Mリーガーの一打③その2(10/19第2試合:滝沢選手の猛攻とMリーグの重圧)
こんにちは。カザラキです。
さて、前回の記事では「若手選手間での闘い」と題し、プレイヤー同士の虚虚実実の駆け引き、つまり「だまし合い」の様子を書いてきました。例えば園田選手の独自の手順や、石橋選手のまさかの赤5筒切りリーチなどが麻雀界を震撼させました。そして東2局1本場、滝沢選手が意外とも言える、2つ鳴いての1000点をツモアガリしたところで記事は終わりましたが、今回は東3局の流局をはさんだ、東3局の1本場からお送りしたいと思います。
点棒状況は以下の通り。
園田選手 43400点
石橋選手 28000点
滝沢選手 7300点
白鳥選手 19300点
今のところ園田選手が点棒を持っていて、その下は縦長の展開。ということは全体的にあまり安手を狙わずに高打点寄りになっていくと思われますが、逆に言えば先ほどの滝沢選手のようなかわし手も意味を持つとも言えます。そんな状況で、各選手はどのような大局観を持ちながら試合を進めていくのでしょうか?
それでは、今回もGAME START!!
東3局の1本場。先ほど上手くかわし手を決めた滝沢選手を横目に、白鳥選手が最初の聴牌を入れます。ダマでも満貫、リーチして高めでアガれば跳満の1−4筒待ちを積極果敢にリーチ。ダマなら簡単に出てきそうな待ちで、巡目も終盤に近づいているということでダマにするかリーチをかけるか少考しましたが、やはりトップを目指すにはリーチの一手。そして…
2巡後に会心の3000.6000点!!これで白鳥選手は31200点の2着になり、トップの園田選手までわずか9100点差にまで迫ります。
さてここで白鳥選手について簡単に紹介すると、白鳥選手は日本プロ麻雀連盟所属の34歳。最年少でA2リーグに昇級すると、その後麻雀マスターズやモンド杯といったタイトルを獲得、戦術本も執筆するなど、マルチに活躍するプロと思っている方も多いと思います。そしてそのビジュアルの良さも後押しして、ドラフト2巡目でアベマズに指名され、順風満帆の麻雀プロ人生を送っている、そんなイメージもあるのではないでしょうか。
しかしMリーグ1年目、白鳥選手にまさかの現実が突きつけられます。自分より経験や実績の少ないMリーガーがいる中で、レギュラーシーズン–313.8pの最下位。これは本人も流石にこたえたのではないかと思います。そしてこのような指摘も耳にします。「Mリーグには実力ではなくビジュアル/エンターテインメント枠で選ばれた」と。実際に今のところはまだ所属団体の最高リーグに昇級したことがなく、中堅選手と比べればタイトル数も少ないことから、Mリーガーであることでのプレッシャーや責任感は想像に難くありません。
ただそんな境遇にもかかわらず、公の場では明るいキャラクターを崩すことなくチームやMリーグの雰囲気を盛り上げる、そんな彼の振る舞いには麻雀プロとしてのプロフェッショナル精神さえ見られます。だからこそ彼を応援するファンも増えたのではないでしょうか。そしてそのまま打ちのめされずに前進し続けた彼は麻雀の神様のおぼしめしを受けることになります。
ーーーG1タイトルの一つ、發王戦優勝。そして気持ちを新たに臨んだMリーグ2019でもレギュラーシーズン第4位(290.2p)。ここで改めて自分の実力を示し、汚名返上を果たすのでした。
しっかり麻雀で結果を残し、プライベートでもサクラナイツの岡田選手という伴侶を得た2019年に続き、2020シーズンを更なる飛躍の年とできるのか。2018年のような悪夢のシーズンにならないように、早めに初トップを獲得したい白鳥選手が、東3局で非常にいい位置につけました。
ということで、話は再び卓上へ。
東4局、白鳥選手の親番。2巡目にオタ風の南を仕掛け、6巡目には滝沢選手が切った4萬もチー。9索を切って早くも中ホンイツの一向聴となります。
これに困ったのが白鳥選手の上家の滝沢選手。鳴かせたくないけれど、自分もまだオリたくはない手格好。3萬を切れば七対子の一向聴ですが、槓子使いの3萬を下家の親に2枚打つのも気が引ける…どう打つのがいいのでしょうか?
滝沢選手の答えは打東。ドラが重なっての七対子の可能性も残しつつ、対々和やメンツ手も見ながらの一手。確かに1巡目に東が切られていて、2巡目に南を鳴いていることから、途中で重なったりしていなければ通る牌ですが、それでも少し怖いところ。やはり今までとは少し異なる、攻める姿勢が見られます。
しかし次巡、ツモ8萬。またいらない萬子を引いて、ここでオリるかと思いきや、、3萬を暗槓!!そしてリンシャンで引いてきたのが…
ドラの8索。もうチートイはできないのに、、ということで何か嫌な感じを受ける人もいるかもしれませんが、滝沢選手はまだまだチャンス手と感じたのでしょう、8萬をビシッと押すのです。そして次に引いたのが、、、
絶好の5萬。そして四暗刻の一向聴に!!1枚切れの2筒を落としていきます。
同巡、白鳥選手も聴牌。滝沢選手がポンする北を手に残し、新ドラの發を打ってよりアガリやすい聴牌に受けるのですが…
次の園田選手がさっきまで止めていた6索を手出し!!
本人は「(滝沢選手に対する)危険牌の先打ち」というコメントをSNSに残していますが、では何故、今聴牌していない(可能性が高い)ことがわかったのでしょうか。それは解説の内川選手も言っていましたが、滝沢選手の手出しの2筒にあります。5筒と3筒を少し前に切っているのに今2筒を切る、それは2筒に関係ある牌が残っていることに他なりません。
しかし筒子の下の方はほとんど切っていて、1筒もポンしていない、ということは2筒は対子落としか、暗刻からの1枚切りに他ならないのです。そして何より大切なことは、滝沢選手の点棒的に、聴牌すればリーチが来る可能性が高い、さらに危険牌を打っている滝沢選手からは近いうちに高打点and/or アガリやすい聴牌が入る、そんな考えからここで危険牌の6索を先切りしたのだと思います。
そんな思惑から飛び出た6索。出ても跳満、ツモれば倍満の聴牌なら四暗刻を狙わない方が現実的。しっかり滝沢選手はポンを入れてドラの8索と北待ちで聴牌します。ん?北待ち?確かそれを1枚持っている人がいたような…そう、白鳥選手。手変わりがあれば振り込みの可能性がある、そんなふうに思っていると、、、
白鳥選手にとっては多少ラッキーだったかもしれませんが、それでも心に突き刺さるような滝沢選手の4000.8000点。
会心のアガリを決めた直後に浴びせられた倍満の親っかぶり。もし發ではなく北を切っていたら違う展開になっていたかもしれない、そんな可能性も考えていたかもしれません。この時の白鳥選手の表情はなんとも苦しいものがあり、少し余裕がなくなってきた、そんな印象がありました。Mリーグという大舞台、そこで感じる緊張感は想像以上のものがあるのです。そして次局、更なるプレッシャーを白鳥選手は感じることになるのですが・・・
兎にも角にも、滝沢選手が一気に息を吹き返し、2着争いが激化したところで、局面は南場へと移っていくのです…。
**********************************
ーーー南1局。白鳥選手に勝負手が訪れます。ドラの1筒が対子、赤も1枚ある一向聴。好形変化は見ずにテンパイチャンスが最も多い4索打ち。7索打ちとしなかったのは、自らの捨て牌を少し変則手に見せるための工夫なのかもしれません。いずれにせよ、4索か7索切りが基本だと思います。
しかしその4索を親の園田選手が赤5索を見せてのチー。手牌はまだバラバラですが…
その後、8索をポン!
さらに2索もポンしてこの形。とりあえず北を切って、、、はい、半分本気、半分ブラフのような鳴きですが、、、
2着争いをしている状況で、万が一にも親のホンイツに振り込んでしまえば致命傷。そんな思いから、白鳥選手はまっすぐ行く6索切りではなく、少し受け入れを狭める2筒打ち。
そして一つ鳴きを入れていた石橋選手もあっさりとオリてしまいます。
しかしそんな中、タイミングよく聴牌を入れたのが滝沢選手。七対子とは断定できない捨て牌と、山に残っていそうな5筒単騎を武器に、前局の勢いのままリーチと出るのです。
これに困ったのが白鳥選手。親の園田選手のホンイツ仕掛けと、滝沢選手に挟まれて、押すか引くか、微妙な判断を迫られます。自分の手は勝負手で、47索はフリテン、2人に通っていない索子も少なくとも1枚押さなければなりません。ただ安全牌が非常に少ないことから1萬押しも十分あるのですが、、
やはり2人に対してまっすぐ行くのはリスクが大きい、そんな判断から唯一の安全牌である4筒を切るのですが、、少なくとも親に1萬は通るので、とりあえず1萬くらいは行っても良かったかもしれません。ただとにかくこれからは、新しい安全牌ができるのを期待する、お祈りタイムとなるのです。
一方手牌が短いにもかかわらずしっかり安全牌を確保している園田選手。東が重なって、少考に入ります。場を見れば中が2枚切れていて、それをサッと切ればいいのですが、アガリや聴牌の可能性や他家が攻めてきた時の対処など、しっかり考慮してから中を切り出していきます。
また、他にその少考に理由があるとすれば、相手へのプレッシャー。今の状況で少しでも自分が聴牌だと思わせることができれば、攻めてこなくなったり、自分を警戒するあまり滝沢選手に放銃して、自分はノーテン罰符を払わなくてもよくなるかもしれません。そしてそんな園田選手の間合いに影響されたのが…
白鳥選手。
1巡前に安牌の發を切り、これが海底=河底の切り番。さて、完全安牌がない中で何を切るべきなのかーーー(下に牌譜を載せておきます。北越せっぷ様、ありがとうございます。)
リーチに通っているのは東のみ。園田選手に通っているのは4萬のみ。筒子はメンツ手の場合どちらも通りそうではありますが、全てドラ。みなさんが同じ立場なら何を切るでしょうか?
かなり追い込まれた表情で盤面を見つめる白鳥選手。そして10秒後、その手から放たれた牌はーーー
ーーー赤5筒。滝沢選手の低い声が響きます。「ロン、12000」。
そう、まさに肺腑をえぐるようなアガリとなったのです。
4人のプレーヤーの様々な思惑が交差した1局は、白鳥選手から滝沢選手への跳満の放銃という形で決着しましたが、和了の瞬間、アガった滝沢選手も、解説の内川選手も、そこにいる全ての人は何とも言えない悲哀に包まれます。
試合後のインタビューで白鳥選手は語っています。この放銃に関しては、滝沢選手の捨て牌から七対子と読めなかったこと、園田選手があまり張っていなさそうだと感じていながら東を打ち切れなかったこと、そしてそれらができなかったほどに精神状態がよくなかったこと、などが理由だったと。
麻雀は情報戦のような一面がある一方で、心理戦という一面もあり、特にMリーグという何万人もの人の目に囲まれての麻雀で平常心で打つというのは不可能です。たった1人でも後ろに立たれて自分の麻雀を見られれば、誰でも多少は緊張するでしょう。そしてその何万倍もの人に注目されているMリーグで、打牌がぶれてしまうのは当然で、そのプレッシャーに押しつぶされて全ての歯車が狂ってしまうことも十分あり得ることなのです。
そしてそんな体験を自らも経験したことがあるからこそ、その場にいる人の間にはある種の悲壮感が漂ったのだと思います。当然それを克服してこそプロという意見もあると思いますし、他のMリーガーも同条件なので言い訳はできませんが、やはり麻雀、特に大舞台での闘いは恐ろしいものだと実感させられます。しかしそういった技術だけではない、メンタルの強さや冷静な判断力を卓上でぶつけ合っている姿も麻雀の醍醐味であって、麻雀初心者でも飽きずに放送を見られる理由なのでしょう。
"What doesn't kill you makes you stronger." というのは私の大好きな言葉の一つで、哲学者ニーチェが残した言葉であるんですが、こういった、苦い経験をしたときにかみしめたい言葉でもあります。それはつまりこういうことです。「あなたを殺さないものは、全てあなたを強くする。」
白鳥選手がこの経験を糧にして更なる成長を遂げるか、それともこの試練に打ち負かされてしまうのか、今後も見届けたいと思います。
というわけで、また長くなってしまいましたため、今回の記事は以上とさせていただきます。また数日後に次回の完結編をお届けいたしますので、またフォローや「スキ」、サポートなどをしていただければありがたく思います。それではまた!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?