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とつげき隣のヒトハコさん5:いつかは故郷で書店開業「粟根書房」さん

今回は「ふうせんかずら」の出店から知り合った、「粟根書房」さん(旧・ばぶるの本屋さん)のお話をお伺いしました。
「ふうせんかずら」のご縁で出会った人の中では京都組……と思っていたのですが、故郷での書店起業を目指し、現在は広島に移って活動を続けられています。

屋号の由来と改名の経緯

― まず屋号の由来などをお聞きしているのですが、粟根書房さんは以前「ばぶるの本屋」というお名前で活動されてましたよね?

粟根書房:正直、活動を始めたときは、ちゃんと屋号を考えてなかったんですよ。「ばぶる」という名前でDJ活動をしていて、Twitterでも名乗っていたので、「ばぶる」がやってる本屋だから「ばぶるの本屋」でいいかと、安直な感じで始めたんです。
それで続けてもよかったんですけど……本を売る活動をしてくうちに、地元(広島県府中市)で本屋を開きたいなと思うようになりまして。本屋を開業するんだったら、もっとちゃんとした名前を付けておかないとなぁと感じたので「粟根書房」に変更しました。

― なるほど、将来的な展望を込めての変更だったんですね。変更後のお名前「粟根書房」はどのようにして決められましたか?

粟根書房:自分の名前に関連させて「粟根」に何かを組み合わせようって考えて、「粟根書店」にするか、「粟根文庫」にするか、色々迷ったんですけど……「ガケ書房」(現・ホホホ座)みたいな本屋にしたいなーっていうのが、どこかにあって「書房」をつけて「粟根書房」となりました。
あと、これは偶然なんですが、私の好きな作家の井伏鱒二の出身地が粟根(広島県深安郡加茂村粟根)というところなんです。だからそこもリスペクト込みで拝借して、井伏鱒二推しで行こうかなという想いもあります。
とはいえ、まだ具体的に開業の予定が決まっているわけじゃないんですが……追々、ですね。開業に必要なことに、今は全然手がつけられていないので、しらばらくはぼんやりと一箱古本市や貸し棚で出店させてもらいながら考えていきたいと思ってます。

現在の活動状況と活動のきっかけ

― 現在広島に移られ、ならまちの「ふうせんかずら」とブランチ大津京の「セルフブックス」の貸し棚2か所に出店中とのことですが、これまでに参加された古本イベントはありますか?

粟根書房:イベント出店は2022年5月に奈良で開催された「GIVE ME BOOKS!!」ですね。それがちゃんと出店した、初めての古本イベントです。
逆に一箱古本市への出店はまだ出来てないというパターンです。虎月堂さんに「こんなんあるよ」って、色々教えてもらって、出たいなーと思ってたんですけど、タイミングが合わなくて出られずじまいでしたね。
さらに今、広島に在住なので一箱古本市のためだけに、関西方面に行くのはちょっとキツイなーという状態です。
なので、これからはできれば中国地方圏の一箱古本市に出てみようかなと思ってます。本屋を開くんだったら、地元での足場も作っていかないと、と思うので。
あとは「ふうせんかずら」に店番をしに行くくらいですね。それだと身ひとつで行って、棚に補充する本を持ち込むくらいで良いので。

― 貸し棚での出店を始められたのは、「ふうせんかずら」と「セルフブックス」のどちらが先になりますか?

粟根書房:先に出店したのは「ふうせんかずら」ですね。

― きっかけは何かあったんでしょうか?

粟根書房:うーん、なんかね、たまたまなんですよ。たまたま「ふうせんかずら」の前を通りかかって。
奈良の京終のほうにある「ほてい湯」さんという銭湯に行こうとしてて、近鉄奈良駅から歩いてて「ふうせんかずら」の前を通りかかって……
「あれ?本屋さんがある?」って思って。
パッと見だと本屋に見えないオシャレスポットに感じたので、最初は表からこっそり様子を伺ってたんです。
そしたら、棚音文庫さんとデンドロカカリヤさんが、中でキャッキャされてるのが見えました。
それで「なんかちょっと、楽しそうかも?」と思って、中に入って本を見て、確か本も買ったんですよ。で、棚音文庫さんに「コーヒー飲めますよ」って誘われるまま座って、飲んでいたら、「棚を貸してるんですよ」とかって棚音さんに貸し棚を紹介されて、「是非やらせてください!」って始めたのが最初ですね。

― 本当に偶然の出会いという感じですね!

粟根書房:その時、自分も本屋をやってみたいなというのがあったんですね。内沼晋太郎さんの『これからの本屋読本』っていう本があるんですけど、その中で「これからは色んな形の本屋が登場して、その人それぞれに合った本屋の形がある」というような紹介をされていて、自分もやってみたいなーって、ほんのり思っていたところに「ふうせんかずら」と出会ったものだから。じゃぁ、もう、やるしかないなと思って、やってみた感じですね。

― その日、その前を通らなかったら、出会ってなかったかも知れないですね。

粟根書房:そうですね。それがなくても、何らかの形で本を売る活動は始めていたと思うんですけど、「ふうせんかずら」からのスタートではなかっただろうなっていう気がします。

選書テーマや棚作りについて

― 粟根書房さんとしての選書テーマというか傾向はだいたい決まっているんでしょうか?

粟根書房:なんでしょうね……その時のノリに応じて、というのが多分、回答として一番近いです。もちろん、自分が良かったなと思う本とか、面白かったと感じる本が割と中心ではあるんですが。
最近はどちらかというと、日本文学が多めかなという感じですね。昭和の文豪から最近の人まで、日本文学をちょっと広くって感じですね。軽すぎず・重すぎず、みたいな……やや重くらいの内容で。

― 芥川賞的な作品や、純文学寄りな作品などですか?

粟根書房:うーん、確かに……あんまりエンタメ作品を置かないので、どちらかというと芥川賞寄り・純文学寄りかもですね。とはいえホラーとかミステリーとかも、割と置いては居るんですけど。
その、「ふうせんかずら」に並んでいる本をぱっと見たときに、他の人がやってないジャンルを置きたいなと思ったんですよ。
で、最初に見ていったときに、手薄だと思ったジャンルがそういう純文学みたいなところで。ストレートな日本文学と、ホラーとかミステリーとか若干変化球気味なところがあまりないかなという風に感じたので、それを意識しています。
でも、どストレートと変化球の緩急が激しいと思ったので、間を縫うように……有川浩を置いてみたりとか、若干、エンタメ・柔らかめのものをちょいちょいと足して。あと、エッセイとかも置いて、という感じにバランスも意識してますね。

DJ活動と棚作り

― DJ活動もされているとのことですが、それが本を売る活動に影響している部分はありますか?

粟根書房誠光社の堀部篤史さん、あの方も確かDJをされているんですが、棚の作り方について、よくおっしゃられてたことがあるんです。
「この本の次にこれを並べて、このジャンルが来たら次はこうして」みたいな、DJ的な感性でミックスして、棚に本を並べるというようなことなんですけど、それは分かる気がするんですよね。セットリストの流れみたいな。
だから、そういう見せ方というか棚の作り方で、今までのDJで培ってきたものを生かして魅力を出せたらとは思うんですけど、なかなか難しいですね。でも、それを意識しながら、棚をいじってます。

活動を通して知れたこと、影響を受けた人

― 本を売る活動を通して広がったことや発見があれば教えてください。

粟根書房:虎月堂さんをはじめ、本に関する仕事をされてる方々と出会う機会になったのは、非常によかったと思ってます。
虎月堂さんは出版社にお勤めですし、『愛と家事』の著者・太田明日香さん(夜学舎)とか、「ふうせんかずら」で棚を借りたことで、書かれる側の人とふれあう機会ができたのは勉強になりました。
私も末端ですが本を扱う仕事をしているので、本やその周辺にどんな方々が居て、それぞれの考え方や行動など、自分とは違うことをされてるのを知れて、自分も幅が広がったかなと感じています。総じて、よい刺激をもらったなーって思ってます。

― ほかに影響受けたなと思う人とか、こうなりたいと憧れる人がいれば教えてください。

粟根書房:えっと、大きく影響受けてるのは棚音文庫さんでしょうね。「ふうせんかずら」で出店を続けるにあたって、精神的な支えになってくれた人なので。
あとは京都の古書善行堂さん。今の自分の本を売るスタイルは、善行堂さんからかなり影響受けてると思います。
善行堂さんは、「ふうせんかずら」に行ったときに山の上の本棚さんから教えてもらいました。「水無瀬駅の長谷川書店さんと、京都の善行堂さんに行ってみたらいいと思うよ」って言われて、それで足を運んだらめっちゃ良い本屋で、善行堂さんみたいな本の売り方をしたいなと憧れてますね。京都に住んでた頃は家が近かったんでよく行ってました。

初めて古本を買ったときのエピソード

粟根書房:それともう1人、影響というか初めて古本を買った瞬間のことで、強く印象に残っている人が居るんです。
中学2年生のときに地元の福山駅で、ワゴンを引っ張って古本を売ってる、怪しげなおじさんが居たんですよ。風貌もよく覚えてないんですけど、身元がよく分からない感じで……その人が古本を売ってるワゴンの中に『蠅の王』(ウィリアム・ゴールディング)があって。近未来が舞台のSF作品で、少年達の乗った飛行機が無人島に墜落して、漂流教室みたいな内容ですね。その本がなんか気になって、手に取ったんですよ。
それで、買おうかどうしようか眺めてたら、おじさんにぼそっと「若いうちにそういう本は読んどくとええよ」って言われて。
あ、そうなんだと思って、それで買ったのが初めての古本で、いまだに覚えてるんですよね。
当時読んだときは、内容はよく分からなくて……若いうちに読んでおいて良かった本なのかも、今になっても正直よくわからないんです……でも、声をかけられて、言われるまま買っちゃった本が、20年間ずっとその時かけられた言葉と一緒に心の中にあったんですよね。それってなんだかすごいことだなって思えて。

― それが本屋をやりたいに繋がっていくんですね。

粟根書房:そうですね。名前も顔も覚えてないけれど、かけられた言葉だけは頭に残っていて、夢だったのかもとも感じるんですけど、実際に買った本もあるので、夢ではない。
なんか、若者達にとって、よく分からないおじさんだけど、勧められて本を買ってみたら、その1冊が人生の大半一緒にあったっていう。自分もそんな存在になりたいなというのはあります。

後記

いつかは故郷での書店開業を胸に秘め、活動拠点を広島へと移された粟根書房さん。開業計画はまだ未定とのことですが、今後の動向も気になります。
また、中学時代の初めて古本を買ったエピソードも興味深い内容でした。
貸し棚への出店は現在も続けておられ、ならまちの「ふうせんかずら」とブランチ大津京の「セルフブックス」に粟根書房さんセレクトの本が並んでいます。

ヒトハコさん情報

  • 粟根書房(あわねしょぼう)

  • 主な出店場所:奈良(GIVE ME BOOKS)

  • 選書傾向:とくに決めずにその場のノリで(日本文学が多いです。少し外してミステリやホラーなども。)

  • 活動内容:同郷出身の井伏鱒二はじめ、広島にゆかりのある作家を推していけたらと思っています。人生に寄り添う一冊をお渡ししていきたいです。

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読酌文庫/朔
果てしない自由の代償として、全て自己責任となる道を選んだ、哀れな化け狸。人里の暮らしは性に合わなかったのだ…。