶漬けの素を使うと、手軽に味わい深いものになる。まぁ、常備してない場合は、その名の通りお茶を白ご飯にかけてしまうケースもあるだろうか。
ちょっと手をかけるなら、何らかの具をご飯にのせて、だしと調味料で仕上げると美味しい。薬味にぶぶあられが入ってると嬉しい。……まぁ、なかなか常備してないけれど。
さて、「はなり亭」の「鶏だし茶漬け」であるが、こちらは店の鶏料理でも使用する、鶏のだしを使った茶漬けである。要するにお茶は入っていない。でも、ご飯にお茶ないしは出汁をかけると基本的に「お茶漬け」と表現(鍋で煮る工程が入ると雑炊、おじやのカテゴリ)されるのだから仕方がない。
具材には、細かく切った鶏肉が入っている。出汁の味わいがホッと落ち着かせてくれ、適度にお腹を満たしてくれる仕様だ。
1巻収録の涼花編エピソード「お試しバイトとお客様」にて、急きょアルバイトすることになった涼花が、店を閉めてから遅い賄いとして食べさせてもらうメニューでもある。
実はこの日、涼花はアルバイトを探していたのだが、最初から「はなり亭」で働くつもりはなかった。が、成り行きで料理を運んだり、団体客相手に生中を作ったりと、不慣れな仕事をする羽目になる。
慣れないアルバイト中、幾度となく空腹に堪える刺激を与えてくれた、美味しそうな料理が今、自分の食べる分として用意されている。涼花はまず、鶏だし茶漬けの出汁を、添えられていたレンゲに掬って口にする。しっかりとした旨味のある出汁は、薄味とは思えない濃厚さが感じられ、これだけでどんな食事よりも価値のあるものに感じられた。続いて、出汁を含んだごはんと、細かく裂かれた鶏肉とを一緒に口に運ぶ。噛むたびに肉の旨味が広がり、ごはんは甘く、口に運ぶ手が止まらない。
そして、お店の前を偶然通りかかった際も、なかなか食欲をそそられる香りがしており、涼花は空腹を自覚していた。だが、食事にありつけたのは仕事のあとであり、それまで料理を運びながら空腹と闘っていたらしい。
飲食店から香るお出汁の匂いは、なかなかに抗いがたい魅力的なものだ。朝の通勤時やお昼時、うどん屋または蕎麦屋から鰹と昆布の出汁の香りがしてくると、うっかり引き寄せられてしまわないだろうか?
同様に、パン屋から香る小麦とバターの香ばしい匂い、洋菓子店から漂ってくる砂糖とバターの甘やかな匂い……非常にけしからん存在だ。
委託先情報
「はなり亭で会いましょう」1巻は、委託先「ぽんつく堂」「犬と街灯」「架空ストア」の通販でもお買い求めいただけます。はなり亭での飲み食いを通して、ちょっとだけ交流する関係を主軸に、2人の主人公の視点で物語が展開します。
※委託先により、販売価格・送料等が異なります。また、現在ぽんつく堂さんでお取り扱いいただいているのは、旧装丁版となります。ぽんつく堂さん取り扱い分も新装版となりました。
そのほか、大阪・文の里にある「みつばち古書部」の読酌文庫棚や、奈良・ならまちの無人書店「ふうせんかずら」(有人営業日もあり)の虎月堂さんの棚でも販売しています。お近くの方は是非どうぞ。
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