Nomu-Yomu paper 第六号【ログ】
この内容は2019年6月1日、2日に姫路で行われましたブックマルシェ本の庭にて配布いたしましたフリーペーパー「Nomu-Yomu paper 第六号」の再録となります。
お酒を飲んで本を読んでる人のペーパー Nomu-Yomu paper 第六号
ついに姫路にやってまいりました。……とか言いながら、GW中に広島は呉市の酒蔵さんにて開催された一箱古本市にも出店したところなので、遠征新記録というわけでもないのですが、一箱出店などとは関係なくとも、姫路に降り立って何かをする機会がこれまでなかったのです。四国や九州に旅行したことはありましたけども。兵庫県は広いですね。伊丹や神戸あたりなら行く機会もこれまでに何度かあったのですが、さらに西の方にも続いていて、大好きなきのさき温泉も兵庫ですが有馬温泉も兵庫ですね。
交通手段を検索すると、いろんなルートが出てきて、どれが自分にとっての最適解なのかがなかなか悩ましく。運賃をとるか、乗換の楽さを取るか、到着の速さを取るか……そしてそれらのどれを重視するのが自分に合っているのか。これを配布している時、無事に姫路に到着して出店準備を終えたベストな自分であることを望みます。
挑戦と挫折と成長の物語
今回は挑戦と挫折と成長が物語のカギになっている小説をいくつか紹介してみたいと思います。
太陽のパスタ、豆のスープ
宮下奈都 作 集英社より刊行
唐突に一方的な婚約破棄を言い渡された主人公の明日羽。激しいショックに見舞われ落ち込んだ彼女は、叔母のロッカにすすめられるまま、ドリフターズリストを作り、勢いに任せて一人暮らしを始めるなど、思い切った行動を取り始める。落ち込み、立ち直って何かを見出し、また挫折を感じ……そんなことを繰り返しながらも少しずつ、自分のこと、自分の周りのことを見つめなおして成長していく明日羽の姿は、時に共感し、時に応援したくなる。私もある事情で落ち込んだ時に読み直した小説です。
タイトルにあるパスタとスープは作中に登場しますが、パスタの方は残念料理として、豆のスープは希望の料理として、という感じです。太陽のパスタ……名前だけ聞くと、トマトたっぷりでスパイスが入ってて美味しそうなイメージなんですが。豆のスープは普通においしいスープで、読んでいると食べてみたくなります。豆料理のキットとかも試したい。
しかし、婚約者がどうしてギリギリのタイミング(式の予約も新居の契約も職場への報告も済んでるのに)で婚約破棄してきたのかはハッキリと作中に出てこないため、こういう部分がスッキリしないとモヤモヤして落ち着かない人には向かない小説かもしれません。
今日のハチミツ、あしたの私
寺地はるな 作 角川春樹事務所より刊行
同棲している絵描きの恋人・安西との関係が心地よく、悩んだ末に彼からの事実上のプロポーズを受け入れることにした碧。仕事を辞め、二人で住んでいた家(といっても碧が住んでたところに安西が転がり込んできたのだが)を引き払い、彼の実家に移ることになったはずなのに、安西の両親には話が通っておらず……挙句、初対面である安西の父親からは安西ともども無能呼ばわり。その撤回を求めた碧は、知らない土地で足掻くように行動を起こし、出会い、助け・助けられていくうちに、自分の居場所を見つけていく。そして安西とは疎遠に……。
タイトルにもあるハチミツは碧を支え、導いてくれたキーアイテム。思春期に学校で孤立し、拒食状態になっていた時、偶然出会った子供連れの女の人からもらったハチミツが「あさのハチミツ」、安西の故郷だという土地も「朝埜」、また、発言の撤回条件として安西の父親からある養蜂家への借金取り立てを命じられ、その縁で養蜂やハチミツの販売・活用に関わるようになるなど、「太陽のパスタ、豆のスープ」におけるドリフターズリストや豆のようなものがこの物語の「ハチミツ」なのではなかろうか。(巻末の解説を描かれているのが宮下奈都さんなのも興味深い!)
とりあえず恋人の安西氏はわかりやすくダメ男。そして碧もそんな彼に強く言えず、彼は繊細な性格だからとズルズル甘やかし続けてしまったのが、時間の損失といえなくもない。その意味では「無能」なのだろうけれど……それでも必死に自分の居場所を見つけ、自分にできること、自分のしたいことを見つけていく姿は読んでいて応援したくなる。
また、碧をを助けてくれる、朝埜市の人たちもそれぞれに魅力的です。そしてハチミツが欲しくなります。
週末の人生 カフェはじめます
岸本葉子 作 双葉社より刊行
タイトルからして、土日だけのカフェを始めた主人公とそのお店に来てくれる人との交流物語……と思っていたら、開業するまでのあれやこれやが結構しっかり描かれており、開業にこぎつけるまでに関わることになる人たちとの話が中心。
主人公の正美は四十代独身、両親はすでに死別で天涯孤独ながらも、自分の身の丈に合った暮らしをしている。ある縁で知り合った老人のムツはサザエさんの家のような、となりのトトロに出てくるサツキとメイの家のような、和と洋が織り交ざったかわいいお家に一人暮らし。娘夫婦から同居をすすめられている。とうとう、娘のところに身を寄せ、家を売る決断をしようとするが、売り払えばきっとこの家はあっという間に取り払われてしまうことを残念に思った正美は一大決心し、この家を借りて週末限定のおにぎりカフェの開業を持ち掛ける。
あぁ、こういう流れでカフェがはじまるのか……と思っていたら、家の賃貸借契約をするにあたって、ムツの娘から待ったがかかり、あれやこれやと折衝が始まる。なるほど、確かに平日は普通に勤めていて土日だけ趣味で、採算度外視のカフェをやるとか胡散臭く見えるだろうし……とまぁ、こんな感じで、何とか家を間借りする話がまとまった後も、飲食店として開業するために必要な改装やら資格の取得やら役所への届け出やらに奔走することになり、やっとお店がはじまるのが話の後半に入ってから。そうか、「カフェはじめます」だから、はじめるまでの展開が中心なんだなと納得。
さて、色々乗り越えて開業しても、お店って、知ってもらわないとお客さんが来ないし、飲食店ゆえのトラブルもあるし……と、順風満帆とはいかないもの。それでも、お店をやってよかったと思える出来事もあり、結末は切なさを感じながらも、いくつになっても夢中になれる何かをはじめるのは悪いことではないのだなと心に残りました。そしておにぎりが美味しそう。糠漬けも欲しくなります。
パンとスープとネコ日和
群ようこ 作 角川春樹事務所より刊行
なお、シリーズ続編は「福も来た」→「優しい言葉」→「婚約迷走中」という順序になります
こちらも主人公のアキコが新しくお店を始める物語。ただ、お店は母親から相続したものを自分がやりたい形にしていくというもの。そしてネコとの日々。
アキコの母親がやっていたのは大衆食堂という感じで、雑多にいろんなメニューがあり、誰かの家でダラダラとくつろいで、毎夜酒盛りをするような感覚の場所。でもアキコはそんなお店を快く思っておらず、自分がやるなら内装はこざっぱりとシンプルにまとめて、料理は素材にこだわって、本来のおいしさを追及した、日替わりのサンドイッチとスープを提供。材料がなくなれば閉店し、毎夜バカ騒ぎはしない。最初は先代のころの常連たちがあれやこれやと意見してきたり、ナチュラルブーム、オーガニックブームに推された感じのお客さんが目立つようになったり、自分の店の形がこれでいいのかと迷うことも。そんな日々を支えてくれるのは、ピンと筋の通った好感の持てる店員のシマちゃんの働きぶりと、拾ってきた猫のタロちゃんとの時間。そしてある人物からのお節介ともいえる行動から、明らかになるアキコの出自についての情報。
話が進むにつれ、ネコとの暮らしにも変化があったり、店員のシマちゃんにも転機が訪れたり……ちょっと穏やかでないところもありながら、それでも淡々と日々を大切に送る様子を描いていて、温かな気持ちになれるお話です。アキコさんのお店のスープはどれも美味しそう。
おすすめのお酒は難しい?
気が付けば、日本酒の人として認知されるようになったのか「おすすめの日本酒って何ですか?」と聞かれることが時々ある。しかしこれ……なかなか良い答えが出せず「好みは人それぞれですから」という玉虫色の回答しかできない自分が悔しい。
好きな銘柄、推したい酒蔵もあるけれど、個人的にはそれにこだわらず広く色々試したい。知らない酒蔵? 聞いたことない銘柄? 大いに結構! 新たな経験ができるチャンスじゃないですか! 知らないものは取り込みましょう! ……と思うので、結局のところ、大きなこだわりなく出てきたお酒をその場その場で楽しんでしまう。そして何より、日本には大小あわせて約1500もの酒蔵が存在し、それぞれが実に様々な銘柄をリリースしているので「これがおすすめ!」とその場で紹介しても、果たしてそれがどこで飲める(買える)のか、という問題があり……。最近は通販などもありますが、同じ銘柄でもスペック違い(本醸造と吟醸の違い、酒米の違い、火入れしてるのか生なのか、原酒なのかアルコール添加か加水してるか、など)があるから難しい。私が思う「○○」という銘柄は、すすめられた誰かが買う「○○」とは違うかもしれない。いや、そもそも、そもそもおすすめを先達に聞いてくる入門者が、瓶入りのお酒を買うだろうか?(いや、ない/反語)
あぁ、日本酒好きを増やしたいのに、ちっとも貢献できないわが身の至らなさが切ない……。
色々考えた末に最近思いついた最適解は「一緒に飲みにいきますか?」……ナンパではない(多分)というか話し上手じゃないから、サシだと沈黙の時間もあり得る(コミュ障)でも、もし出て来た日本酒が「コレ、自分の好みじゃないわ、飲み干せないわー;」ってなっても、安心してください! 私が代わりに飲みましょう。ただし、2杯までね^^
……っていうのを考えたけれど、どう考えてもアヤシイし、ナンパ目的として通報されそうなので、結局、回答に悩むのでありました。
日本酒の普及・広報活動は本当に難しい; おすすめを聞いてくれる人は将来有望というか、日本酒党に引き込みやすいから是非に……と思うのだけど。
2019.6.2 読酌文庫(寝覚の朔)
Twitter:@00dokusyaku00
個人ブログ:月花読酌 http://gekka-dokusyaku.seesaa.net/
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ペーパー内で紹介しました本の書影は版元ドットコム(http://www.hanmoto.com/)より拝借いたしました。
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