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とつげき隣のヒトハコさん4:本を売る楽しさと難しさ「虎月堂」さん

今回は、ならまちにある無人(時々有人)書店「ふうせんかずら」のご縁で知り合った「虎月堂」さんのお話をお伺いしてきました。
「ふうせんかずら」への出店は撤退してしまった読酌文庫ですが、ご厚意により『はなり亭で会いましょう』1~3巻を、虎月堂さんの棚で販売してもらっています。
……ちなみに『山月記』(中島敦)との関係は特にないそうです。

ー 本日は、よろしくお願いいたします。

虎月堂:はい、よろしくお願いします。よく考えると、あらためて話を聞かれることはあんまりないので緊張しています。

屋号について

ー まず、屋号の由来があれば教えていただきたいです。

虎月堂:まぁ……単純に「虎」が好きなんです。仲間うちで「トラッキー」とか言われてたことがあって、友だちが「虎」と「月」の漢字をあててくれたんです。
あ、カッコイイじゃん、イタダキ!って思って。
で、「虎月舎」とか「虎月書房」とか、あまりないけど「虎月ブックセンター」とか考えたなかから、それっぽい感じがするのが「虎月堂」かなと。
付けた当時はそんなに頑張って一箱古本市に出店するとか、古本の世界に突入していくつもりはなかったので、軽い気持ちでしたね。ただ、名前は気に入ってます。

ー ロゴも用意されてましたよね?あれはどなたかに作っていただいたのですか?

虎月堂:あれは私の仕事でお付き合いのあるデザイナーさんに「ちょっと、こんなことやろうと思ってるんだけど、ロゴとかほしいなー」って言ったら、「作ろっか?」と言ってくれて。実は看板もあるんですよ。

虎月堂さんより提供いただいた看板写真

ー そういうロゴや看板があると、出店時に目に付きますしね。

虎月堂:そうそう、もう、形から入った感じですね。キレイに作ってもらえたんで。プロの方なんで当たり前ですけど、ありがたいですね。

活動のはじまり

ー 出店をはじめられたのは、「ふうせんかずら」に棚を借りられたのが先なんでしょうか?それとも、その前から一箱古本市に出られてたんでしょうか?

虎月堂:「虎月堂」っていう屋号をはじめて名乗ったのは、コロナ自粛が始まる直前の2020年2月に奈良にある「雨の日製作所」というところの、本のイベントでした。
そこで一箱古本市に出店して、ロゴの入ったスリップに値段を書いた本を売る、ということをやりました。それがはじめてかな。

それからの出展歴

ー 「雨の日製作所」のイベントで一箱古本市に出て、その後は貸し棚やほかの一箱古本市に出店して、というところですか。

虎月堂:タイミング的に、はじめて一箱古本市に出店してからすぐにコロナに突入して、何もない期間があって、間が空いてますね。
で、元々知り合いだった秋月堂さんが一箱古本市に出てて、私も興味あるっていう話をしてたら、「大津京本の市」を紹介してもらいました。
「大津京本の市」の1回目にも声をかけてもらったんですけど、それは仕事で行けなくて。2回目は募集を知らなくて、3回目がはじめての参加で、それが2021年の5月かな。
それからですね、実際は。
「大津京本の市」は、2021年の5月と10月と、2022年の3月に出てます。
それと並行して「ふうせんかずら」の棚を借りようと思ったんですけど、その時は貸し棚がいっぱいで、ちょっと待ったんですよ。なので「ふうせんかずら」への出店がはじまったのは2021年の7月からですね。
この前の5月の「(長岡京)天神さんで一箱古本市」(2022年)も秋月堂さんに声をかけてもらって、初めての参加でした。だからまだまだ初心者っていうか、新参者ですね。

ー まぁ、一箱古本市の活動は結構気軽にはじめられることかなと思うので。

虎月堂:それはそうですね。参加する敷居は低いですよね。

「月」と付く名前について

ー 秋月堂さんも、虎月堂さんと同じく「月」「堂」と漢字が並ぶ方ですね。

虎月堂:そうそうそう。あまり意識してはなかったんですけど、実はそうなんですよね。なんか、こういうのちょっと偏見かもしんないですけど、本や文学の世界には、「月」と付ける人が多い気がしてます。

初出店は心に強く残る

ー 今まで出られたなかで思い出深いイベントはありますか?

虎月堂:やっぱり最初に参加した「雨の日製作所」のイベントは、初めて手売りしたという体験が強く残ってますよね。自分で本を並べて釣り銭を用意して、本とお金のやり取りをしてという。

ー 対面で売るという、一箱古本市らしい体験ですね。

虎月堂:そう。それが新鮮で、古本市って面白いんだなって思ったんで。
それが面白くなかったら、こんなふうにやってなかったと思うんで。雰囲気も良かったんですよね。

選書傾向について

ー いつも一箱に詰められている本の選書傾向や決まりはありますか?

虎月堂:あ、来ましたねその質問。その質問困るなーって思ってて(笑)
自分は結構雑色系って思うんですけど……最初はやっぱり、手持ちの本を持って行って出店するのからはじまってます。
何かしら自分の興味のある分野を入れてるんですが、だんだん回を重ねていくうちに、ジャンルも種類も増やしていて……でも結局、おすすめしたいものになるのかな?
基本的にはノンフィクションが多いですね。小説はあんまりないかもしれない。

ー それは普段の読書傾向も同じ感じですか?

虎月堂:はい、普段読んでる本の延長線だと思います。予備知識的なこともあるし、本の良さを判断できるのは、普段から読んでるジャンルになってくるので。

ー 知ってるジャンルの方が理解できるし、すすめやすいってことですかね。

虎月堂:すすめやすいです。自分の興味のあるところや、いいなと思えるものは余計に推せるし。
小説はね……個人の好みが強すぎて、売るのが結構難しい。どんだけ売れてるベストセラーでも、ピンとこない人にはあんまり……みたいで。

ー ベストセラーだとすでに持っているというケースもありますし。

虎月堂:そうなんです。そういうのに手を広げだすと、ちょっと訳わかんなくなるんで、あんまりやらないようにしてる感じですね。
たとえば「大津京本の市」だったら絵本が人気あるんですけど、それこそ絵本専門で出てる人も多いし。そこににわかで参入したところで、説得力ないなって感じるんで、そこはナシにしようって思ってます。
ある程度、自分で納得してすすめられるものを並べたいなと思ってますね。

本を売る難しさ・大変さを実感

ー ちなみにこういう活動をされたことから変化とか気づきとか、新しく知ったことはありますか?

虎月堂:はじめてみて思ったのは、本1冊を売るのは大変ってことです。
読者に直接手渡しで売るっていうことを体験してみたくてはじめたんですが、それがなかなか売れない。だから100円の文庫本でも売れたら嬉しいわけですよ。

ー 強引に押したら売れる、ってもんでもないですしね。

虎月堂:自分がそうじゃないですか。いらない本って0円でもいらないですもんね。

ー 興味ない本をすすめられても困りますし。

虎月堂:ものすごく困るし、なんならちょっと負担になるくらいだから。
値段だけじゃないところで難しさも感じますよね。安けりゃいいってもんじゃないっていう。

本売る活動の場と繋がるご縁

ー ほかに活動で繋がりが増えたとか、新しくこんなことがあった、などあればお聞かせください。

虎月堂:「ふうせんかずら」では、同じ趣味の人と出会えたというのがありますね。

ー 共通の趣味を持つ人のハブみたいな場所ですよね。

虎月堂:そうですよね。それは一箱古本市じゃなく「ふうせんかずら」という「場所」だったからで。あそこはコミュニティにもなってて、みんながそこを目指して集まる場所だから良かったなって思いますね。

ー 一箱古本市のときとはまた違う感じで繋がれますよね。

虎月堂:そうですよね。いつでも行ける場所なんで。
いつ行っても誰かがいる訳じゃないけど(笑)……そういう場所があるのは出店者さんたちにとって、いいことなのかなって。そういうのを求めてる人・求めてない人、もちろん色々といると思うんですけど。
それで、今まで全然知らなかった・出会わなかったであろう人たちと話してみて、面白いこともありますしね。
たとえば粟根書房さん……みんな「ばぶ屋」って呼んでますけど、彼とは歳でいったら20ぐらい違うと思うんですけど、同じ京都組だったんでこの半年くらい京都と奈良の往復しながらよく本の話をしました。
「ふうせんかずら」に参加してなかったら、知り合わなかっただろうし、5月の「GIVE ME BOOKS!!」も一緒に出展したんですけど、そういうことができたのはすごく楽しくて、よい刺激になりましたね。
若い人たちの話を聞いたりとか、感覚を生で知るのはかなり面白いですね。

恩人と影響受けた人

ー 一箱で出店されてる方で、憧れている方とか「この人すごいなー、こんなふうになりたいなー」とか思う人はいますか?この人がいたから今の自分がある、みたいな方でも。

虎月堂:まず、秋月堂さんは恩人ですね。
ほかには、棚音文庫さんは「ふうせんかずら」のお店番をしながら、色々と古本の世界のことを教えてもらいました。

ー 本格的に活動するきっかけになった方々ですね。

虎月堂:あと、奈良で最初に出たイベントに誘ってもらったのは、neniqri(ネニクリ)さんっていう方なんですよ。奈良で活動してる人なんですけど、奈良県立図書情報館のイベントで知り合って、その時に本の話をしてたのがきっかけで、声かけてもらったのが初めての出店で。
で、そのneniqriさんは、めちゃめちゃ本好きで愛情のかけ方が違うんですよ。私が失ってるような純粋な感覚で本が大好きで。本に対する向き合い方が良いなって思っています。結構影響受けてますね。
こないだの「GIVE ME BOOKS!!」にも出られてましたけど、奈良きたまちの「まほろし」というシェアスペースで活動されてる人なんですよ。

ー そうなんですね。本当に本が大好きな方で、ご自身の活動をされていると。

虎月堂:そうですね。実際すごい本を読んでるし、尊敬してます。なんか……ウソぽくないっていうか、ホントにストレートに本と向き合ってる人なんだろうな、っていうのは感じます。

その他の活動や今後の展望

ー その他、古本の活動以外にされてることがあれば聞いてるんですけど、何かありますか?

虎月堂:うーむ、特にレコード売ったり、カフェやったりとかしてないですし。本の活動でいっぱいいっぱいです。
もっとこう、気軽に本が読めるコミュニティのような、本は売らなくてもいい場所、みたいなのがあったほうがよいかなとは思ってますけどね。
置いてある本は持って帰っちゃダメだけど、そこで読むのは自由だよみたいな。本は売り物じゃないよっていう場所で。もうちょっと本が身近になる空間があればいいなとは、ぼんやり思ってますけど、でもそれだと売上が発生しないですね(笑)
自分ではじめるほどの甲斐性はないな。

ー 実際にお店とかをやるってなると、難しいですよね。では、とりあえずはこれまでのように、出店活動をぼちぼちやって行けたらという感じですね。

虎月堂:ホントにぼちぼちですね。私の場合は。そんなに遠征しますみたいな余力はないですし。多分、無理したら続かなくなるんで。

ー 楽しむっていうのがないとですね。

虎月堂:そうですね。マストにしてたら多分、すごくしんどいから。

後記

貸し棚への出店と一箱古本市で、これからも無理なくできる範囲で、本を売る体験を続けるという虎月堂さん。
お話のなかで、本と読者が出会い、その手に渡る課程の難しさについても考えさせられました。新刊書も古書も、自費出版本も……販売・発表できる場はあるものの、健全な需要と供給による循環がなされていないと、良質なコンテンツが生まれ・広がりをみられなくなりそうです。

今回のヒトハコさん情報

  • 屋号:虎月堂(とらつきどう)

  • 出店場所:京都、奈良(ふうせんかずら貸棚)

  • 選書傾向:とくに決めずにその場のノリで(ノンフィクション系多し)

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読酌文庫/朔
果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。