平成中村座 姫路城公演 第二部「棒しばり」「天守物語」(5/24追記)

ここにも隠れ十八世勘三郎丈が。
今回は8つしか見つけられず…無念…


「棒しばり」

配役
次郎冠者 中村勘九郎
太郎冠者 中村橋之助
曽根松兵衛 中村扇雀
後見 中村いてう
      中村橋三郎

勘九郎さんの酔っ払いのお芝居が大好きです。いつも本当に酒が香ってくる気すらします。「棒しばり」では激しくくるくるくるくる舞われるのでこちらまで酔いそうに…。橋之助さんもとても好演だったと思います。が、まだ「頑張っている」雰囲気が漂っている気がしてしまったので数をこなして余裕がでてくるともっと良いなあ…とは感じました。でも色々なインタビューなどで、橋之助さんは勘九郎のお兄さんへのリスペクトと平成中村座第三世代の自負を強く感じられる役者さんなので、きっとあっという間にくらいついて追いついてきそうな気がします(ど素人の想いです)

ワタクシ、全体的に後見さんや黒衣さんのお仕事が大好きなのですが、いてうさんの後見は特に好きです。舞台上にいてくれるとものすごい安心感。しゃがんだまま素早く移動(あれ何ていうのかな?)したり落としてしまったものをタイミングを見計らって片付けにいったりするの、みているよりもものすごく大変な気がするのだけれど(身体的にも、舞台全体に気を配らなくてはいけないので精神的にも)、いつもぶれずに美しいのです…。勘九郎さんの汗を拭いたり御髪を直したりする姿も良い…(溜息)

追記(5/24)
素人感想ですが、橋之助さん、気負いのようなものが抜けてさらに良くなっていたと思いました☺️ コミカルなお役って本当に難しいと思うのですが、勘九郎さん扇雀さんとのかけあいも楽しかった



「天守物語」

配役
天守夫人富姫 中村七之助
若き鷹匠姫川図書之助 中村虎之介
亀姫眷属十文字ヶ原朱の盤坊 中村橋之助
岩代国猪苗代亀ヶ城亀姫 中村鶴松
武田の家臣山隅九平 中村かなめ
同 小田原修理 片岡亀蔵
亀姫眷属茅野ヶ原の舌長姥 中村勘九郎
工人近江之丞桃六 中村勘九郎
富姫 奥女中 薄 中村扇雀

もう…もうこれはね…まずは美!圧倒的な美!!

七之助さんの富姫は、舞台上に姿を現した瞬間に客席のあちこちから溜息やら「綺麗…」というささやかな声が漏れ聞こえてくるほどに美しく…。

鶴松さん、見た目に愛らしい亀姫になるのは容易に想像できたけれど(拵えは赤姫なので)、科白回しや仕草、ふとした表情が想像以上に愛らしくいたずらなところもありつつ「あーこのこも妖異だった…」と思わせる怖さもあって良かった。

七之助さん鶴松さんの富姫亀姫、姫それぞれ単体で美しく愛らしい(但し物騒)のはもちろんなのだけれど、富姫と亀姫のやりとりは本当に鈴を転がすようで(「鈴を転がすような声」というと澄んだ美声を表すと思うのだけれど、それとは少し違くてもっところころした…鈴の見た目の愛らしさも含めた可愛らしい感じ…ああうまく言えない…)。富姫亀姫のいちゃこら(但し物騒)って戯曲で読んでいても照れてしまうのだけれど(私だけ?)、もう七之助さん鶴松さんの富姫亀姫ヤバいです。ヤバいです(二度言うほどに)。本当にいつまでもみていたかった…。

勘九郎さんの舌長姥、好きすぎてもう…。ご本人がやりたがっていらしただけあり、さすがの面白さでした。お顔はお化粧のちからももちろんあるのだけれど、表情(顔、姿勢、指の先の)から仕草まで本当に長い長い年月を経ている妖のオババ様。橋之助さんの朱の盤坊もからからとした妖で、女の童たちのやりとりも可愛らしいくて良かった。扇雀さんの薄さん、天守にいるのだからもちろん妖ではあるのでしょうが富姫を見守る雰囲気が母のようでもありとても好きでした。下界から矢を射られたときに瞬時に侍女の皆様が夫人をを守る体制に入るのがとても良かったです。あの矢が射られたり、投げられた小柄がささったりする演技(今回は皿屋敷で山左衛門さんがされていた)、仕組みはわかるのですがいつも見事で凄いなあと感心してしまうのですよね…(細すぎて伝わらない歌舞伎の好きなところ)

そして虎之介さんの図書之助!配役が発表されたときに、何となく『綾の鼓』のお役を思い出し清々しい図書になりそうだなあと思いました。しかし観るまでは七之助さんとのカップルがいまいちイメージできなかったのですが、人ならざる存在の七之助さんの富姫(過去のことから人妻の落ち着きもある)と、まだ肉体的にも若く真っ直ぐで心も美しい虎之介さんの図書之助のバランスが最高でした。

一箇所どうしても客席に笑いがおこるのが理解できないところがあって、あれは何故…?緊迫したなかにも獅子頭の庇護の力もわかる名場面だと思っていたのだけれど…。うーん謎…

お獅子の動きもしなやかで迫力があって素晴らしかった。

突然の桃六の登場はまったく原作通りですが(これが正しくデウス・エクス・マキナってやつですな)、本来なら「うおい!」ってツッコミたくなる話かもしれませんが、虎之介図書之助と七之助富姫があまりにせつなく哀しく真っ直ぐに美しくて、観ているこちら側まで「誰かあの二人を助けてあげてよう…」と感情が巻き込まれているので、桃六ありがとう…ありがとう…と思わず心の中で拝む。からの白鷺城!この美しい人たちにはきっと美しい未来がある…と感動しました。

出だしに美!圧倒的な美!!と叫びましたが、今回の「天守物語」、ただ幽玄で芸術的な美しさというのではない、とても感情を揺り動かす「天守物語」だと思いました。もちろん鏡花のことばの美しさや絵としての美しさはもちろんあるのですが、何だかいとエモしだったのは科白にきちんと感情がのっていたからでしょうか…

追記(5/24) 七之助さん富姫と鶴松さん亀姫のいちゃこらはもう…ずっと一生みていたいのだけれど、早く虎之介図書さまと出会ってほしいというジレンマが…

七之助さんの富姫、亀姫と一緒のときのおあねえさまの余裕、独りになったときの孤独を纏ったような冷ややかな美しさ、そしてラストの初恋の少女のような可愛らしさ…妖として恐ろしく神々しいだけではない色々な表情が本当に魅力的で惹き込まれてしまいます…

原作も阿呆ほど読んでいるし、今回の演出もみているのに、追いつめられた富姫と図書之助が切なくて切なくて涙が出てきてしまい、心のなかで「桃六…はよ来て二人を助けてあげて…」と祈っておりました…

平成中村座飲み処「天守物語」
日本向けに作られた特別なバランタイン17年
トリビュートリリースを使用した
贅沢なハイボール 金粉添え
夜の白鷺城が本当に美しく…



演出的に少し気になったのはシンセサイザーの音楽とドライアイスの組み合わせが、現在では何だか古臭く感じられてしまったこと。生の下座音楽と合わせてみて欲しかった…。そのほうが、作品の和の怪しさとマッチしたのではないかと思うのは自分の好みが多分に入っているせいなのか知らん…


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