
射幸心に煽られて
コロナの影響で二年連続で中止になっていた夏のお祭りが今年は開催されるというニュースを耳にした。
普段ならば駅前のロータリーから目抜き通りを一直線に歩行者天国にして盛大に盛り上がるのだが今年は会場を移して規模を縮小して行うようである。
子どもの頃はこのお祭りに積極的に参加していて神輿を担いだり模擬店で接客をしたりして楽しんでいた。
何が楽しいかと言えばやはり屋台である。
フライドポテトやかき氷などの定番から回転焼きや箸巻きなどのこってりしたものが売っているのは胸が高鳴った。
この日ばかりは臨時のお小遣いを貰えたのも嬉しかった。
金額は決まって千円だった。
紙幣なんて普段はあまり手にしないものだからそれだけ興奮した。
小銭入れに丁寧に折りたたんでしまっておくとお金持ちになった気分がしてなかなか良かった。
私がそのお祭りで必ず買っていたのはたい焼きだった。
姉妹のお婆さんがやっている屋台であんこは自家製で生地はもっちりしており端っこはバリがたっぷりついておりパリパリして香ばしかった。
当時で一匹二百円だったと記憶している。
そのたい焼きと模擬店が取り扱っているジュースを買って立ち食いをするのが何とも楽しかった。
まだ資金にもお腹にも余裕があるので次に目を付けたのはくじである。
これも一回二百円で引くことが出来た。
当たりはゲーム機本体という豪気なものでわずかな可能性を求めて安くはないくじを引いたものだ。
大抵は外れの六等賞でヘニャヘニャのゴム人形や軸が狂っており真っ直ぐ回らないコマなんかを貰って何とも言えない気分になったものである。
つい熱くなってここで大半のお小遣いを使う事もよくあった。
まあ今となってみれば数百円で一万円以上する大当たりを引く確率は限りなく低いだろうなと言う事はよくわかる。
ここまでで無駄遣いを含めて千円弱は使っている。
祭に向けて一生懸命貯めたお小遣いと臨時収入を合わせるとまだもう少し買い食いが出来た。
締めに買うのは決まってフランクフルトであった。
お値段もそんなにしなかったと思うがジャンボでケチャップをたっぷり塗ってもらうとそれだけお得な気がした。
パクリと齧りつくとケチャップが垂れるので服につかないように注意して食いちぎる。
脂がジュワッと滲んできて旨味が口の中に溢れた。
それほど高級なソーセージではなかったはずだが祭りという非日常の雰囲気も合わさって何とも言えず美味しかった。
モグモグとあっという間に食べきってしまうとお小遣いをきれいさっぱり使い切ってもうする事が無い。
このお祭りの醍醐味は屋台と花火なのだが、花火は夜に上がるので子ども達だけで見物に行くのは家で禁止されていた。
幸い実家の近所の駐車場から見物することが出来たので打ちあがるまでに帰宅するのが両親との約束であった。
お腹いっぱいにお祭りご飯を食べて大輪の花火を見物するとああ夏だなぁと心の底からワクワクしたものである。
今年は花火があがるのかどうかはまだ分からないが屋台は出てくれるとありがたい。
三年ぶりのお祭りなので盛大に盛り上がって欲しい。
どんよりとした梅雨空の先に楽しみが待っているというのは気持ちが華やぐ。
ドンとあがる大輪の花火を眺めることができますように。