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こうして二人は出会った
今日7月29日は、私たち夫婦の18回目の結婚記念日。
初めて妻と出会ったのは今から20年前。
あれは三月のまだ肌寒い日だった。
その頃私は前の彼女にフラれてから傷心の日々を送っており、新しい出会いを求めていた。
そんな頃に母親から私の友達のお嬢さんがお見合いをしたいと言っているんだけどアンタ会ってみる?と聞かれたので、すぐにうん会う会うと答えた。
そして迎えたお見合いの日、その日は仕事がなかなか終わらなくて定時にあがる事が出来ずにやや遅刻して待ち合わせ場所に向かった。
一応電話番号だけ聞いていたのでその場で電話をかけると、もう待っていますよという落ち着いた大人の声で返事が返ってきた。
あたりをキョロキョロ見渡すと電話を握りしめた真っ赤なコートを着た小柄な女性が頭をピョコンと下げてきた。
ああ、この人かと思ってどうも遅れまして申し訳ないですと謝ると、いいえ気にしないでと優しく応えてくれた。
時計を見ると午後七時半、お腹が空いてませんか?と尋ねると実はちょっとというのでとっておきの高級居酒屋に案内した。
私は車だったのでお酒は飲めなかったが、彼女はビールが好きなんですよねと言ってお酒を頼んでいた。
ウーロン茶とビールで乾杯して突き出しをつつきながらお互いの自己紹介。
年齢は彼女の方が二つ上で今は東京に住んでいてたまたま地元に帰省してきていたとのことで、母親に熱心にお見合いを進められたので今日は来てみたんですよと話してくれた。
その辺りでお互い敬語を止めませんかと私から提案したらそうだねと砕けた口調になった。
料理が運ばれてくる間にも当たり障りのない会話をしてまずはお互いの人となりを探り合う時間。
とはいえ地元同士なので共通の話題もあってジワジワと打ち解けてきた。
彼女はお酒が好きでビールを水の様にスイスイと飲んでいた。
二時間くらいそのお店でお喋りをして、結構盛りあがった。
二軒目のお店はぐっとくだけた屋台に案内した。
馴染みの大将に、おっ新しい彼女?とからかわれながら改めて乾杯。
二人で軽く餃子ともやし炒めをつつきながらまた話し込んだ。
彼女は少し酔っているのか頬がほんのり赤く染まっていた。
笑うと目が細くなる辺りが私のタイプでドキッとしたものである。
勿論私はお酒は飲んでいない。
少しだけ屋台で過ごしていたつもりが時計を見ると十時半。
そろそろ送らなきゃいけないかなと名残惜しく思っていると、彼女が海が見たいと言い出した。
そこで車を走らせること三十分、近所でも指折りのキレイな海に辿り着いた。
深夜なので辺りには人気はない。
照明も無く辺りが薄暗かったので携帯電話のライトをつけて自然に彼女と手を繋いだ。
もちろん下心が無いと言えばウソになるが酔っている彼女が転んでもいけないのでそちらの心配の方が強かった。
松林を超えて海に出るとまだ肌寒い風がヒョウと吹いていた。
それでも遠くの方に工場の夜景がはっきりと見えてとてもロマンチックな雰囲気だった。
そこで砂浜に腰かけて二人でまた話を始めた。
ここまでである程度お互いの事を知ることが出来ていたが、そこで以前彼女がある劇団の女優をしていたという話がポロリと出てきた。
その劇団の事をたまたま知っていたのであの人が主宰ところでしょと言うと知っているの?とその日一番のリアクションを引き出すことに成功した。
そこから彼女がいかに演劇という物が素晴らしいかという熱弁に耳を傾けた。
思えばその瞬間に二人の距離がグッと縮まったような気がする。
あまり長く話し込んでいると冷えるので海を後にして彼女の実家まで送り届けた。
別れ際に、私は勇気を出してもう一度会ってくれますか?と聞くと少しためらった様子でうんと返事を貰えた。
そこでメールのアドレスを交換してその日はおやすみなさい。
それからメールのやり取りが始まってジワジワと距離が縮まっていった。
お見合いから二週間後私は意を決して彼女の住んでいる東京に向かった。
彼女は私が会いに来るなんて思ってもみなかったみたいで、本当に来るの?と半信半疑だったみたいだが、その時には彼女に自分の気持ちを伝えたかったので新幹線に飛び乗った。
山口から東京に向かう間に緊張で缶ビールを四本飲んでリラックスするように努めた。
ほろ酔いで東京駅について慣れない電車の乗り換えをして彼女の住む町に辿り着いた。
それから駅前で彼女に再会して久しぶり、というとこの間あったばかりじゃないとコロコロと笑われた。
とりあえず立ち話も何だから私の家に来ると誘われたのでドキドキしながらもうんと頷いた。
駅から自宅に向かう間彼女は何だかずっと無言でちょっと迷惑なのかなと思いつつ後ろを歩いて行った。
十五分くらい歩いて彼女の住んでいるアパートに着くと散らかっているよとあらかじめ宣言された。
お邪魔しますと部屋に入るととても綺麗に片付いていた。
とりあえず座ってというのでテーブルの前に座ると彼女がお茶を淹れてくれた。
私の向かい側に座って、さて何でここまで来てくれたの?といたずらっぽく聞いてきた。
私はしどろもどろになりながら、実は今日は正式に告白しにきましたと正直に答えた。
きちんと座りなおして、ウウンと咳ばらいをして好きです、付き合ってくださいと彼女の目を見てストレートに伝えた。
反応が気になって心臓はバクバクである。
彼女はふぅんと気のないような返事をして、その後一呼吸おいてよろしくお願いしますっと元気よく答えてくれた。
この瞬間恋愛が成就して私は天にも昇る気持ちであった。
出会って二回目で告白というスピードスタートだったが、遠距離恋愛の始まりであり二人が一緒に暮らすようになるのはまだしばらく未来の話。
私は初対面から彼女の事を生涯のパートナーだと直感して今に至るが、妻は初対面の私にはまるで興味がなく、お見合い体験が友達との笑い話のタネになればいいかなという軽い気持ちで来ていたと後年になって聞いた。
そんな二人の馴れ初めをつらつらと書いたが、出会って本当に色々あって結婚に至ったのが今から18年前の今日である。
出会ってもう20年になるんだなぁと思うと感慨深いものがある。
妻よ、こんな頼りない男にずっとついてきてくれてありがとう。
感謝の言葉は語っても語り尽せそうにないや。
これまでもそしてこれからも今日も明日も明後日もますます君を好きになるばかり。
永遠の愛を君に。