水洗選別 【旧石器電子辞書】<す>
大正大学 両角太一
1 水洗選別の意義
発掘調査での掘削に際して肉眼では観察されにくい剝片(チップ)類や、玉類、動物依存体や、炭化物といった微細なものを含む資料(以下、「微細遺物」という)は、サンプリングが困難な場合があることから、目的に応じて回収した土壌堆積物の水洗選別が行われる。これにより採集された微細遺物は、顕微鏡を用いた観察や、自然科学的手法を用いた分析がおこなわれ、動物・植物種を同定や、理化学的年代の測定、石器製作の有無など、古環境や遺跡の性格を把握する上で重要な手掛かりとなる(文化庁文化財部記念物課・奈良文化財研究所編2016)。
2 水洗選別の手順―香坂山遺跡の事例―
水洗選別法には、「水洗フルイ選別法」と、「フローテーション法」がある。ここでは、令和2年8月に長野県佐久市香坂山遺跡(後期旧石器時代)の発掘調査において実施されている水洗選別の事例を紹介する。
水洗フルイ選別法 水を用いて土壌の分離を促し、フルイで限定した大きさの微細遺物を抽出する選別方法である。散水ノズルのあるホースリールを用いて、フルイに入れた土壌をシャワーの水圧で攪拌していく。流れ落ちた土壌はテンバコ等で回収し、ある程度溜まったところで、水を切り、台車に乗せて廃土する。ローム層など粘性の高い土壌の場合、水圧のみでは、いわゆるダマ(小粘土塊)が残存するため、指圧やブラッシングで取り除く必要がある。また、事前に1~2日程度、水へ浸しておくことで、ダマの形成を防ぐとともに、微細遺物が破損する可能性を低減できるため、作業効果を高めることができる。フルイに残った残存物が洗浄され、水滴の濁りが適度に取れたところで、乾燥用のメッシュカゴへ移して天日干しを行う。洗浄後、発見された微細遺物をピンセット等で採集(図1)し、設定した項目ごとに分類を行う(図2)。
フローテーション法 比重の軽い種子や炭化物などの微細遺物が浮遊する性質を利用した選別方法である。容器に適量の土壌を入れて、水がこぼれないよう注意しながらシャワーで土壌を攪拌(図3)し、浮遊した炭化物を垢取りネットで採集する(図4)。対象とする土壌が多い場合は、水洗フルイ選別法で土壌を攪拌する際に、平行して行うことで効率的に作業を進めることができる。
3 主な道具
ホースリール(散水ノズル付き)、フルイ(直径:300㎜、網目サイズ:約2~3㎜)、テンバコ、メッシュカゴ(乾燥用)、垢取りネット、ピンセット、ケース(微細遺物用)、台車、その他
参考文献
文化庁文化財部記念物課・奈良文化財研究所編2016『発掘調査のてびき―整理・報告書編―』同成社
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