とつげき隣のヒトハコさん1:母と娘の一箱「星月夜」さん
第1回目の取材対象は、母と娘で一箱活動している「星月夜」さん。
よろしければ自宅でどうぞと申し出があり、ご厚意に甘えてのお宅訪問となりました。
― 今日はご対応、ありがとうございます。
星月夜(母):いいえ、遠いところ、ようこそお越し頂きまして。
通されたのは星月夜お母さんのコレクションルーム。
お部屋の壁にはびっしりと、特注本棚に詰められた蔵書が並ぶ。絵本、児童文学、サブカルetc…
曰く、このお部屋が一番、よそ行きで見せられる場所とのこと。
(ということはほかのお部屋には、ここに入りきらないコミックや、一箱古本市などで販売する用の本などなどが、まだほかにも……?)
その風景に圧倒されながらも、お茶とケーキを楽しみながらインタビュースタート。
屋号について
― まずは屋号の由来をお伺いしたいと思います。
星月夜(娘):うちは10分足らずで決めたよね。特別に考えず、最初に参加したイベントに申込むとき「屋号どうする? 何にする?」って。で、なんかキレイやし、これでいいやって。
星月夜(母):だから、思い入れとかも特にないよね。キレイな響きだけで、漢字にしても字面が良い感じっていうので。
― 一箱古本市などへの出店で屋号が必要になって、何となく決まっていった人も、実は多いのかもしれないですね。
星月夜(娘):古本屋とか本屋っぽい名前なら、「書肆」とか「文庫」とか入った屋号が定番やろうなと思いながら。なので「星月夜」だけ見たら、あんまり古本屋感はないかな。
一箱古本市の出店歴など
― おふたりが一箱古本市に出始めたのは、長岡天満宮で開催されている「天神さんで一箱古本市」からだそうですね。活動は最初からおふたりで?
星月夜(娘):ふたりでというよりは、私は手伝いで巻き込まれたって感じかな、最初は。
星月夜(母):力仕事の範囲は娘やからね。
星月夜(娘):母に「出るからあんたも手伝ってや」って言われて。でもそのとき「え?私バイトなんやけど」って。
― そのような感じで、母娘ふたりのユニットができあがっていったんですね。
星月夜(母):珍しいって、言われますよね。ご夫婦で活動されてる方は時々いるし、友だち同士でとかもあるけど、うちみたいに母と娘でっていうのは、ほかは見たことないね。
星月夜(娘):小学生くらいのお子さんを連れてってパターンなら結構あるけど、成人した子どもと親が一緒にっていうのは見いひんな。だから、母と娘で出ていたところが最初に認知されたポイントっぽくて。なので、出店するときに申告する紹介文にも「母と娘の一箱」って、キャッチコピーのように入れるようになりました。
星月夜(母):最初はずっと「天神さんで一箱古本市」しか出てなくて。年に1回とか2回とか、そんなペースでやってて。そのうち御池ゼストのブックフェスティバルに、天神さんで知り合った諸岡さんにお声がけいただいて。それで出たのが、天神さん以外で初めてのイベントやったかな。
星月夜(娘):あ、レティシア書房さんに呼ばれたのと、どっちが先やったっけ?
星月夜(母):諸岡さんの方が先やった。レティシア書房さんっていうのが二条御池にあって、そこで夏は「夏の一箱古本市」、バレンタイン時期に「女子の古本市」をされてて。それで、どうですかって声をかけていただいて、一箱置かせていただいたっていうのがありますね。
星月夜(娘):で「天神さんで一箱古本市」が今、コロナでやらへんくなって……で、ほかのところも結構なくなってきたときに、古書みつづみ書房さんの紹介で「あまがさき一箱古本市」も出たり。あとは棚音文庫さんからの紹介で「大津京本の市」とかも。あとは立誠図書館の「立誠一箱古本市」に1回出たことがあるのと。
星月夜(母):うちはもう、そこくらいしか出てないな。遠征はしいひんな。車で行けるところ、みたいな。いかに自分たちの体力を使わないかが重要。
― 遠出しての出店は準備も大変ですしね。遊びに行くだけならまだしも、本まで持って行くから体力も使いますし。
星月夜(娘):高速使わないで下道で行ける範囲内でっていう。
星月夜(母):そうそう。「東京行きます!」とか「どこどこ(遠方)行きます!」とか、遠征して出店されてる人はすごいな~って思うけど、私は無理です!
一箱に入れる選書テーマ
― 選書テーマはその時々で色々、という感じですよね。
星月夜(母):最初に出たときに、自分の好きな本ばかり入れても売れないっていうのはよく分かったんで。絵本は定番のものは売れる感じなので持って行きますけど、ほかはその時にハマってて、これがいけそうかなってのを持って行く。でも、勝率5割もないかな?3割いったらいいと思う。
星月夜(娘):テーマ作って本を選ぶってやろうと思っても、うちふたりとも読む本が全然違ったりするし。結局、売る用には出せない、これは置いときたいって本があるから、テーマで選んで箱を作るっていうのがしづらくて。もう、ジャンルごちゃ混ぜになってて。
星月夜(母):何でもありやな。
― 自分たちが楽しいと感じたものを詰めましたって感じですね。
星月夜(母)&(娘):そうそう。
星月夜(娘):ただ、逆にコレというテーマとか統一性が薄いから、見に来た人は本を探しづらそう、とは思う。
星月夜(母):「ここの本屋さんはこれを持ってきてるよな~」って、読めるところがあるじゃないですか。でも、うちは読めへんもんな。絵本は持ってくるって認知されてるとは思うんですが、絵本とか児童書とかに混ざってノンフィックションが入ってたり、漫画が入ってたり、本当ごった煮みたいな箱になってるんで。
― それも含めて「星月夜」さんの選書、という感じですね。
星月夜(娘):だから最近は、出店者のコメントとか選書傾向を答えるときに、「読んだ本を持っていきます」っていう書き方をするようになったかな?
星月夜(母):でもまぁ、基本的に我々はふたりとも、出店時に売るよりも買いに走る方が多いんで。
本以外のコレクションの話へ…
― お母さんのほうはマッチ、娘さんのほうはタバコのパッケージのコレクションもされてますよね。
星月夜(母):最初はね、マッチを集めるつもりもなかったんですよ。それが、たまたまフリーマーケットで箱にまとめて売ってあって。「これいくら?」って聞いてみたら、思ったより安かったんですよ。それで買ってみようかなって。そこからなんですよ。
― こうしてコレクションが始まり、増えていったと。
星月夜(母):マッチを集める泥沼がはじまってね。きっかけって、そんなしょうもないことからなので。あんたの集めてるタバコのパッケージはなんで?
星月夜(娘):あれは……狂言屋さんとこの「古本イエー」で、けんじ堂さんが出してたタバコのパッケージデザインと収集って本があって。タバコの喫煙文化を知れていいなって思ったから買って、読んで。昔のタバコのパッケージコレクションに興味が出て。その2年後くらいに四天王寺で、タバコのパッケージが売られてるのを見て「あ、これ!」って買ったのが最初。そのときは、これが本にあったやつか、というだけの気持ちが、さらに2か月後くらいに東京に行ったとき「たばこと塩の博物館」でマッチラベルの展示もやってたから母と一緒に見て。そこで、ずらーっと並んでるのを見てたら、帰りの新幹線でヤフオクを……。そこで買い集めるようになっていって。
星月夜(母):ドツボよ。
― お母さんがマッチで、娘さんがタバコと。関連しつつ集めるものが分担されましたね。
星月夜(母):そうなの。それで上手いこといってるわけ。これで同じもの集めてたらどうなってたか。
― ほかにこれから、集めようと思うものはありますか?
星月夜(母):80年代の少女漫画の付録なんですけど……あれは、買えない。めっちゃ高いんです!売ってるんですけどね、めっちゃ高くて買えない。マッチはね、まだ買えるかなと思うんですけど、付録はもう財力がないと買えません。
― 過去の付録となると再販されるものでもないですからね。
星月夜(母):そのとき1回きりでしょう。だからもう、無理ですよね。
星月夜(娘):私は何かあったかな……あんまりこれっていうものはないけど、古切手か……
星月夜(母):切手よりもあんたは古地図だよ。
星月夜(娘):あ、古地図!多分15、6枚くらいあったはず。昭和初期くらいの戦前の地図とか。特に満州の地図が多いかな。
― 満州の地図ですか。そういった古い地図も今では手に入りにくいものですよね。
星月夜(母):お高いんですよ、それもまたね。
星月夜(娘):最近買ったのだと、去年、明治の樺太の地図と、日清戦争の頃の日本韓国清国の三国地図。
― 古地図も古書市で売られているのがありますよね。
星月夜(娘):ああいうところで探して買いますね。時代物の本を読んでるときとか、地図があったほうが助かるなって思うことがあって。多分それがきっかけで欲しくなったかな。
星月夜(母):一番買ったのは天神さんのときだっけ?
星月夜(娘):えーっと、下鴨納涼古本まつり。
星月夜(母):下鴨ね。たいがい私たち、夏の下鴨は初日に合わせて行くんですよ。初日に行かないと欲しい本が買えないから、無理矢理休みをもぎ取って。それではじまる前にふらふら見てたら、すごい地図があって。それでもう、はじまった途端、娘はそこから食いついて離れへんかったね。
― 収穫はありましたか?
星月夜(娘):めちゃめちゃありました!そこで5枚?6枚?くらい買ったかな?はじまって10分経たずに、万札が飛んだ、みたいな。
星月夜(母):樺太の地図も、私がヤフオクで見つけたんだよね。台湾と樺太出てるでって。でも台湾の方は買えなかった。
星月夜(娘):良いお値段してました。入札で跳ね上がってて……。やっぱりそうよな~って思いました。樺太は対抗する人がいなかったみたいで、そのままスッと落とせて。
ヒトハコ以外の趣味はやっぱりコレクション
― 一箱古本市への出店関係以外だと、お二人ともコレクションが趣味、という感じですね。
星月夜(母)&(娘):はい!
― ここのお部屋にある蔵書数もかなりの点数ですが、ほかのお部屋にもあるんですよね。
星月夜(娘):ここにある私の本は、ほんのちょっとだけやからな。ほとんど母のものやし。
星月夜(母):これでまだ、ほかの部屋には漫画があるしな。
星月夜(娘):漫画はここ5~6年で、昔のヤツを狂ったように買い始めたもんな。
星月夜(母):そうそう、手放しちゃった本をね。高値で買い直してるから……馬鹿だねって思うんだけど。
― 漫画というと、80年代の作品ですか?
星月夜(母):そうですね。ついこないだ、東京であったくらもちふさこ展に行ったから、どれだけ手元にくらもちふさこの漫画持ってたかなって探したら、ないのもあって!改めて見直すと、手元にないわ……って。となるとコンプリートしたくなるじゃないですか!たしかね、あと3冊なんだよ。
リスペクトするヒトハコさん
― 一箱古本市に限らずとも、古書店さんなども含めて、憧れるヒトハコさんとかいらっしゃいますか?
星月夜(娘):私は、寸心堂書店さんかな?自分が文学をあまり読んでないのもあるけど、文学にすごく強いし、特化してはるし。で、そういう本のラインナップとか、Twitterにあげてるのとかみて、あーすごいなーって。
星月夜(母):私は誰だろう……
― お気に入りさんや尊敬する人がいっぱいいる感じですか?
星月夜(娘): かなわんなって思うのは、古書柳さんかな。
星月夜(母):古書柳さんはね、別格やな。ら・むだ書店さんも別格やねん、私の中では。ちょっとズレるんですけど、ぽんぽんぽんさんは私の好きなサブカルが強いし、似たとこあるなって思う人。私の欲しい本も持ってらっしゃる。
― 共感する方なんですね。
星月夜(母):人として尊敬できるのは、やっぱり狂言屋さんのご夫婦やな。
星月夜(娘):あ、それでいうと大吉堂さんもかな?
星月夜(母):大吉堂さんのあの受け入れる懐の深さはすごいなって思うかな、うん。自分の心が狭いので。それに、みつづみ書房さんやレティシア書房さんは、これまでに出店でお世話になってて、尊敬する方々ですね。
後記
今後もどちらか片方がリタイアするまでは、母と娘の一箱として一箱古本市への出店を続けるという「星月夜」さん。
出店時に持って行かれる本は、おふたりの直近の読書傾向も反映されるそうなので、覗いてみると意外な好みの共通点が見つかるヒトハコさんかもしれません。
ご自宅の特製本棚にびっしりと詰められた蔵書も拝見し、読酌文庫も楽しい時間を過ごさせていただきました。取材協力、ありがとうございました。