香坂山遺跡 【旧石器電子辞書】<こ>
奈良文化財研究所 国武貞克
【位置と立地】
香坂山遺跡【こうさかやま いせき】は、長野県佐久市大字香坂字香坂山1番地(北緯36°16′22.91″、東経138°34′59.21″)に所在する。黒色緻密質安山岩の原産地で著名な八風山の南麓の標高約1080mの尾根上に立地する。
【発見と調査】
日本道路公団による上信越自動車道の第2トンネルの立坑の地上部施設の建設事業に伴い、(財)長野県埋蔵文化財センターによって平成8年に試掘調査が実施されて旧石器時代の遺跡と確認されて新規に香坂山遺跡として登録された。引き続き、翌平成9年に本発掘調査が実施された。
【石器群と位置付け】
平成9年の本発掘調査では、AT下層のPm-4(八ヶ岳第4軽石;約3万4千年前)のパミスを包含する層準とその下層から石器が出土した。石器390点、礫28点という小規模な石器群である。貝殻状刃器/台形様石器が18点、石刃10点、鋸歯縁状削器3点、厚刃掻器4点、石錐1点、二次加工剥片3点、石核11点、礫器1点が主たる石器である。
石器は大きく2か所に分かれて出土した。1か所は地上部施設が建設された地点で、現在の地形ではかなりの急斜面上であり現地表下約5.5mという深さから石器集中が4か所検出された。この地点からは黒色緻密質安山岩を素材とした一般剥片生産によりやや大型幅広の剥片が生産され、それを素材として切断や僅かな調整加工により整形された貝殻状剥片/台形様石器が主たる製品類として製作されている。
もう1か所は、それよりも約40m離れた斜面下部で2か所の石器集中が検出された。ここでは黒色緻密質安山岩による剥片生産に加えて石刃が共伴する。石刃は長さ10㎝を超える黒色緻密質安山岩による大型品や、凝灰岩による幅広で尖頭形態のもの、信州産黒曜石による頭部調整の顕著なものなど、石材や形態に多様性がみられ、これらは搬入品である。
斜面下部の調査区は幅の狭いトレンチによる確認調査であったため石器群の全貌は不明であるが、少なくとも大型で尖頭形態の石刃を携帯していた人々による作業地点であったことが推定される。
両地点の間では接合関係はなく約40m離れているものの、石器検出層準の旧地形は現地形とは大きく異なり約0.3m程度の標高差しかなくほぼ平坦であった。尾根上の地滑り地形による平坦面が選地されたとみられる。また両地点で得られた炭化物の放射性炭素年代は、IntCal13による較正値で、台形様石器群の多い斜面上部では36,029-35064 cal BP、石刃が共伴する斜面下部では35,995-35,058 cal BPとなりほぼ同時期である。この年代は石刃が出土した遺跡の年代としては列島最古の事例のひとつとなっている。
八風山南麓ではあるが、遺跡直下の沢筋には、近接する八風山遺跡群の範囲とは異なり黒色緻密質安山岩はあまりみられないことや、石器製作の内容とあわせて考えると、原産地における生業活動地点のひとつとして理解できる。全貌は未だ明らかではないが、後期旧石器時代初頭の石刃出土遺跡としても評価され、列島における最初期の後期旧石器時代石器群の技術や構造を知るうえで重要な遺跡である。
香坂山遺跡の旧石器
【収蔵と見学】 長野県立歴史館(長野県千曲市)に保管されている。見学は申請が必要。
【文献】
谷 和隆 2001 『上信越自動車道埋蔵文化財発掘調査報告書29-佐久市内-香坂山遺跡』日本道路公団・長野県教育委員会・長野県埋蔵文化財センター
■ 2020年8月 香坂山遺跡E地点 現地説明会(動画全)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?