すみ江さんの家出/下の句
すみ江さんは夕飯の時間には戻らなかったので、福と七緒さんには先にご飯をあげて、人間の夕飯の前にご近所をひと周りしました。
日中よりはずいぶん涼しくなったし、日陰も増えたけどまだ交通量はちょっと多いので道を歩いている猫さんはいない。
道路を渡って反対側、朝と昼間の見回りでは寄らなかったほうに入ってみると、朝みかけたシャム系の野良猫さんと遭遇。
朝は「すみ江さんを見かけたら早く帰るように伝えてね」とお願いだけしてしまったので、持ってきたカリカリをお裾分けして、もし見かけたら本当によろしくね!と重ねてお願い。
すみ江さんとは会えずじまいだったけど、完全に日が暮れてからじゃないと動かないかもね、と人間も夕飯をいただき、シャワーを浴びて、夜に備えることにしました。
21時頃。
昨年脱走時に隠れていた縁の下とか自転車の陰とか、家の周囲をマグライトで照らしながら見回っていたところお隣りとの境の塀のあたりに猫さん発見。
ライトの光量では柄までははっきりしなかったけど、座っている姿勢はすみ江さんのシュッとしたシルエットに見えた。
距離にして7、8メートルくらい。
名前を呼んで近づこうとしたら塀の陰に消えてしまったけど、家の近く──玄関まで10メートル弱のところに来るなら家の中に入ってくるのは時間の問題と思われたのですが。
玄関と勝手口を開けたままにして家の中に戻って30分ほど、玄関先で物音がしました。
来た!と思って玄関に向かうとなんだか鈴の音もする。
すみ江さんは首輪断固拒否のタイプなので、鈴の音はするはずないんだけど…とライトを着けるとそこにいたのはご近所の半野良さん、サバトラ柄のみーちゃん。
みーちゃんは家の庭を横切ったりしているのをすみ江さんも窓越しに見てはいるはず。
でもみーちゃんが玄関近くにいたら、慎重なすみ江さんのこと、絶対に家に近づかないと思われたのでみーちゃんにはみーちゃん家のほうに向かってもらうことに。
みーちゃんゴメンね、すみ江さんが入って来れないから今夜は向こうに行ってくれないかな、とこんこんとお願いした。(この間みーちゃんは伏せの姿勢でいたので、やっぱりさっきシュッとしたシルエットで座ってて声掛けたら隠れちゃったのはすみ江さんと確信)
みーちゃんを門のとこまで見送り、私は家の中へ戻ってスタンバイ。
ここからさらに1時間半ほど待ったけど進展なく。
これは明朝、日の出とともに活動開始だな、と仮眠することにした。
居間のソファで寝ることも考えたけど、私の部屋に閉じ込めっぱなしになっている福や七緒さんのことを考えて、部屋のベッドで横になった。
とはいえサックリと眠れる訳もなく。
私の隣にきた七緒さんを撫でたり、福に踏まれたりしながら、おまじないを唱え続けてうとうとと。
立ち別れ いなばの山の みねにおふる
まつとし聞かば 今帰り来む
七緒さんが廊下に出たがって、ドアのあたりでガサガサやってる音で目を覚ました。
玄関と勝手口が開いてるからお部屋の外にはまだ出られませんよ、とか言いながらドアの前の七緒さんを抱き上げると、ドアの外から「ニャ-」と鳴き声が。
七緒さんをドアから離れたところに降ろしてから、そーっとドアを開けて廊下の電気を点けると、そこにはすみ江さん!
でも、ドアの隙間から部屋に入ってくることはなく廊下をうろうろしてる。
だがしかし、ここで逃してなるものか!
いつものカリカリを盛ったお皿をすみ江さんの前に置き、すみ江さんが食べ始めたのを見てから、勝手口と玄関のドアを閉めに走った。
こうしてすみ江さんは無事箱入り娘に戻りました。
あー疲れちゃったーとソファの背もたれの上で平べったくなって、何事もなかったように通常営業に戻るし、ケガどころか汚れたりもしていなくて、あきれるやら感心するやら。
このとき、時間は25時。
午前様とは言え、発覚から24時間以内で解決となりました。
生きた心地がしませんでした。
無事戻ってくれて、本当に良かった。
開いちゃってた網戸は対策してストッパーを付けました。
おまじないは、縋れるものにはなんだって縋りたい気持ちだったので、昨日は上の句だけを書いたものに、無事戻ったので下の句を書き足して燃やしました。
東日本大震災の前の年に保護されたけど、保護された時点で1歳くらいだったという話なので最低1年は外で過ごしていたであろうすみ江さん。
とはいえ、人生──猫生のほとんどをお家の中で過ごしてきたというのに、なんで外に出たいのかしら。
いつまでも元気でいて欲しいけど、元気過ぎるのもなあ、と思う今日この頃です。