見出し画像

スタジアムの睡眠

 ジャイアンツは10月2日をもって今年度の全日程を終了した。ポストシーズンという崖に指の先の力だけでぶら下がっていた日々だったが、10月1日のDeNAの横浜戦にて、敵陣の主砲のたった一発が崖にかかっていた指を無惨にも離した。もちろん、その一戦でどうにかしようなんていうことにならずもっと早くからどうにかなっていればというところだろうが、何を言っても結果論に過ぎず、時間は元には戻らないのでこれが2022年のジャイアンツの全てだ。
 翌2日、私は一軍の最終戦ではなく、二軍戦に行っていたが、それはまた別の機会にあげるとしよう。

 ところで、客が退出した後の球場がどうなっているかを見たことはあるだろうか?東京ドームホテルに宿泊して、ドーム側の客室だとみられる時があるが、9月22日に私は、横浜スタジアムのレフトウイング席の後ろあたりに建っている「ダイワロイネットホテル横浜公園」に宿泊した。延長戦や、その日の予報が雨か寒いとのことだったので、その日中に無理に帰らず泊まろうと決め、県民割もあったので宿泊を選んだ。カーテンを開けると目の前がハマスタだ。試合前は周囲の公園も含めて人がひっきりなしに通行しているし、青いユニフォームの人、オレンジのユニフォームの人、家族連れなど様々な人が行き交い、関係車両が出入りしている。

 21時半ごろ試合が終わり、部屋に戻ると、煌びやかなスタジアムからまだまだたくさんの人が出てきていた。ある程度人が減少してくると、スタジアムクルーの上着を着た係員の方や警備員の方が、通路を何往復もしている。トイレにも複数回点検に入っている。万が一そこに人が隠れていたりしたら大変だ。
ゴミ箱もゴミを集めた後二度三度と確認している。人も隠れるだろうし、最後に何か危険物などがないかをチェックしていたのだろうか。この数日後に国内で大きな行事が控えていたので余計注意を要したのだろう。そういえば、いつもかどうかはわからないが、試合中、観客席に神奈川県警のお巡りさんが巡回していた。

 23時30分頃ハマスタの照明は非常灯と横浜公園側を除いてほとんどが消えていた。観客がいなくなってわずか2時間余りでハマスタは闇夜に佇む巨大な建造物となった。先ほどの歓声も、祈りの拍手も、すっかりと過ぎ去り、まるでハマスタが「いや〜やっと寝られるぜ」と言っているかのように静まり返った。ハマスタの前の横浜公園を時々通りかかる人がいるが、眠っているハマスタの前なので仕事帰りの方か、ゆっくりデートのカップルか、2時間ほど前の喧騒などとは無関係に通行していた。
 せっかくの客室なので、カーテンを閉めずに寝たが、日の出とともに目が覚めて見やると、ハマスタはまた「今日は何もないからゆっくり寝られるぜ」といった感じで静かに朝を迎えていた。周囲を散策すると、昨日のDeNAの勝利を派手に祝っていた花火の台も柵の向こうでおとなしくしている。

 コロナ禍とはいえ、徐々に日常が戻りつつある。今季からプロ野球は観客動員の上限を設けなくなった。まだ歌ったり大声の声援はできないが、そこに集う人がおり、拍手をし、脳に染み付いたチャンステーマに合わせて手を叩いたり回したりと、2022年なりのやり方で熱気は上がった。その裏では、こうやってスタッフの方が動き、安全かつ清潔で安心した観戦ができるようにと尽力され、大切に守られているということを改めて知ることができた貴重な機会だった。きれいに片付いて、安心してたまの休みをのんびりしているハマスタを見ると、どの球場も「お疲れ様。今日はゆっくりしてください。いつもありがとう」と頭の下がる思いである。