宝石の国13巻を読み終えた感想

私が出会った創作物の中で、最も美しい物語だと思った。

本屋で見かけた表紙がキラキラしていて目を引いて、友人にそれを話したら面白いよと本を貸してくれた。そこからは転がるように、全巻揃えて、新刊を首を長くして待っていた。

インターネットの感想では「地獄」だとか「鬱」だとかキャッチーでダークな言葉がよく目につくが、実のところ私は全くそう感じなかった。いつだってわくわくしながら新刊を待っていた。

決して逆張りではない。と、いうのも、私は宝石の国を「とても面白い世界史の教科書」のように読んでいた。特定のキャラクターを「推す」ことも、「気に入る」こともせず、物語として今後どう展開して行くかを最も楽しんでいたからだと思う。

昔、サブカルチャーを研究している人が「キャラクターを楽しむ人と物語を楽しむ人とでタイプが分かれる」と言っていたのをよく覚えている。昨今の「推し活」や「キャラクター商売」を見ていると、世間的には「キャラクターを楽しむ」人の方が多い気がしている。もしくは、「物語を楽しむ」人は目立たないのだと思う。

閑話休題。
私にとっての宝石の国は、ひたすらに「仕方がなく」「美しい」物語だった。宝石たちだけでなく、登場人物全員がどうしようもないような難題を抱えながらも存在していて(生きていて)、問題と向きあっているが、難題ゆえに常識的な行動では解決ができなくて悪戦苦闘している。それに加え、私のような人間では体感することは愚か、正確に想像することもできないほどの膨大な時間を過ごしている。

物語派と先述したが、それは決してキャラクターに感情移入しないということではない。人によるだろうけれど、私は悲しみの共感は強く、宝石の国には泣かされた。
ただ、特定キャラの「味方」にはならなかった。みんな仕方がなかったのだと思う。人間では決して体験できない膨大な時間を過ごした彼らは、人間には理解できない鈍化をしている。(イエローダイアモンドは顕著だった)それは、人間である私とは明確な違いであり、故に自分とは遠い存在だった。

時間という距離ゆえに、「とても面白い世界史の教科書」だと感じた。

表紙の美しさから興味を持って読み始めたが、物語も美しかった。

時間も善悪も問わず、みんなの幸せが自分の幸せと本心から言った石は、間違いなく最も知的な生命体だった。そんな思想を持った生命体しかいない星ならば、間違いなく皆が幸せになるだろう。正しく楽園だ。
あの宇宙に、楽園があってよかった。

私は、フォスも愛されていたと思っている。
ダイヤはカタツムリになったと思われたフォスを元に戻すために奔走した。
ラピスの頭部をつけた時、横たわるフォスに皆優しい言葉をかけていた。
シンシャは幸福の月でも地球を眺め、フォスのことを考えていた。
どれもこれも、フォスは知らないだけ。フォスがいなかったり、眠っていたりしている時に、みなフォスのことを想っていた。これは愛だと思う。そして愛すことは蛮行をも許すことではない。フォスの行いは独善だったから、摩擦が生まれるのも仕方がない。摩耗したフォスにはそうするしかなかったのだけれど。そう、本当に、仕方がなかった。

読者は物語を客観的に見ているからたまに忘れてしまうが、物語内のキャラクターは読者と同じだけの情報を知れているわけではない。フォスが知っていて皆が知らないこと、その逆もある。
宝石の国では、そういったキャラクターが知っていること知らないことを整理すると、そのキャラクターの行動の整合性が美しい話でもあると思う。

(個人的に、宝石たちは体が削れると記憶も削れるという設定が妙だと想った。削れ続けるフォスは、みなのことをどんどん忘れていって、その代わりとでもいうように知らないことを知っていった。自分の本当の願いを忘れてしまうのも無理ない)

仕方がなかったのだと思う。フォスが皆納得できるような方法を思いつけなかったのも、皆がフォスをひとりぼっちで地球に残してしまったのも、月人がフォスを利用したのも、他により良い方法を誰も思いつくことができなかったから。私だって思いつけない。

その中でもみな最善を尽くしていた。ぷーぷの持っていた種が、それを象徴していると思う。月人だって、描写がされていないけれど、フォスの幸福を考えていた。

フォスも皆を愛してた。
どんなに長い間孤独にされても、最後にフォスは「せんせいほめてくれるかな」「みんなに会いたいような」と思った。人間には到底理解できない苦行をフォスが受けることを許容したと言っても過言ではない皆に対して。それほどの深い愛を向けられることを、みなしてきたんだと思う。これは、私がそう思いたいってが大きいけど。

人間とは善悪醜美智愚が混在する難しい生き物だとフォスは言った。
私は、その善悪醜美智愚全部をしっかりと認識したい。悪醜愚はより目立ってしまうけれど、善美智にも同じだけ目を向けたい。

石になりたい。そりゃ無理だってことはわかっているので、石のような人間になろうと思う。
これは無理だってわかっているけど、みんなにもそんなふうになって欲しいな。一緒に楽園を目指そう。


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