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19世紀の風景

久しぶりに美術展に行ってきた。

『ランス美術館 風景画のはじまり コローから印象派へ』

静岡市美術館のポスター


フランスのランス美術館のコレクションから、風景画に焦点を当てて構成された展覧会で、特にランス美術館が誇るコローのコレクションから16点が公開されている。1部版画作品も含まれていて、いわゆる『印象派』の前身のような作品が揃った展覧会だ。
思えば、西洋絵画の展覧会はいつぶりだろうか?と考えてしまうくらいには、記憶がない。確実にコロナ前だと思うのだけど、あれかな、クリムト展が最後かな?もしかして。

そんな、ほぼ2年ぶりの西洋絵画の展覧会。
随分前から開催されていたのに、気がつけば終了1日前でした。地方の美術館だからそこまで混んでなかったけど、都内だったらもっと混んでるぞ、なんなら、コロナ対策の人数制限で入れない可能性あったぞ?と思いながら会場へ向かいました。

良かった〜〜〜〜!!思っていたよりずっと良かった〜〜〜!!
なんでもっと早く見にいかなかったかなぁぁぁぁ、もう一回じっくり見たかたぁぁぁぁ。


 と、心の中で叫ぶくらいには、己の行動の遅さを悔やむ内容の展覧会でした。西洋絵画をきちんと鑑賞するのが2年ぶりだということや、東京の人が多い美術館じゃなく、地方の美術館だということを踏まえても、心が震える作品が多く、絵を見る喜びを思い出した、そんな展覧会でした。

以下、特に心に残った作品です。

【ノルマンディー、牛と羊の群れの帰り道】

 バルビゾン派、コンスタン・トロワイヨンの作品(1856年)。
 道の真ん中を歩く、2頭の牛と3匹の羊、羊の前を横切る黒い犬、動物達の後ろを歩いているのは彼らを飼っている農婦だろうか。とにかく動物の描き方が上手すぎるな、と思ったら、トロワイヨン氏、バルビゾン派の中で最も有名な動物画家なんだそう。遠近法で、後ろにいる人物がそこまでしっかり書き込まれていないのは当然としても、メインの動物達の存在感が圧倒的。道を横切ってる犬が宙に浮いてるのも良い。(走ってる犬は宙に浮く)

【放牧地の羊の群れ】

 『羊のラファエロ』と言われたシャルル・ジャック(1873年)
放牧地に座っている羊飼いと羊を描いているのですが、羊飼いと羊の描き方に差がありすぎる…!羊飼いを中心にスポットライトが当たっているような構図になているのですが、明らかに羊の方が丁寧に描き込まれているし、陰影の表現がすげぇ…ってなりました。背景の木々も、光が当たっているところは木の幹の表皮とそこに生えた草や枝葉の表現も美しく、画面奥の暗く影になっている部分とのコントラストが印象的な作品でした。

【ヨンヌの思い出、サン=プリヴェからブレノーへの道】

 どこまでも続く広い道と青空が印象的なアンリ=ジョセフ・アルピニーの作品(1885年)。近くで見ると油彩なのに、少し離れてみると風景写真のように見えるのが本当に不思議。至近距離で見ても分からないほど微細な色の重なりが、距離を取ることで見ている側の意識の中で混ざりあって立体的な『風景』として立ち上がってくるのかなぁ…などと素人なりに考えてみたり。

【ベルク、船の帰還】

 みんな大好きウジェーヌ・ブーダン。この展覧会では、コローに次いで出品数が多く、第4章はまるまる彼の作品で構成されています。その中でも特にこの作品は重く垂れ込めた雲を割って差し込む光が神々しく、画面が光って見えるのです。解説では、水平線に並ぶ船や画面中央を行き交う漁師の姿に、画家の海辺の風景への愛着がうかがえると書かれていましたが、私はただただ画面中央から差し込む、心の中まで明るく照らしてくれるような明るい光に目を奪われていたのでした。

 これ以外にも、モネ、カミーユ・ピサロの作品も1点づつ、ルノアールは2点、作品を見ることが出来ます。ルノアールは風景画でもなんとなくピンクがかった色味がルノアールだなぁという感じで、コローの作品と比べると色の華やかさの違いが歴然でした。コローの作品がメインな割に、気になったのは全部コロー以外の作品だったというのが素人ならではです。あとは、第3章が版画のみで構成されていますが、こちらもモノクロームの世界ならではの美しさがあります。

 また、牛や羊といった生き物が多く描かれているところも個人的には好きでした。この頃の画家たちにとって、これらの生き物は風景の一部だったのでしょうね。大体において人間よりも丁寧に描かれているところが良かったです。

 本当に、久し振りに王道かつ、間違いのない美術展を見たなぁという感じでしたし、コロナ禍で遠出が難しい現在、19世紀の美しい景色を見ることができて、心がすこしだけ旅行をさせてもらったような気持ちにもなり、とても充実した時間を過ごすことができました。

私が行った静岡での展示は、残念ながら23日に終了してしまいましたが、この後は茨城県近代美術館にて、2月9日(水)から3月27日(日)まで開催される予定だそうです。

お近くの方も、そうでない方も、行けそうな方はぜひ足を御運びになられてはいかがでしょうか。

ゆうちゃんの介護記録の合間に、こうした美術展の感想なんかも綴って行けたらいいな。

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