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波をチャプチャプかきわけて。
昨日の夜、晩御飯を食べながら地元のローカルニュースを観ていた。
すると地元の海水浴場が今年は海開きをしないという話題を流していた。
昨年までは伝染病の影響もあって閉鎖していたので期待していた人にはいかにも残念なお知らせである。
そこは市内唯一の海水浴場で私も子どもの頃から非常にお世話になった。
幼い頃には祖父や叔父に連れられて潮干狩りに行ったりした。
栄養の豊富な海だったのかかなり大きなサイズのアサリがゴロゴロしており幼児だった私でも簡単に採ることが出来た。
収穫したアサリで母が作ってくれた酒蒸しの出汁の美味しさは今でも忘れられない。
やがて小学生になると友達と一緒に海に出かけるようになった。
炎天下に自転車のペダルをこいでえっちらおっちらと向かった。
海に着くとすぐに着替える。
あらかじめ海パンを履いてきているのでその辺の木陰でパッとズボンとTシャツを抜いて自転車のカゴに突っ込んだ。
それからいい加減な準備運動をして砂浜に飛び出す。
強烈な太陽の光を受けた砂浜は信じられない位熱くてつま先でひょこひょこ歩いて海に飛び込んだ。
最初は少し冷たいと感じる海水の温度もすぐに慣れてきて快適になる。
私はスイミングを習っていたのでそれなりに泳ぐことが出来た。
運動の得意な友達とサメよけネットが張られている海水浴場の端っこまで競争をしたものである。
ネットに掴まって休憩していると監視員のおじさんが小舟でやってきてどうした、戻れないのか?と真剣に聞かれたので大丈夫ですと答えて慌てて泳いで波打ち際に戻った。
そうやって一日中遊んでいるとあっという間に夕方になった。
学校のルールで五時までに帰宅しないといけなかったので着替えもそこそこに自転車にまたがって帰宅の途に就いた。
海遊びと言うのは全身が疲労するものでくたくたになりながら家に辿り着くとそのままうたた寝から本格的な睡眠に落ちることもよくあった。
晩御飯の時間になると兄が私を揺り起こしてメシだぞと言うので半分寝ぼけた頭でご飯を食べたものである。
そんな少年時代からなじみの深い海だが最後に泳いだのは今からもう二十年以上前になる。
社会人になって数年が経った頃で高校時代の友達と街でお酒を飲んでいた。
ひょんなことからあそこの海って今どうなっているんだろうという話題になり行ってみるかという事になった。
シラフの友達の運転で海に辿り着くと街灯がぽつぽつあるだけで薄暗いのっぺりした海が広がっていた。
しばらくは砂浜に座って海を眺めていたのだがお調子者の友達がおい、泳ごうぜと言って服を脱ぎ始めた。
あっという間にパンツ一丁になったそいつは海に飛び込んでいった。
うひぃ、冷てぇと言いながら波打ち際から私に海水をかけてきた。
やりやがったなと思った私も服をその場に脱ぎ捨てて勢いよく飛びかかった。
それから波打ち際プロレスのゴングが鳴った。
ドロップキックやブレーンバスターといった技を次々と出して本気でやりあった。
最終的にバックドロップで海に沈めてやった。
盛大に海水を飲んだ友達は参った参ったと言いながら、おいサメよけネットまで泳げるかと聞いてきた。
子どもの頃に出来た事なので余裕でしょと答えると、じゃあ勝負だと言ってバシャバシャとクロールで泳ぎ始めた。
こんにゃろう、負けないぞと思って追いかけて泳いだ。
すると途中で足がつりそうになってかなり焦った。
遠浅の海とはいえ身長以上に深いところもあり辺りにはうっすらした明かりしかない。
誰も見ていないので万が一溺れたらそれっきりである。
やばいやばいと思いつつ必死で前に進んだ。
するともうダメかもと思った頃にサメよけネットに辿り着いた。
内心死ぬかと思っていたが友達には楽勝でしょと見栄を張った。
それから砂浜まで慎重にゆっくり泳いで戻った。
砂浜で濡れてしまったパンツを脱いでズボンを履こうとしたら散歩中の海外の人に全裸を見られてオーマイガーと本気で嫌がられたのもいい思い出である。
今はもうあれだけ泳げる自信が無い。
あれは間違いなく若気の至りだったと思う。
もしおぼれて土左衛門になっていたら目も当てられない。
無邪気にバカが出来た二十代の頃の懐かしい思い出だ。
そんなバカ仲間とは今でも年に一度くらいは会う。
お酒が入ると若い頃のテンションで騒ぐこともよくある。
しかし最近は親の介護や持病の話などのような中高年の話題もちらほらと出てくるようになりああ、歳を取ったなぁとしみじみ思う。
いつでもパンツ一丁で海に飛び込める若さを持っていたい。
分別なんか無理してつける必要はないのである。
なんてことを考えているうちはまだお尻が青いのだろう。
一体いつになったら渋い大人になれるのか…。
どうにも精神的にはお坊ちゃまな私である。
それがいいのか悪いのか。
せめてスーツの似合うダンディさは身に着けたいと切に思う。
目指せロマンスグレー。