宇宙をプログラムする宇宙いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を作ったか?

書評_035
松川研究室B2 長谷川愛


書籍情報

発行日: 2022年3月1日
著者: セス・ロイド(著)水谷淳(翻訳)
出版社:早川書房

著者について

 著者のセス・ロイド氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学教授。専門は量子情報、量子計算量子コンピューティングなどのテーマについて一般メディアから科学専門誌まで幅広く寄稿してきた。本書は初めての一般向け科学解説である。以上の説明は本書内から

要約
 第一部の「全体像」では、宇宙とビット。情報とエネルギーの関係。さらに宇宙がどのように計算しているかについての複雑性を物理法則や量子力学的な観点で解説されていた。
第二部の「より詳しく」では、第一部の内容のさらに詳しい話を計算や実例を用いて証明し、さらにこれからの未来どうなっていくのか著者自身の視点で述べられていた。

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なぜ宇宙は複雑なのか?


 本書は、ITとビットの話である。「宇宙」は最大の存在でビットは情報の最小の塊だ。宇宙は巨大量子コンピュータであると著者は述べた。では、一体宇宙は何を計算しているのか?その答えは、タイトルにもあるように宇宙、自分自身を計算している、自らの振る舞いを計算しているとも言える。具体的にはどういうことか。宇宙は誕生と共に計算を開始した。初めに宇宙は単純なパターンを生成した。そこには素粒子が含まれ、そこから物理学の基本法則が確立した。時がたちより多くの情報を処理するにつれ、宇宙はもっと複雑な、銀河、惑星含むパターンを紡ぎ出した。生命、言語、人間、社会、文化が存在しているのは物質とエネルギーに元から備わった情報処理能力のおかげで偶然から生まれたものでない。宇宙は計算すると共に、複雑で入り組んだ構造を難なく紡ぎ出している。そして、宇宙が多様な物体に満ちあふれた、複雑な様相を呈しているのも、宇宙のこの「計算する」能力のためである。

計算する宇宙の仕組み

 本当に宇宙が量子コンピュータならば、我々の周りに見られる複雑性は即座に説明できる。本書では、ボルツマンとタイピングする猿の話が取り上げられている。本研究室の「建築家なしの建築」で例に挙げられていた、文章をランダムに作っていくことを題材として全てのあらゆる文章を所蔵した架空の図書館を描いたホルス・ルイス・ボルヘスの小説「バベルの図書館」と同じ原理である。タイプライターを適当に猿が叩いたとして、ずっと叩き続ける。時間が過ぎれば、そこには聖書もシェイクスピアも含まれると言われてきた。ただそれには多くの時間が必要でシェイクスピアの一行すら書けない。しかし、猿がタイプライターではなくコンピューター(プログラミングのキーボード)を叩いたとしたら、どうなるか。これが著者の考えだ。サルがキーボードを叩くところまでは、上記のモデルと同じだ。猿がコンピューターの前に座りキーボードをランダムに叩き続ける。(PythonやC言語などプログラミング言語何でも)コンピューターは、ランダムな文字列をプログラムとして認識しようとするがほとんどは無意味な配列となりエラーを吐く。長時間打ち続けると、たまに間違って、猿が正しい配列のコードを打ち込んでしまう。そして、そのプログラムは走り出す。猿の叩くコンピューターはエラーを吐き出し続ける。だがまた、猿がたまたま正しいプログラムを打ち込んでしまう。そのプログラムは走り出す。これの繰り返しで長い時間をかけて、小さなプログラム同士が相互に作用し始め、そこにまた新しいコードがどんどん蓄積する。これがセス・ロイドの理論だ。タイプライターではなく、コンピューターを猿が叩けば、意図無しでも複雑な演算処理が始まる。猿はランダムにしか打ち込む能力が無くても、プログラムが書かれて、そこから複雑な出力がもたらされる。後はこの作業を繰り返すだけだ。ここで言う「猿」とは量子ゆらぎであり、「コンピュータ」とは、宇宙そのものだ。「プログラミング言語」は物理法則だ。宇宙は量子のみで構成されており、量子の相互作用は量子コンピューターとして動く。猿がコンピュータをランダムに打って出てきた複雑性が私たちの見ているこの世界と自分自身ということだ。プログラムとプログラムは相互作用して高い複雑性を生む。宇宙はひたすら複雑になる。複雑性はすべてプログラムされ、いくつかは秩序、いくつかはランダムになりうる。(カオスから生まれる秩序の例:バタフライ効果などもあるp.69)これが計算する宇宙の詳しい仕組みである。量子力学の章で述べられていた二重スリット実験の結果と合わせると本当にこの世界はプログラムされたように感じられる。すなわち計算で作られているという視点で物事を考えられるだろう。

終わりに

 宇宙は何十億年もの間ゆっくりとした試行プロセスによって新たな構造の数々を設計してきた。その設計プロセスの中で浮かんだ1つ1つのひらめき(量子的偶然)は上手くいったものといかなかったものがある。また数十億年が経ってそこから生まれたのが我々と万物だ。2つの原子の衝突から生み出された宇宙。2つの原子の衝突は、宇宙の未来を変える力を持っていて実際に未来を変えていると言える。宇宙を一つの量子コンピュータとして捉えることは従来の宇宙を機械として捉える考え方と全く異なり、新たなパラダイムを生み出すのではないかと考えられている。

ゼミでの議題


 高校で物理を選択し、宇宙に興味を持ちこの本を選んだ。一回読むだけでは難しく、メモしながら読んで全体を理解した。この本を読み終えて、私は前回の書評である「形の合成に関するノート/ 都市はツリーではない」と似ている点が多くあると感じた。物事を計算的に捉えている点と複雑化について考えている点である。両者ともデザインと宇宙でテーマは違うが共通してこの2つの点について述べられていることに気がついた。(ここでいう複雑は、セミラチス構造)
本書では複雑性を考えたときに、全てはプログラムされていると著者は述べた。そこで今回の議論のテーマとして、秩序とランダムの2つがあったときに「秩序を壊すランダム(偶然)も計算されているのか?ランダムも宇宙と同じように計算しているのか」について議論できればと考えている。

著者の主張が正しいのだとすると、全てコンピュータプログラムで設計することができるということになる。しかし、宇宙から都市のレベルに落とすと、アレクサンダーのセミラティス構造のようにコンピュータプログラムだけで設計は可能でも、設計と実態の乖離が生まれてしまうのではないだろうか?都市や建築は、もともと不完全さを抱えた進化で補う生物である人間が使うもの、空間(建物やその集合体としての都市)には、プログラムで制御できないランダム(偶然)の発生にこそ、デザインに機能だけでなく、感情や感性(人間の心)を満足させてくれる要素が存在しているのではないだろうか?

参考文献

https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784152088727











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