セヴェラルネス+(プラス)―事物連鎖と都市・建築・人間
書評_029
松川研究室B3 紀平 陸
書籍情報
著書:セヴェラルネス+(プラス)―事物連鎖と都市・建築・人間
著者:中谷 礼仁
出版社:鹿島出版会(2011/3/1)
セヴェラルネス
セヴェラルネスとは、severalとnessを組み合わせた著者による造語である。
以下は本書からの引用である。
"とても簡単なイメージ。
私たちは辻で立ち止まる。目の前に異なった方向へと至るいくつかの道がある。体はひとつ。ゆえにひとつの道しか選ぶことができない。だから確たる理由がない場合、そこに必ず偶然が介入する。
しかし私が進んできた道や生活をふりかえるとき、それはあたかもデザインされていたかのような理由があった気になる。ようは現在を認めることによって、現在を生み出してきた偶然が、必然的なイメージに変形されているのだ。
セヴェラルネスとはそのような、偶然と必然が交錯する人間特有の一瞬の判断の過程である。
似た言葉として「多様性」という言葉がある。しかしその言葉葉世界の複雑さを事後的に表現しているだけである。便利ではあるが、なぜ世界が豊富なのか、その理由をひとことも語っていない。
それに対して、セヴェラルネスはむしろ有限から実に豊富なイメージが生成するというその過程を可能な限り丁寧に語ろうとした。ひとつでもなく、無限でもなく
いくつか
いくつかーーーーーーあること
セヴェラルネス(いくつか性)とは、そんな世界の可能的様態に向けて開かれた言葉である。"
本書は桂離宮、アルカトラズ島、ウィトルウィウス、ピラネージ、アルド・ロッシ、クリストファー・アレグザンダー、ダイコクノシバなどを対象として考察しながら、事物と人々がセヴェラルに連鎖していく仕組みを示している。
先行形態論
全8章の中から「先行形態論」について扱う。
ここではまず場所と空間の違いが定義されている。
・場所は既にある固有な意味や特異な形態が先行している経緯を示すものである。
・空間は白紙状態からの三次元認識やそれに基づく刷新的な計画概念ならびに手法である。
この2つが対立的になる場合、場所は計画への抵抗として働き、空間は新しい計画意志のための概念根拠となる。
また、時間軸上で連続的に2つを捉えた場合、場所は既にある存在の性格であり、空間は今からそこに加えられようとする計画的行為であると言える。
本稿では場所と空間とを、それぞれ、先立つ三次元的存在としての先行形態と刷新的計画のための根拠とみなして実例を扱いながら論考が進んでいく。本稿の中から2つの例を取り上げる。
1つ目にある無秩序な街並みの中に整然と区画されたグリッド状の街区が存在している例を挙げる。
これは歴史を辿ると、古代条里制のグリッドパターンと一致する。
つまりこの地区のスケールや基本形態は古代条里制の地割を継承しており、その上に近代のスプロールが広がってできた景観であると言える。
さらにこの地区は先行形態を意識的に保存してきたわけではないにも関わらず長期にわたって古代条里制が残っている。と書かれている。
そしてこの理由は、近代化に伴う住宅建設などの新しい要求に対して、過去からの敷地が問題にならなかったからである。
"「問題がない」とは、新しい要求に対する先行形態の性格が、その要求の実現に必要なその可能性の幅に収まっていることを示している。こういう消極的な適応関係によって事物が形成される時、それは意識的なものではなく、「問題のなさ」といういわば無意識のプロセスによって、過去と現在とがつながってしまうのである。"
もう1つは広島の例を挙げる。
この論考の出発点は、先ほどの古代条里制が残っている街のように見えざる先行形態が現在の年に影響を与えることは確認できたが、それは都市全体が消滅した例においてはどうなのかと言ったところである。原爆により消滅した都市として広島が扱われている。
広島は原爆を挟んで2つの要素が際立って現れる。
1つは原爆投下以前に存在していた場所。もう1つは投下後の焼け野原に作る、刷新的計画都市である。
この2つを比較しながら消滅都市における先行形態が考察されている。
ここでは細かい経緯は省略するが、新しい都市は基本的には戦前から変わらずに碁盤の目状のパターンのグリッドを持ち、それに加えて戦前にスプロールによってできた街路は整理されて取り除かれた。
その結果、新しい都市は戦前よりもはるか古い近世の街割に似た街路網になった。
"結果として、破壊された広島の都市においては、広島という場所の持つ先行形態は、その影響力が失われていないだけでなく、むしろ本質的に再生後の都市構造を規定していたと言えるのである。"
議論
私は本書の中でも特に、先行形態論での場所と空間の話に興味を持って読み進めていた。
今回の書評ゼミでは、
私が所属している松川研究会における先行形態は何があるのか。
それに対する自分たちの振る舞いと、組織に与える(与えた)影響。
について議論したいと考えている。
参考文献
1.中谷 礼仁『セヴェラルネス+(プラス)―事物連鎖と都市・建築・人間』
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