爺さんはモボだったなぁ。
ああ、あれほど楽しみにしていた正月休みが終わってしまう。
世間では今日から仕事始めという方も多いと思うのであまりわがままは言えないがそれでも長期休暇の終わり際というのは寂しいものがある。
今年はあまりどこにも行かないで自宅で過ごした時間の多い正月だった。
豪華絢爛なゲストを迎えて賑々しく放送されるテレビを結構見ている時間が長かった。
もちろん傍らにはアルコールが常にあった。
普段の週末にたまに昼酒を楽しむことがあるが、どちらかと言えばこっそりと飲んでいる。
それが正月という免罪符を手に入れたとたん世間の声が甘くなる。
まあ年始だしたまにはいいじゃないかという空気感がたまらない。
普段の平日の昼間にお酒をかっ食らっていたら大ヒンシュクである。
ああ、今度この解放感を味わえるのはまた一年後かと思うと何とももったいない気がする。
田舎暮らしなのでどこに行くにも車がないと不便極まりない。
なので昼間っからの飲酒はなかなか機会自体がない。
かなり前に亡くなった祖父はお酒が大好きで私が子どもの頃にはほぼ毎日晩酌をしていた。
その頃には仕事もリタイアしていたのでたまに駅前のお寿司屋さんに連れて行ってもらってごちそうになっていた。
その時にまずはビールとオレンジジュースで乾杯してそれから祖父は熱燗をキュッとやっていた。
もともとがお酒に強い方でそのくらいの酒量では全くシラフのように見えた。
私が茶わん蒸しなんかを食べていると祖父はマグロの幼魚のヨコワの刺身を食べて頬を緩めていたものである。
私が成人してお酒を嗜むようになってからは父も交えて三人でよく飲んだ。
たまに私が実家に顔を出すとよう来たのぅと言って嬉しそうにしていた。
私の手土産は大抵は日本酒の一升瓶だった。
日本酒党の祖父には何よりのお土産だったと後年に祖母が言っていた。
もちろん祖父と昼酒にしゃれ込んだこともあった。
土曜日の昼下がりに祖母の漬けた糠漬けをアテに日本酒を冷やでやったものである。
その頃には祖父はお酒に弱くなっていたのであまり飲ませないように私もほどほどで止めていた。
それから十年もしないうちに祖父は鬼籍に入ってしまった。
祖父は私の人生の師匠ともいうべき存在でいろいろなことを教えてもらった。
その知識を子孫に語り継いでいかなければいけないなと最近になって思う。
そんな事を考えていたら今日は祖父も好きだったつまみが食べたくなったので作ることにした。
そうと決まればまずは買い出しから。
今日から平日扱いなのかスーパーの店内は正月の名残を残しつつ普通の営業に戻っていた。
野菜は鮮度の落ちたクタッとしたものが多かったがキャベツともやしをかごに入れた。
それから豚バラ肉と揚げ玉を買った。
後はチルド麺を選んでもちろんお酒も買って精算して帰宅した。
帰ってからうがいと手洗いをとても念入りにして料理に取り掛かる。
まずは副菜から、お正月料理はどうしても野菜不足になるので今日はサラダを作ることにした。
キャベツを千切りにして水に放っておく。
その間に茹で卵を二個作る。
冷蔵庫から卵を取り出して水から茹でていく。
きっかり十二分茹でたらやや半熟めのいい状態に仕上がる。
キャベツの水を切ってそこに油を切ったツナ缶を加えてそこに茹で卵を潰しながら加える。
味付けは塩コショウとオリーブオイルとシンプルに決める。
隠し味に柚子コショウを小さじ少々加えて混ぜたら完成。
次はメインの料理に取り掛かる。
食材の時点で何を作るかわかると思うがそう、焼きそばである。
キャベツと玉ねぎをざく切りにしてもやしを洗っておく。
豚肉も細かく切ってフライパンに油を敷いて炒める。
肉の色が変わったらそこに野菜を加える。
しっかりと焦げ目がつくくらい炒めたら鶏がらスープの素、塩コショウで下味をつけておく。
そこにレンジで温めた麺を投入。
ここがポイントなのだがほぐし水の代わりに日本酒をたっぷり使う。
日本酒は出来れば料理酒ではなく普通のお酒の方が都合がいい。
料理酒は塩が添加されていることが多いので味のバランスが狂いがちになるので要注意である。
フライパンの鍋肌からドボリとお酒を回しいれて麺をほぐしていく。
ちょうどいい塩梅に麺がほぐれたら味付けにソースと気持ち醤油を加える。
仕上げに揚げ玉を投入してよく混ぜたら特製焼きそばの完成である。
さぁて出来た出来たと言いながら居間にご飯を運ぶ。
今日までお正月だとやや強引な理屈をつけて当然お酒は飲む。
口開けのお酒はビールで決まり。
ハピシュとプルタブを起こしてグラスにタッタッタと注ぐ。
いただきますをしてキュイーッとグラスを干す。
クフゥ、今年もお世話になりますとビールに頭を下げる。
ではまずサラダから。
よくかき混ぜてハクッと食べるとツナの旨味が口に広がる。
あえてマヨネーズ味にしなかったことにうん、正解と思いながらもぐもぐ。
何だか久しぶりの生野菜に体が喜んでいる。
ビールの二本目を飲んでから日本酒にチェンジする。
おっと冷めないうちメインの焼きそばを食べよう。
箸でグワッと掴んでモグッと食べるとソースのこってりした味が嬉しい。
日本酒で麺をほぐしているので旨味が濃い。
祖父もこの味には納得だったよなと懐かしく思いながらモリモリと食べたのであった。
今日のお酒はビール二本に日本酒二合という控えめな量でセーブした。
さぁて明日は何を食べようかな。
心機一転まっさらな自分で一年を過ごしたい。
明日は寝坊しないように目覚ましをダブルでセットしておこう。