ビジュアル版 『考古学ガイドブック』
哲学者を思わせる言説も多く,風貌もそれである小野昭さんが,入門書を書くとさぞや難解,と思いきや<あるある>で膝を打った。
「いいわね,あなたは,趣味が職業で・・・」
私もしょっちゅう掛けられる言葉で「いや,まあ、その~」と卑屈に口ごもるが,小野さんほどの人も,どうやらそう言われることがわかる(笑)。
2頁見開きの解説文に新泉社らしいビジュアルなグラフィックス,頁をめくっていてとても楽しい本である。コンテンツをあげておく。
01 考古学・考古学者とは
02 なぜ発掘調査がおこなわれているのか
03 考古学は3Kな仕事?
04 発掘は最大の武器
05 土器の編年が考古学を鍛えてきた
06 さまざまな時間感覚
07 考古学の「時間」
08 「同時に存在した」ってどういうこと?
09 どうやって「時代」を区分しているのか
10 私たちの朝の食卓が後世に発掘されると
11 実測図に惑わされるな
12 分布論に冒険する
13 比較の大いなる可能性
14 復元とそれを確かめるには
15 文化財は残ったのではなく作られる?
16 太古の人骨のあつかいに制限はあるのか
17 分布の広がりと国家
18 多様化・国際化する考古学
19 私の歴史? 他者の歴史?
20 考古学者が書いた歴史は面白くない?
21 遺跡は誰のものか
考古学という幅広い学問領域を,たかだか96頁の冊子(しかもA5)で述べるのは,なにを扱い,どう切り捨てていくのかという点において,至難の業である。しかしこの書では,バランス良く項目が組み立てられ,しかも著者がこれまで追求してきた分布論や比較考古学にもうまく言及され,紛争と文
化財,国際感覚や人権的な視点も盛り込まれた。
この紹介を書いている今,本書はアマゾンの考古学部門3位である。これは多くの方が手にするに違いない。初学者の入門テキストにはこれ以上ない本だからである。
新泉社 2020年10月刊 96頁 1600円+税
【堤 隆】