『代謝建築論―か・かた・かたち』

書評_039
ADL(慶應SFC松川研究室)
B3 天谷祥吾

書籍情報
発行日: 2008/04/01
著者: 菊竹清訓
発行所: 彰国社

本の概要の説明

建築家である菊竹清訓(1918-2011)は、黒川紀章ら当時若手だった建築家数名とともに「メタボリズム・グループ」を結成し、建築は生物の代謝のように取り替えが利くものであるべきという「メタボリズム(代謝建築)」を提唱した。その菊竹清訓氏の提唱したメタボリズムの根幹とも言える理論が「か・かた・かたち」である。

著者の説明

菊竹清訓(1928〜2011)、建築家,
機能を固定した建築の永遠性を否定し、生物が新陳代謝して変化・成長するように、建築や都市も、機能などの変化に応じて空間や設備を取り替え成長させるべきであるとするメタボリズム建築を形成。
初期の有名な作品としては自邸であるスカイハウス(1958)、出雲大社庁の舎(1963)、東光園(1964)、エキスポタワー(日本万国博覧会)(1969)などがある。

本の要約

著者は建築学において設計の論理が一つの体系を持ったものとして成り立っていないのは、建築学の研究者と実践者としての建築家との間に設計を中心とする正しい関係が出来上がっていないことが原因であると述べている。また、建築家が、現実の場面で設計を単なる建築学の応用と考えてきたこと、そう考えることで設計そのものを突き詰めて問題にすることを故意に避け、責任を建築学にすり替えてきたことが、建築学が社会から遊離していく一つの原因となっていると述べた。

著者は、建築家が秩序ある建築を設計し設計を正しく発展させるためデザインの方法論が必要とされるとしている。その方法論とは、デザインの認識の構造の上に一つの設計仮説を組み立てた。それが「か・かた・かたち」の三段階論である。
「か・かた・かたち」は、武谷三男(1911-2000)という物理学者の「三段階論」<現象論的段階・実体論的段階・本質的段階>を我々が建築を認識するプロセス、あるいは建築を実践するプロセスを三段階に分けで解説したものである。
<か>:本質的な段階であり、思考や原理、建築プロセスにおいては構想の段階。建築物においては、生活や、使用者や敷地の文化など、構想において加味されるもの。
<かた>:実体論的段階であり、理解や法則性、建築プロセスにおいてはその建築の生み出す技術の段階。建築物においては、機能の問題。
<かたち>:現象的段階であり、感覚や形態、建築プロセスにおいてはその建築物の形態。建築物においては、その建築物が生み出す建築空間の問題。

かたちの認識は以上のような三段階の形態から成り立っている。そして、我々はデザインの三段階構造による設計仮説を考えることによって空間と機能の関係について一つの立場を獲得することができる。
しかし設計は認識のみでは成立しない概念である。「か・かた・かたち」を矛盾なく解釈できるだけで、それを発揮できるかは現実に設計という実践において検証されなければ判断できない。
そこで、認識のプロセスと実践のプロセスをそれぞれを一体化した構造として捉える。

認識のプロセス:<かたち>→<かた>→<か>
認識のプロセスは、具体的現象を感じて<かたち>、何故そうなっているのかを共通項や法則性を見つけて理解して<かた>、その本質・原理原則を知る<か>の順番で帰納法的プロセス。

実践のプロセス: <か>→<かた>→<かたち>
実施のプロセス
は演繹法(三段論法)である。まず構想を練り<か>、構想を実践に近付けるために技術的な裏付けなど実体概念で把握しなおし<かた>、具体的なモノやサービスに落としこむ<かたち>を行うプロセス。

この三角構造は<かたち>を問題にする全てのデザインに適用しうるものと考えられる。建築だけでなくデザインの全てが最終的な<かたち>を問題にすることから、この認識と実践のプロセスで捉えたものは究極の設計の論理であると述べられている。

本の批評

本著でサイクル状に「か・かた・かたち」が説明されていたことから自己再帰性があることも印象的だった。これはデザインするという行為を考えると、反省というプロセスの連続だと言える。すなわち、創作の途上において、絶えず自らを振り返って反省し続けなければならなく自分の決断と決定を、絶えず疑い続け、繰り返し後退しながら、進まなければならない。これは、ものづくりの本質を述べると同時に過酷さも表現されている。

また、菊竹氏が提唱していたメタボリズムという考え方は、人口増大や、土地の不足、都市の広がりが制限される中で、建物自体、都市自体が、拡大したり、移動したり、柔軟に変形できるようなものを目指していた。そのモデルとして、生き物の代謝どちらかというと新陳代謝を参考にし提唱されたものがメタボリズムである。
しかしこの活動は1960年〜1970年の活動であり、その後は衰退していった。
例えば、中銀カプセルタワービルの解体工事が2022年4月に始まったことが挙げられる。

中銀カプセルタワー外観
中銀カプセルタワー室内

中銀カプセルホテルはメタボリズムを代表する建築物の一つであったが、老朽化のため取り壊しが始まった。取り壊し以前から、ボイラーの破損やキッチンがない、水道が頻繁に止まるなど入居者を困らせていた。多くのファンがいる一方で、築年数による劣化や環境変化に伴う理由により取り壊す運びになった。(※1より)
これは柔軟に変形できるようなものを目指していたメタボリズムの衰退を言い表している。


議論したい内容

「か・かた・かたち」という考え方は、ものづくりの本質的な概念であると言え、現代まで受け継がれている。
一方で経済効率性や機能性に偏重する建築が主流となってしまった現代において
「環境や自然の変化に対して柔軟に対応する建築は実現可能か不可能であるか」を何に「かち」を見出すか踏まえた上で
それぞれの立場に立って議論したいと考えている。


参考文献・参考資料

『代謝建築論 か・かた・かたち』(復刻版),菊竹清訓,彰国社,2008
『建築文化』「エキスパートに聞く 『か・かた・かたち』へのこだわりを?」,菊竹清訓,彰国社
※1『カプセルタワービル/再生プロジェクト』https://www.nakagincapsuletower.com/
『著書解題 内藤廣対談集2』,内藤廣,INAX出版,2010

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