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週に二時間のシンデレラ
今朝もあまり眠れずに四時前起床。
寝起きにもう夜はあきらめたと研ナオコさんの歌の歌詞のようなものが浮かんでくる。
元ネタは漫画家の伊藤理左さんのお子さんが小さいころに授乳で三時間おきに起きなければならないという体験からきているのだが、自分の場合は単純な加齢からきているだけに切ない。
しかしその分夜は寝るのが早いので時計の針が九時を回ると意識がもうろうとしてくる。
若い頃にバリバリ働いていた頃は九時なんて宵の口でそこからが残業の始まりだと思い込んでいたが、あれから環境も変わり世の中が無駄な残業に厳しくなったので遅くまで粘ることもすっかりなくなった。
今は夕方には用事を終えて帰り道にスーパーに立ち寄れる健全な生活を営めているのでありがたい。
週末もしっかりと休めているので体の事を考えると今の環境はとてもいい。
今朝もいつもなら早く目が覚めたら二十四時間スーパーに行くのだが、ふとあることを思いだした。
それは近所の漁港で土曜日だけオープンする直売所の存在である。
営業時間は午前八時から十時までのたったの二時間!
目の前の海で捕れた海産物を漁協のベテランのお姉さん方が手作りで調理して販売している今どき貴重なお店である。
私がそのお店の存在を知ったのは今から十年くらい前、その頃の仕事の関係で地元の珍しいお店や観光スポットを探している時に漁協のお兄さんから、ウチの母ちゃんが週末にお店を出しちょるけぇ覗いてみんさいというので、早速営業日を聞いて伺った次第である。
初めて行った時は場所が分からずナビにも載っていないので迷ってしまった。
それでも海辺だという情報を元にある程度目星をつけて車を走らせていると緑の看板を掲げたプレハブ小屋が一棟あった。
のぼりも看板もない簡素な佇まいで本当にここかなぁと半信半疑でドアを開けた。
いらっしゃーいと元気なお姉さんの声がしたので一安心した。
しかしその日は迷った事もあり訪問時間も閉店ギリギリだったのでほとんど売り切れでめぼしいものは買えなかった。
そこで翌週に仕事抜きで開店時間と同時にお店に飛び込んだ。
お姉さんたちもアンタまた来たんかねと少し驚いていたようだったが、開店したてで商品は豊富にあった。
ここの名物は何といっても海老のかき揚げ天ぷらで、かき揚げの天ぷらの中に海老がゴロゴロとたくさん入っている。
大きさは大人の女性の手のひらよりも大きくてお値段は驚きの一枚180円であった。
とりあえずその時に揚がっていた枚数を買い求めて他にもあれこれ買ったが驚くほど安かった。
帰宅してからお昼ご飯にかき揚げを軽くトースターで炙ってうどんに入れたら極上の海老の出汁が出たかき揚げうどんになった。
妻も大絶賛でそれから数か月に一度足を運ぶようになった。
店のお姉さんたちともすっかり顔なじみになっていたのだが、何がきっかけかは忘れたが徐々に通う頻度が落ちていった。
それから記憶からそのお店のことがすっぽりと抜け落ちてしまっていたのだが、今日不意に思い出した。
何せ十年ぶりなのでまだ営業しているかどうかわからないのでとりあえず朝の七時過ぎに電話をかけてみた。
数コール待って出てきた人の声は効き馴染みのあるお姉さんのものだった。
今日はお店やっていますか?と尋ねると、ああやっちょるよ!と元気のいい返事があったので海老のかき揚げ天を十枚取り置いてもらうようにお願いした。
それから出かける支度をして漁港を目指した。
車で十五分からニ十分くらいの所なのでいたって近所である。
途中で大粒の雪が降ってきて冷えたが、何とか開店前にお店に着いた。
少し早かったので車で待機して八時になったので入店。
するとむこうがこちらを覚えていたようで、あらぁお兄さん久しぶりぃ元気しちょったかね?と声をかけらえた。
私は長年の不義理を謝って方言丸出しの気持ちのいい接客に釣られるようにたこ飯や押し寿司、ひじきの煮物、タコのコロッケなどを次々と買い求めていった。
その間もお姉さんのマシンガントークは止まらない。
私も相槌を打ちながら方言全快で会話を返す。
商品を選び終わって楽しい時間が終わってお会計。
どこにも値札のないお店だが料金は驚くことに十年前と全く変わっていなかった。
海老のかき揚げ天ぷら180円、お惣菜各種は一律250円という今どきあり得ない超お値打ち価格。
支払いも三千円でおつりが来たのでおばちゃん、こんだけ安いとやっていけんのんじゃないん?と聞くとはぁ年寄りの道楽よね~と言って豪快に笑っていた。
必ずまた寄らしてもらいますと話してお店を出て車に乗り込むと揚げたての海老のかき揚げ天の香ばしい匂いがプゥンと香ってお腹が鳴った。
今晩の献立はエビのかき揚げ天うどんとお惣菜各種で決まりである。
うどんは簡単に作ることが出来るし、他の物は温めるだけでいいし今晩は楽勝で極上の美味が味わえると今からウキウキしている。
週に一度しか開かない幻のお店。
地元の人でも知る人は少ないと思う。
とっておきのお店にしておきたいから詳しい場所と店名はヒミツ。
もし山口県に来られることがある方にはナイショでお教えいたしますよ。
トースターで温めた海老のかき揚げ天はサクッ、カリッ、ふわっとしていて絶品ですぞぅ。
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ああ、こりゃビールだねい。
チャーミングでパワフルなお姉さん方、また行きますけぇお元気で!