建築の四層構造ーサステイナブル・デザインをめぐる思考
書評_040
松川研究室B1 新延摩耶
書籍情報
書籍:建築の四層構造ーサステイナブル・デザインをめぐる思考
著者:難波和彦
出版社:INAX出版
著者について
難波和彦(なんばかずひこ)
1947年生まれの建築家。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授。代表作に1994年から続く「箱の家」シリーズ。サステイナブル・デザインに力を入れる。
本著の概要
本著は、現代住宅への批評を基に、これからのサステイナブルな建築デザインとはどのようにあるべきかを、論じたものとなっている。
本の要約
本著は、4部構成となっている。
第1部では、現代の住宅デザインについてサステイナブル・デザインの観点から問題提起がされている。
第2部では、難波氏の過去の論文の再録となっていて、サステイナブル・デザインの前提となる、機能主義や技術主義に対する難波氏の考えを読み取る事ができる。
第3部では、第2部の約20年後に書かれた文章が集められており、さらに洗練されたサステイナブル・デザイン理論が展開されている。
第4部では、サステイナブル・デザインの実例として、「アルミエコハウス」や「箱の家」シリーズが紹介されている。
本書評では、第3部第1章において言及され、また書籍名にもなっている「建築の四層構造」について着目することにする。
難波氏は、「建築の四層構造」の前段階として、第2部第3章「機械としての建築」において、建築を三層で捉える視点を提示した。これはローマ時代の建築家であるウィトルウィウスが建築を「強×用×美」とした定義付けを元にしている。難波氏は「強×用×美」を現代建築に落とし込む上で、「技術×機能×形態」と解釈し、最終的に物理性、機能性、記号性の三層構造とした。
そして、第2部から第3部の間の20年間で「箱の家」シリーズを経験したことにより、難波氏は第一層である物理性をモノとしての目線とエネルギー装置としての目線に分けて考えることを思いついた。その結果生まれたのが、第3部第1章において論じられている、物理性、エネルギー性、機能性、記号性の4つの視点によって建築を捉える「建築の四層構造」という考え方である。物理性とエネルギー性は建築のハードな面を、機能性、記号性は建築のソフトな面を捉えていると難波氏は主張する。
以下に参照した表が、複数の観点から「建築の四層構造」を表したものである。
この表において、最初の列に「建築を見る視点」が置かれているのは、「建築の四層構造」が建築を考える際の視点の提案であることを示す為だという。また、難波氏は、「建築の四層構造」は、建築をデザインへと統合するための「図式」であると述べている。
そして、「建築の四層構造」を用いたデザイン方法論については、デザインは四層全てを結び付ける行為のことを指すとした上で、デザインにおいて四層のどの要素も無視することはできず、又それぞれの要素に優先順位は存在しないと主張する。さらには、通常の建築デザインは機能の決定から始める事が多いのに対して、四層構造の考え方においては、デザインはどの層から始めても構わないが、最終的には全ての層が結びつく必要があると論じている。
本の批評
私は、「建築の四層構造」について軽く触れた事はあったものの、この本を通して初めて理解を深める事ができたと感じている。納得させられた部分が多かったが、同時に疑問を持つ内容も浮かび上がってきた。その中で、最も疑問に感じ、尚且つ興味を持ったのは、難波氏がデザインにおいて四層の要素の間に優先順位は存在しないと主張した点である。
デザインにおいて四層のどの要素も無視してはいけないという主張に対しては同意する。しかしながら、どのデザインにも四層が含まれていることは前提とした上で、それぞれのデザインにおいては優先順位が存在するのではないかと考える。それは四層の全てを均等に実現することは非常に難しく、何か1つの要素に偏ってしまうことも多いのではないだろうかと思うからである。その偏りは時に無意識的なものかもしれないが、設計者が意図的にどの要素に比重を置くかを決定している場合も多く存在するのではないか。よって、四層の要素の間に固定された優先順位は存在しないが、デザインに落とし込んだ時にはその作者によって四層の優先順位は決定されるのではないかと私は主張する。
ゼミでの議題
今回、ゼミで議論したいのは、上記の批評に絡めた議題である。批評において述べた通り、「建築の四層構造」のどの要素に比重を置いているかはそれぞれの設計者によって、またそれぞれのデザインによって変わってくると私は考えている。そこで、皆さんが今手掛けている、もしくは直近で手掛けていたプロジェクトに対して、「建築の四層構造」とされる物理性、エネルギー性、機能性、記号性のどの要素に比重が置かれているかを分析すると共に、自分が今重要だと考える「建築の四層構造」の要素について考察していただきたい。
例として、今回私がデジタルデザイン基礎という授業において制作した椅子について考えてみる。今回の椅子は、難しい構造を解いた事や可動性を実現した事がポイントであった。これを「建築の四層構造」に当てはめると、「物理性や機能性に力を入れて制作した」と言える。一方で、反省点としては歩留まりが悪かった事やユーザーの設定が上手くできなかった事があげられる。これは「エネルギー性や記号性が劣っていた」と言い換えられる。
まとめると、今回私が行った椅子のデザインは、物理性や機能性に優れていたものの、エネルギー性や記号性については劣っていたという結論に至る。しかし、私自身が、今重要だと考えているのは記号性であり、椅子のデザインの分析結果とは異なっている。
このように初学者の私の場合、自分がどの要素を重視するのか等をあまり考えずに進めていった結果、矛盾が生まれてしまった。一方で皆さんの中には最初からどの要素を重視するのかを自分の中で決定した上で、デザインの方向性を定めている方が多いのではないだろうか。重視する要素が明確にある場合には、その要素に着目する理由を共有していただきたい。あるいは、最初に重視しようとしていた要素と違う要素に最終的な比重が傾いたという例や過去の作品と今の作品で重視する要素が変わったという例があれば、是非そういった体験も共有していただきたいと考えている。そのような「建築の四層構造」についてのそれぞれの考え方、捉え方や実体験を共有する事で、「建築の四層構造」についての考えを深めると共に、互いに新たな刺激となることを本議論の目的とする。
参考文献
・『建築の四層構造ーサステイナブルデザインをめぐる思考』 INAX出版
難波和彦著 2009年3月1日発行
・『「箱の家シリーズ」から「新しい住宅の世界」へ』https://www.aij.or.jp/jpn/design/2014/data/2014-award_hakonoie_dtd.pdf 最終閲覧日7月18日
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