とつげき隣のヒトハコさん6:印刷&本の店とウォンバット愛「ぽんつく文庫」
今回はひらかたパークの最寄り駅・京阪枚方公園駅の近くに、リソグラフ印刷と本の店を構える「ぽんつく文庫」さんのお話をお伺いしました。
一箱古本市や貸し棚活動を経ての実店舗開業となったストーリーや、印刷と表現したいものへの思い、ウォンバット愛に目覚めた経緯などを聞かせてもらいました。
お名前について
― ぽんつくさんのところは、お店の名前が「ぽんつく堂」で、一箱古本市に出られるときは「ぽんつく文庫」なのですか?
ぽんつく:えっとね、最初に一箱古本市に出始めたときは「ぽんつく文庫」だったんですが、お店を始めようと考えたときに、実店舗は「ぽんつく堂」にしようって思ったんです。
それで今は、一箱古本市に出店するときも「ぽんつく堂」にしてますし、お店を持ってからはそちらの屋号にシフトしてる気がしますね。
なんというか、一箱古本市などの出店活動をしてるなかで「ぽんつく文庫」という名称が、屋号であると同時に私自身を指す代名詞になってきてると感じまして。それで、お店はお店として、別の名称がいいのかなって思ったので「ぽんつく堂」にしました。
― 「ぽんつく」というひらがな4文字は何か由来があるのでしょうか?
ぽんつく:「ぽんつく」は昔の方言で、「まぬけ」とか「ぼんくら」とか、そんな感じの意味なんです。
初めて一箱古本市に出るとき、特別すごい意味のあるような言葉を入れないほうがいいかなと思ったので、最初は「とんちき」とか、そんなのを考えてたんですけど……もっと、パッと意味の分からない感じのほうが面白いかなとも思って。あと、音の響きも可愛い言葉がないかと探したら「ぽんつく」にたどり着きました。
響きも可愛いし、印象に残って覚えやすい。でも、そんな大層なものじゃないですよというような意味も込めて、この名前にしました。
出店開始は奈良の大門玉手箱から
― 実店舗「ぽんつく堂」のオープンは2019年5月とのことですが、それ以前の活動はいつからでしょう?
ぽんつく:一箱古本市のデビューは2017年の11月に、奈良の初宮神社であった「大門玉手箱」なんです。月一くらいのペースで開催されてて、申告したら当日の飛び込み参加もできるようだったので、前日あたりに連絡して出店させてもらいました。
これよりも先に長岡天神でやってる「天神さんで一箱古本市」にも参加申込してたんですけど、一箱古本市としての規模が大きくて身構えてしまいまして……それで、もう少し緊張しないで出られそうなところに、一度参加しておきたいなと思って、一箱古本市の情報サイトを探したら「大門玉手箱」を見つけたんです。
― 「大門玉手箱」は古本に限らず、そのほかの物販もありで初心者さんも気楽にどうぞ、という雰囲気のところですね。
ぽんつく:常連さんも多いけど、初めて来た人にも温かい雰囲気がして、とても居心地良く参加できたイベントです。
居心地の良いイベントは心に残りやすい
― これまで出店したなかで、特に印象に残っている・思い入れがあるイベントはありますか?
ぽんつく:うーん……「天神さんで一箱古本市」かな?
これまでに何回か出てるんですけど、神社で開催するときも開放的で気持ちいいし、ほかの一箱古本市にはない、わちゃわちゃ感があって面白いですね。一箱デビューの舞台として、難しそうかもと身構えていたんですけど、参加してみたらその空気が楽しくて。
― 「天神さんで一箱古本市」は箱主さん同士の交流も多い印象があります。
ぽんつく:フリーペーパー作って出られる方も多くて、交換したりとかね。
あと、彦根の「ひこねウモレボン市」や交野市の私市駅前広間でやった「ヤッホーマルシェ」も、居心地良くて心に残ってます。
印刷機のあるお店ができた経緯
― お店を持とうと思われたのは、どういった経緯なんでしょうか?
ぽんつく:一箱古本市に出始めた頃って、休職してた時期だったんです。回復してきて、ちょっと動き出したいなと思って、出店活動を始めたんですけど、だんだん「もう元の仕事は続けられへんわ」と感じるようになって、辞める決心が付きました。
それで退職金が手に入るってなって、「もう金輪際、一気にお金が手に入る機会ってないだろうから、今やりたいことをやっちゃえ」と思ったのが、お店を持とうと思ったきっかけですね。
で、実は古本屋をやろうというのは後から付いてきたことで、私は輪転機が欲しかったんです。手頃な倉庫スペースなんかを借りて、そこで印刷できたらと思ってたんですけど、枚方って小規模な倉庫や店舗物件が少なくて。
どうせ家賃がかかるなら、印刷と併設してお店もしたいなと思ったんですね。リソグラフ印刷だけじゃ、お店として成り立たないと思ったし。そこで「じゃぁ、古本?」みたいに思いついて、この形になりました。
「ぽんつく堂」の店舗として借りているこの場所は、以前から興味のあった建物で、お店として営業してもいいと大家さんに確認できたので、場所が決まりました。
飲み物も出せるお店で考えてたんですけど……ここで飲食営業するには、相当リフォームしないと許可が下りないから、それはナシにしました。別に本気で飲食ありのお店にしたかったわけでもないので。
― お店を始めるにあたっては、本よりも印刷への気持ちが強かったんですね。
でも、本と印刷なら親和性も高い分野ですし、自分で本を作りたいニーズにも応えられて、良い組み合わせに思えます。
ぽんつく:実際のところ「ぽんつく堂」だけじゃ成り立たないから、今はアルバイトもガツガツやってる状態で。その影響で、フリーペーパーとかZINEとかを作る方向に気力が回らなくなってしまってるのが歯がゆく思います。
お店だけをやってた時期は結構、企画出したり、本作ったりできてたんですけどね。
「どんどん印刷できる環境を持ってるのに私は何をしているのか…」みたいな、焦りはちょっとあります。
本を丁寧に宣伝する本屋さんへの憧れ
― 憧れや目標とする本屋さん・一箱の箱主さんなどはいらっしゃいますか?
ぽんつく:いいなと思っているお店は、いっぱいあるんですけど……なんか新刊書もあって古書やリトルプレス、ZINEもあるっていう本屋さんが好きかもです。
― ぽんつく堂で扱われている本も、古本だけでなく、出版社から仕入れられてる新刊書やリトルプレスもあり、という感じで好みが反映されているのが伺えます。
ぽんつく:うちで扱ってる新刊書も徐々に増えてきてる感じです。
あと、扱われているのは新刊書だけなんですが、素敵だなと憧れているのは大和郡山の「とほん」さんですね。本の宣伝がすごく上手なんです。通販サイトへのリンクを貼るとき、ちゃんと読まれたうえで書かれた内容説明を添えておられるんですよ。
実店舗にはまだいけてないんですが、自分にその本の存在を教えてくれた本屋さんで買いたくて、通販をよく利用してる本屋さんでもあります。
ぽんつく堂で印刷したペーパーを交換する「すりすり会」
― 主催されてる「すりすり会」は、印刷機のあるお店だからこその、面白い取り組みですよね。
ぽんつく:「すりすり会」はコロナの影響で、お店を使ってのワークショップや企画展といったイベントが当面できなさそうだったので、郵送でできるイベントができないかと思ってはじめました。
香川県高松市にある「古本 YOMS」さんが、以前、フリーペーパーの交換会みたいなのを定期的にされていたんです。それはペーパーをお店に持ち込むだけじゃなく、郵送参加もOKになってて。
そんな感じのものをできたらと考えてたんですが、せっかくだから印刷のことも絡めたいと思って、できあがったペーパーを集めて交換するんじゃなく、原稿を預かって「ぽんつく堂」で刷ったものを交換配布するやり方にしようと決まりました。
― 「すりすり会」は今、何回目になりますか?
ぽんつく:先日完成した分で8回目です。
アルバイトを始める前は、2か月3か月に1回ペースで、結構頻繁にできてたんですけど、今は半年に1回くらいのペースになってます。
それで色々作業を簡略化できないか考えて、最近は提出してもらうのは紙原稿に限定して、返送用のレターパックも送ってもらうようにしました。印刷したら返送用のレターパックに入れて管理できるし、誰の原稿がどれっていう紐付けもしやすい。この方法にできたから、これからは少し、頻度を上げられそうかなって感じてます。
― これまでに何人くらい参加されてますか?
ぽんつく:延べ人数は測ってないんですけど、多いときで1回の参加者が30人ほどです。今回の8回目は私を入れて16人で、徐々に減ってきている感じはありますね。コロナが落ち着いたわけではないけど、現実のイベントも交流できるようになってきてますし。
でも、毎回一定数の参加者さんが居てくれて、常連さんもいるけど新しい人も毎回入ってきてて、良い感じに続いてると思います。
― 適度な入れ替わりもありつつ、展開しているイベントなんですね。刷り上がったものを整理して、交換分をまとめて返送という作業は地道で大変かと思いますが、面白い内容ですし、今後も続けて欲しい企画です。
ぽんつく:はい。「すりすり会」はこれからも続けたいと思っております。
ウォンバットの魅力について
― ぽんつくさんといえば、ウォンバットもライフワークのひとつかなという印象なのですが、ハマったきっかけはあったのでしょうか?
ぽんつく:キュンと来ちゃったのは、休職中で弱っていたときに見に行ったのがきっかけです。
ウォンバットが五月山公園に居るっていうのは、前々から知っていて、見に行くこともあったんですけど、それまでは特別には思わなかったんです。
でも、弱ってたときに久しぶりに見に行こうと思って、ホームページを見ていたら「ちびっ子ウォンバットが3匹もやってきた!」という情報が目に入って、まんまとその可愛さにやられましたね。
― ウォンバットのどんなところに魅力を感じましたか?
ぽんつく:なんでしょうね……まずは形、ですかね。
ネコも可愛いし好きなんですけど、ウォンバットはネコと違って全力で可愛さをぶつけてこない感じがいいなーと。
それで歩き方も内股だし、ポテポテした感じのユルさというか、見てる分には危険がない雰囲気というか。もちろん野生なら危険を感じて攻撃してくることもあるんだろうけど、基本的には大人しい感じが良かったんでしょうね。
ZINE制作について
― これまでに色々なZINEを作られてきてますが、最初に作られたのは何になりますか?
ぽんつく:最初は『ウォンバットZINE』ですね。4冊出てるんですけど。
― 4冊も!
ぽんつく:で、『ウォンバットZINE』は売上の一部を寄付っていう目的でやってたので、4冊出せたところで区切りにしました。
― 今までで一番思い入れあるZINEはどちらですか?
ぽんつく:一番思い入れがあるものというと、この『個人的な生理のはなし』ですね。生理ZINEと呼んでるんですけど、これかなと思います。
― そうなんですね。突っ込んで話しにくいテーマでもありますよね。
ぽんつく:ZINEを発行する前に、枚方の喫茶店で「フリーペーパー展をやるので、良かったら出しませんか?」と声をかけられたのがあって、そのときに生理について書いたペーパーを作ったんです。これは生理ZINEにも載せてるんですけど。
で、自分が発信したいというよりかは、みんなはどうなのかなというのを聞きたくて作りました。まずは自分が開示しないと、向こうも開示してくれないだろうと思ったので。
それでペーパーを読んで、興味を持ってくれた方に「ZINEを作るので執筆しませんか?」と声がけしたり、SNSで呼びかけたりしたら10人集まって、2021年の夏に第1号を出しました。今は第2号の執筆をしていただいてるところなので、秋の文学フリマ大阪で出そうと企んでおります。
でも別に、みんなに進んで生理のことを自己開示してほしいと思ってるわけではないんです。もちろん、他の人がどうなのかというのも知りたいけれど、生理の話題に対するタブー感を取り去る、ちょっとした手がかりになれば良いなーという思いがあります。
学生の頃とかは、クラスの友だちと愚痴の延長のように言い合えてたけど、大人になると同僚や友だちと話すって、なかなかできないテーマですよね。性教育で知らされる以上の情報が手に入らなくて。
多分、『個人的生理のはなし』って、最初に目にするとぎょっとすると思うんですよ。でも、そういうのが普通にその辺にあることで、きっかけになればいいなと。
結構、男性の方も買ってくださっているのが嬉しいです。
後記
最近のイベント出店時は、セレクトした古書の販売よりも、印刷やZINEについて知ってもらうきっかけ作りにしたいと思うようになったという「ぽんつく文庫」さん。直近の出店イベント「GiveMeBooks!!」(2022年5月開催)でも、印刷ワークショップを掲げて参加されていました。
「すりすり会」の継続はもちろん、2022年9月開催予定の文学フリマ大阪では『個人的な生理のはなし』第2号も発行予定とのことで、これからの活動にも注目です。